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2021年8月の記事一覧

短編小説『相乗り』

短編小説『相乗り』

夜の10時頃、郷田隆吉のタクシーは山手通りを渋谷方面に向かって走っていた。後部座席には、老人男性と若い女が相乗りしている。

老人のほうは戸越駅付近で乗せ、その五分後くらいに西五反田の橋のところで手を上げた女を乗せた。「急いでいるから」と女は半ば強引に乗ってきた。郷田は基本的に相乗りを拒むドライバーだが、この日は売り上げが悪かったことと、女の気迫に負けたこと、老人と方角が同じであったことが重なり、

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短編小説『神の石』

短編小説『神の石』

灰島次郎にとって昭和20年8月15日は、職務に追われる慌ただしい日となった。

玉音放送を署内で聞いてから二時間後、東京都町田市××町の民家で長男が首を刺され殺害されたという一報が飛び込んできたのである。先ほどの放送は果たして戦争終結を告げたものなのか、それとも本土決戦に備えて陛下御自ら叱咤激励されたのか、判然としないまま灰島は部下の池沢直吉とともに現場へ急行した。

現場に着いてみると、庭で男性

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【短編小説】徳川のお面

【短編小説】徳川のお面

小汚いお面を手に帰宅した道夫を、俊子は叱りつけた。そんなガラクタを拾ってどうする、行儀もよろしくない、第一人様のものだったらどうするのだと、ガミガミまくし立てた。空き地のゴミ溜めに放り込まれていたのだから問題ないやい、と抗弁する道夫の声にも耳を傾けず、お面を取り上げた。よく見ると安物のお面ではない。能で使われる小面のようで、伝統工芸品であるのは素人目でもわかった。ただそれよりも、口を小さく開けて何

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