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失われた超能力

私が大学生だった頃、通学の電車乗り換えで横浜駅を毎日使っていた。大学に通いだして半年くらいが過ぎた頃から、ある不思議な現象に気が付いた。それは大学からの帰り道、たまに起こるのだった。

私が横浜駅のホームで自宅方面への電車を待っている時のこと。待ち時間の退屈しのぎに、周辺にいる人やそこから見える景色など、何の気なしに観察してみたりするのだが、こういうことを毎日していると、たまに少し気になる人物を見つけることがある。

気になるといっても大したことではなく、服装が少し派手で単に目立っているだけの場合や、やけに難しそうな本を読んでいる小学校低学年の子供であったり、そんな程度の話である。

問題はここからである。

横浜駅で私が密かに注目していた人物のほぼ全員が、なぜか私と同じ駅で降りるのである。子供も大人も関係なく、かなりの高確率でそうなることに気がついてしまったのである。
この不思議な現象に対し、超能力などの非科学的なことは全くといっていいほど信じない自分が、何かオカルティックな能力が自分にあるのかとさえ考えてしまった(自分と同じ駅で降りる人を察知できる、不思議な能力、、、)。

しかし、ある日その謎の理由が分かってしまった。

それは横浜駅で自分が電車を待っている場所が原因だった。私の最寄駅は、ホームの一番端に改札への階段があるため、到着時にそこに近い扉で電車を降りるため、私は横浜駅のホームでいつも電車の一番先頭の位置まで移動し、そこで電車を待っていた。横浜駅から出るその方面の電車で、ホームの端に改札がある駅で、住んでいる人もそこそこ多い駅といえば、自分の最寄駅が最有力候補なのである。

つまり、横浜駅でわざわざ電車の先頭位置まで移動して電車を待っている時点で、自分と同じ目的地で、自分と同じ考えでその場所で待っている可能性が非常に高いというわけだ。
その可能性に気がついてから改めて周囲を観察すると、自分が注目していた以外の人も多くが自分と同じ駅で降りていたし、電車を待つ場所を変えてみるとこの現象は起きなくなった。
なんて事のない、当たり前のことでしかなかったのである。

こうして私は、超能力といった非科学的なものを信じない人間に戻ることができたのであった。
しかし、この謎と向き合っていた数ヶ月の期間、私は毎日の帰り道がほんの少し楽しかったような気がしている。


遠藤紘也
ゲーム会社でUIやインタラクションのデザインをしながら、個人でメディアの特性や身体感覚、人間の知覚メカニズムなどに基づいた制作をしています。好きなセンサーは圧力センサーです。
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