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これを読んでいるということは

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あるビルとビルの間の、とても狭いスペース。
何の気なしに覗いてみると、突き当たりに何か文字が書いてある。

よく読めないので、ズームしてみると、、


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『落書き・立小便 お断り 24時間カメラ撮影中 警察へ提供』

なるほど、と思わずにやけてしまった。


ドラマや映画ではよく、「君がこの手紙を読んでいるということは・・・」といった表現を目にする。

メッセージの内容は、それが書かれた時点では不確実な事態を想定したものであり、それが現実となった場合にのみ相手にメッセージが届く仕組みになっている。

これを実現する上で重要なのは、相手がそのメッセージを受け取っている時点で、何かしらの状態が約束されているということである。

例えばベタな謎解き系によくあるものだと、一つ目の謎を解くと鍵が手に入り、その鍵を使って開けた引き出しの中に、二つ目の謎が書いた紙が置いてある、といった具合である。

これはその引き出しを開けられる時点で、一つ目の謎を解いたことが約束されているから成り立つのである。


改めて冒頭の事例を見ると、この構造を踏まえたメッセージになっている。何もないビルとビルの細い隙間にわざわざ入っていく時点で、ある程度はその人の目的が推測できるわけである。
(念の為書いておくが、私は立ち小便をしようとしてこれを発見したわけではない)

このような「ある状態を前提としたメッセージ」は、うまく使うと相手に強い印象を伴って伝えることができる。
どこかの誰かに言っているのではなく「これは自分に言われている」と受け手が感じ、メッセージの内容を自分ごととして捉えてくれる為である。

工夫なしに情報を発信するとそのほとんどが無視されてしまう広告の世界では、メッセージを印象的に伝える工夫としてこの方法が使われているのをたまに目にする。
うまく使っているものは見事な広告として機能しているように見えるが、注目を集めたい一心でこの手法をとりあえず使ってしまい、残念な結果になっているものも個人的には少なくないと感じる。

冒頭の貼り紙が実際にどれだけ機能しているのかは正直分からないのだが、大通りに面した場所に貼るのではなく、あえて奥まった場所に貼る判断をした人は、この手法の良い使い方をしているなぁと、偉そうにも関心してしまったのであった。


遠藤紘也
ゲーム会社でUIやインタラクションのデザインをしながら、個人でメディアの特性や身体感覚、人間の知覚メカニズムなどに基づいた制作をしています。好きなセンサーは圧力センサーです。
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