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野田祥久郎
2018年6月13日 22:18
「麦わら帽子なんて久しぶりに見たよ」「これがいいのよ。後頭部までしっかり守れるでしょ?」「そうだけど、きみの服装には合ってないよね」 岩瀬は似合わない麦わら帽子と、服装はいつもと同じTシャツ、ジーパンにスニーカー、それと今日は見たことのない黒キャンバスのリュックサックだ。「何を話してたの?」「なんでもないよ。ただの世間話しだよ」 彼女は疑うような目つきでぼくを見たが、それに気付かない
2018年6月13日 00:51
いつから蝉が鳴き始めたのだろうかと考えていた。七月の中旬、下旬だったろうか? それとも気付いた日が鳴き始めだったのか? いつも突然鳴き始めて、そして突然聞こえなくなる。せめて蝉の声が聞こえなくなる日を確認しよう。そんなことを考えていた八月初めの昼下がりに岩瀬から連絡があった。「今年は一段と暑いわね」「そうだね。例年より暑い夏になるって言ってるけど、毎年そんなことを言ってるような気がするよ」
2018年6月11日 20:02
岩瀬が電話をしてきた。「久しぶりに会わない?」「そうだね、飲みに行こうか。ここ最近の話しをしたい」「そうね。私も話したいことがあるから」 例のバーで待ち合わせをした。ぼくが到着した時、岩瀬は前回と同じソファ席に座っていた。バーテンはにこりとお辞儀をして、大学生らしきアルバイトは今日休みなのか、辞めたのかは知らないがいなかった。 キープしたウイスキーボトルとフルーツの盛り合わせをバー
2018年6月11日 02:04
新緑の頂きにまだ雫が残る季節、ぼくは愛車のハーレーで少しだけ北を目指した。一般道から高速道路に入り、後は道なりに進んで行く。この季節のバイクは最高に気持ちが良い。新しく宿した命の香りが、夏を迎える前の風を連れて、肌にその息吹を感じさせる。 この一ヶ月ほど岩瀬から連絡はなかった。じめじめした季節だ。電線を見上げることも出来なかっただろう。ぼくは携帯のディスプレイを毎日確認しては閉じた。彼女か
2018年6月9日 23:04
一ヶ月程経ったある日、夕食の食材を買い揃えて家に帰り着いたとき、岩瀬から電話があった。「なにしてるの?」「食事を作ろうかなと思ってるところだよ」ぼくは答えた。 彼女はそれを聞くと気を遣った口調で、一緒に飲まないかともちかけ、ぼくは少しだけ考えて承諾した。散歩をしているときに良さそうなバーを見つけて、一人で行くのもなんだか気乗りしないので、ぼくを誘ったそうだ。食材を冷蔵庫に入れ、指定された場
2018年6月6日 22:52
ぼくたちはバーカウンターの高い椅子に座っていた。 ウイスキーグラスの氷は半分解けたところで、彼女はグラスの氷を人差し指で転がしながらその中を見ている。丸く滑らかな氷は白熱灯に反射していた。「なにしてるの?」ぼくは聞いた。「光の反射を見ているのよ」「光の反射?」「そう」彼女は一言つぶやく。「白熱灯の光が氷に反射するでしょ? 氷の表面を指で変えればまた新しい光が反射する。同じ氷なのに光