シェア
野田祥久郎
2018年6月16日 00:11
「少し休憩しないかい?」「そうね」と言って岩瀬はゆっくりと歩き出した。近くの大きな公園に入って木陰のベンチを探した。園内にはアリーナや市民ミュージアムがあり、鉄鋼産業を支えたトーマス転炉や、浚渫船のカッターヘッドが屋外に展示されていた。休日の園内は子ども連れの家族やランニングをしている人などで賑わっていた。 自販機でミネラルウォーターを買って渡すと「ありがとう」と言って受け取り、リュックか
2018年6月13日 22:18
「麦わら帽子なんて久しぶりに見たよ」「これがいいのよ。後頭部までしっかり守れるでしょ?」「そうだけど、きみの服装には合ってないよね」 岩瀬は似合わない麦わら帽子と、服装はいつもと同じTシャツ、ジーパンにスニーカー、それと今日は見たことのない黒キャンバスのリュックサックだ。「何を話してたの?」「なんでもないよ。ただの世間話しだよ」 彼女は疑うような目つきでぼくを見たが、それに気付かない
2018年6月13日 00:51
いつから蝉が鳴き始めたのだろうかと考えていた。七月の中旬、下旬だったろうか? それとも気付いた日が鳴き始めだったのか? いつも突然鳴き始めて、そして突然聞こえなくなる。せめて蝉の声が聞こえなくなる日を確認しよう。そんなことを考えていた八月初めの昼下がりに岩瀬から連絡があった。「今年は一段と暑いわね」「そうだね。例年より暑い夏になるって言ってるけど、毎年そんなことを言ってるような気がするよ」