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あなたは本当に聞こえてる?「サウンドオブメタル/聞こえるということ」を観て感じた自分にとって大切な事

本当に大切な事に気づけるか。

自分にとって大切な事と言われたら何と答えますか?

夢、家族、お金、愛、仕事、生活、時間、健康

人によって沢山の大切な事が存在しますよね。
果たしてそれが本当に大切な事なのか。
今の自分は本当にそれを大切にするべきなのか。

実は、案外そうでもないかもしれない。

大切にしたいだけで、重要ではないかもしれない。

逆に、大切にしてない事だけどあなたにとって本当は重要なのかもしれない。

でも、そんな事最初から分かってたら人生苦労知らず。

ただ、分かる事が出来なくても「もしかしてそうじゃないのかな?」と考える機会はあってもいいと思う。

僕はこの映画を観て「今の自分にとって大切な事って何だろう」と考えさせられた。

引用元:amazon

amazonのオリジナル作品
「サウンドオブメタル/聞こえるということ」

突然難聴になってしまったバンドマンのドラマーの葛藤を描いている作品。

ドラマーとしての葛藤を描いている映画と言えば「セッション」だったり、バンドマンになるまでの物語を描いている「シングストリート」
伝説のバンドの自伝映画「ボヘミアンラプソディ」など様々な音楽系の映画がある中、この作品はまた一風変わった映画である。

そもそもこの作品を音楽系の映画と括る事自体が難しい。

実際に音楽活動してる人じゃないと聴力を奪われたミュージシャンの苦しみは理解しがたい所がある。

例えば、何かしら困難や葛藤があり、それを乗り越えて報われると「苦労した甲斐があったね!頑張ったね!」と主人公に共感できる。

実際にミュージシャンじゃなくとも音楽が好き、映画が好きと言うだけで共感する事ができるのだ。

この映画は葛藤こそしてるがラストのシーンを観ると「果たしてこれは報われたのか?」と思うような描写。
なので、共感する事が難しい。

それでも、この映画のラストシーンに色んな意味が詰まっているように感じた。


*ここから先はネタバレの内容*


これまで観てきた音楽系の映画の雰囲気を期待して観たがこの映画全くの別物。
演奏シーンが冒頭ちょろっとあるくらいでした。
それに映画中盤になると、主人公は難聴になった為聴覚障害支援センター?のような施設に行く事になります。
そこでは聴覚障害者が生活をしていて、主人公も共に生活をし、手話を学んだり、時には聴覚障害の子どもたちがいる学校に行って一緒に勉強したり遊んだりして聴覚障害を克服するための励みます。

そこでの描写はほぼ手話。しかも字幕なし。
主人公と臨時体験しているような感覚に陥ります。
率直に言うと健常者にとって新鮮な環境。

嫌々入った施設に馴染めずにいた頃。
施設の管理者であるジョーに「朝5時にコーヒーを準備しておく。そして部屋を一つ用意しておくからそこでじっと座ってみてくれ。もし、じっとしてられないなら紙とペンを用意してある。それに文字を書いて欲しい。なんでもいいから。」

最初は「これに何の意味があるのか?」と言わんばかりにイラつく主人公。
だけど、その現状を段々と受け入れ、次第に紙にペンが走り出す。
その頃には自然と施設での生活にも馴染み出し手話も覚え、コミュニケーションがとれるようになっていったのだ。

この行為になんの意味があるのか。
僕もずっと思いながら観ていたが主人公が環境に馴染む姿を見ると
何となく「現状を受け入れる訓練?」と思えてきた。
そしてそれが確信に変わる時が来て、その時に僕のような人間は絶望する。

この主人公は一体どう思うんだろうか。この先の展開はどうなるんだろうか。
ちょっとソワソワしてるとすぐにその時が来た。

管理人のジョー「ここで働かないか?ここにいる人たちみんな君のこと必要としている。ここに残って生活する事も人生の選択肢に入れておくといい。」

ほら来た。コレだよ。

僕はコレが人生で一番嫌い。

みんなが必要としてるから、ここの暮らしに馴染めてるから。
そもそもそんな事をする為に施設に入ったわけじゃない。
誰かの為に生きてるつもりもない。
確実にコレをやりたいと言う目標があるなら誰しもそう思う。

主人公はどんな選択をするのか。

施設での生活を告げられた後の主人公は黙ってタバコを吸っていた。

あの言葉以降主人公はハッとさせられたのか急速に行動をする。

手術をすれば聞こえるようになる。ただかなりの金額。
初めに病院に行ったときにそう言われた事を思い出し、彼女と過ごした思い出のバンや音楽機材など全てを売り払いその金で病院に行って手術をする事を決意した。

手術をし、耳のインプラント手術じさえつければ

そうすればきっと、音楽活動復帰してあの頃のように生活ができる。
何より、自分の好きな事ができる。

もとの自分に戻れる。

それだけじゃなく、僕が思うに、元の自分に戻れなくなった時が怖い。

これまで熱中してた事が急にどうでも良くなる、どうしようもなくなる時が1番虚無感を感じてしまう気がする。

なんか、自分が自分じゃなくなるような。

それが怖くて、主人公は一刻も早く元の自分に戻りたくなったのかも。
なんだかそんな風に思えたシーンだった。

それから、手術は無事に終え、施設を出て行く事をジョーに伝える。

ジョーにはもう2.3週間リハビリをしたいからその間まで施設に居ていいかと聴くが
「この施設では耳が聞こえない事が不便でない、聞こえるようになる必要性がない事を教えてる。だから、そういった手術をした人施設には居られないんだ。」

ほらね!と言いたくなるような言葉。
やっぱりそういう事なのね、と思ってしまう。

そして、出て行く主人公に言った
「あの時部屋で過ごした何もない時間がほんの数分でもあの時間は神聖な時間だ。また世の中に戻るとあんな時間は味わえなくなると思う。」

何故か意味深に感じる言葉。

正直言ってピンと来ない。

たぶん、主人公もピンと来てないと思う。

だってアレは現実を飲み込む為の訓練のようなものであって、神聖な時間ではないはず。
あんな事するとむしろ自分の意思を殺して諦めて生きているような気がしてくる。
逆にこちらから願い下げだと思うくらい。
僕ならそう思うし主人公もそう思ってると感じた。
そうでもなきゃ耳を治す為に自分の持ってるもの全て売り払うわけない。
止まってしまう環境に終止符を打って先に進む覚悟を決めたんだと思う。

だが実際、手術は割に合わない結果。
失敗したわけじゃない、むしろ成功なんだがミュージシャンである彼からするとあまりにも酷すぎる音だった。いやそうじゃなくてもこれは酷いかもしれない。
元通りには程遠いノイズのような音。
本来、聞こえない人からすれば聞こえるだけで満足な話だが、これじゃ音楽なんてできやしないと思う。
これ

主人公は施設を出ていき彼女の父方の実家に彼女に会う為向かった。
父方の実家は豪邸であからさまな金持ち。
家を訪ねると
父から「最初は君の事嫌いだったけど、今は好きなんだよ。娘を奪われた気持ちになったからね!でも娘を奪ったのは君じゃなく別れた母の方だったんだ。そして母と2人暮らしと言う辛い環境から抜け出させてくれたのが君だったんだと気づいたんだ。」
と、いきなりカミングアウトされる。

主人公の彼女はそんな暮らしがストレスの原因で薬や、腕を掻きむしったりする癖がある。

何だかかんだ話していると彼女が帰ってきて2人は久しぶりに再開する。
お互い変わった姿を見て驚くが中身は何も変わっていないようだ。
彼女の実家でこれからパーティが行われる。
そのパーティに参加して一緒に楽しもうとするが、変わり果てた彼女に疎外感を感じる。

コレまでバンで過ごした面影が見当たらないのだ。

彼女の変は見た目や私生活だけじゃなかった。

夜2人きりで部屋で過ごすと主人公は彼女のある変化に気づく。
彼女の掻きむしる癖が治っていたのだ。
金持ちである父の実家で落ち着いた生活をしているうちにストレスがなくなったのかもしれない。
その変化に喜ぶのも束の間。
また元の暮らしに戻ろうと話をした途端、彼女は腕を掻き始めた。

このときに主人公は全て悟った。
翌朝、まだ眠る彼女に別れも告げずそっと出て行く。

コレまでと違って何もかも聞こえるようになった。街の音も声も。
でも主人公には全て雑音に聞こえる。
そんななか1人で歩き疲れた顔でベンチに座る。
そして、何を思ったのか補聴器を外した。

そこには何もない、音もしない、静かな、まるで神聖な時間が流れる。

果たしてこの映画において"聞こえる"とはどう言う事だったんだろうか。
単純に聴力がある事を聞こえると指している訳ではない。
もっと大切な事だと思う。
僕は、本質的な事に耳を傾けれるかと言う意味での"聞こえるということ"だと思った。
主人公の言動を振り返ると、彼は自分の都合の良い事しか考えないような傾向がある。
夢とか希望を抱くってそういうもんでもあるが、それを叶えれるか叶わないかで考えるなら現状を理解する事も重要。
分かりやすく言うなら精神的に多少の我慢は必要という事だ。

あの時ジョーが言ったあの部屋での何もない時間が、いかに大切かわかる。
これは誰にでも当てはまる。

確かに、日頃生活してて1時間でもスマホやテレビをシャットアウトして生活する事ってないでしょう。
でも一度それらをシャットアウトする時間を作ってみたら大切な事に気づけるかもしれない。
今自分が大切にしてる事が本当に大切な事なのか。ただの都合の良い解釈じゃないのか。


「自分にとって大切な事ってなんですか?」

なんだが、そう聞かれたような気がする映画でした。

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