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宗教者が未来世代のためにできること

先日、ニューヨーク市のブルックリン地区を見て回ったとき、現地在住の日本人の友人になんとなく聞いてみました。

「たとえば日本だと、その町にパチンコ屋が出来るときに反対運動が起きたりするじゃないですか。同じように、この辺りの人が”うちの街にはできて欲しくないもの”とか、あるんですか?」

そしたら、こんな答えが。

「スターバックス、かな」

アメリカのローカルの人にとって、なんとスタバはパチンコ屋!?

「反対運動までは起きないけど、あ〜うちの街にスタバができちゃった、ってガッカリする人は多いでしょうね。スタバに限らず、基本、どこにでもあるようなチェーン店はそんなにウェルカムされない。みんな、その土地ローカルのカフェとかコーヒースタンドを、愛してるから。まぁ、なんだかんだ、スタバができたらできたで、便利で行っちゃうんだけどね笑」

ニューヨークで感じたのは、案外、ローカルの人々がオープンマインドを持ってコミュニティを自分たちの手で備えようとする意識の強さでした。

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グローバリゼーションとナショナリズムを超克する「開かれたローカル」

先日、『幸せのマニフェスト ――消費社会から 関係の豊かな社会へ』の著者であるステファーノ・バルトリーニさんが来日中のところ、お会いしてお話しする機会がありました。

この本は、お金という経済的な指標を追求することでは人々は幸せになれないこと、その罠にはまってしまう原因とそこから抜け出すための具体的な方法を「マニフェスト」として著者がまとめたものです。最近、私が関心を持っている現代の民主主義社会の抱える構造的な問題についてもよく触れられており、また人間的関係性というソーシャルキャピタルこそがが幸福感の源泉であるという主張は、信仰や地域のコミュニティに関わる宗教者の立場からも参考になるものでした。

3分で概要を知りたい人には、こちらの書評が参考になります。

バルトリーニさんとの対話の中で、印象的だったことは、「金融資本主義の拡大によるグローバリゼーションが頂点に達し、その反動としてのナショナリズムの波が世界各地で沸き起こっています。この二極化という緊張状態を乗り越える方向性として、ヨーロッパの社会学者の間でコンセンサスが取れつつあるのが、オープンなローカルコミュニティの重要性です。全てを画一化するグローバリズムでもなく、自国に閉じるナショナリズムでもなく、ローカルコミュニティの顔が見えるつながりをオープンにしていくことが大切なんです」という趣旨のお話しでした。

このことは、かねてより地域社会のコミュニティに根ざした(少なくともかつては)存在である宗教者の、これからの社会における役割に関して私が考えていたこととすごく重なったので、それを聞いて勇気付けられる思いがしました。グローバリゼーションの進行とか、ナショナリズムの台頭というと、由々しき事態とそれを心配しようにも、個々人で考えるにはあまりにも大き(そう)なテーマなので、諦めてしまったり、無関心になってしまいがちです。でも、それこそが罠で、実際のところ、社会を作っているのは人であり、世界はローカル社会の総体としてあるのだから、世界を変えるのは一人一人の意識と行動であり、また一人一人の顔の見える確かなつながりです。

「世界を変えるのは一人一人の意識と行動」ということは、世の中にありふれたスローガンといえば、そうです。でも、よーく考えてみると、それは真実です。一人一人の意識と行動の他に、世界を良い方向へ変えられるものがあるかといえば、他に何かあるでしょうか? ありませんよね。本当に、ないと思います。一人一人の意識と行動が変わること以外には、政府にも、巨大企業にも、国連にも、テロリストにも、他の誰にも成し遂げることはできません。資本主義社会が究極の完成へと近づくにつれて、そのことがかえって明白になりつつあると思いませんか?

バルトリーニさんとの対話の中で、もう一つ印象的だったことは、「日本が抱える課題は、人々に時間がなさすぎること。国民一人一人の能力という意味では、これほど可能性のある国はないと思うほど、日本人は能力が高いと思います。物事の理解が早く、チームワークもいい。しかし、社会の課題を把握して意識や行動に変化を起こすため、物事をよく考える時間が圧倒的に足りていません。労働時間が長すぎて、人々に考える余裕がないように感じます」と言っていたこと。「つまり、社会システムにロックインされて思考停止した人が多いっていうことですよね?」と振ってみたら、「そうです」と。その通りだと思います。

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人類に訪れる破滅的な危機とそれを回避する方法

また、バルトリーニさんとのご縁をつないでくれた方からオススメされたフランス人思想家、ジャック・アタリの本を2冊、まとめて読みました。

新世界秩序

この本は、このまま世界が破滅へと向かうことを阻止する具体的な世界の新しい枠組みを、EU実現の立役者として貢献したと言われる著者が自身の知見を元に具体的に描き出したもので、政治家や学者のみならず、これからの社会に関心のある市民にとってとても参考になる本です。アタリの慧眼は多方面で評価されており、本書は日本の多くの政治家にも参照されていると言われます。(実際、日本の政治の現場で生かされているようには必ずしも思えないのが残念ですが・・・)

2030年ジャック・アタリの未来予測 ―不確実な世の中をサバイブせよ!

こちらは出来るだけ専門用語を使わずわかりやすく平易な文章で書かれていて、一市民の立場から具体的な行動を考えたい人にもオススメの本です。一見順調に見える裏で悲惨な状況になりつつある世界で、格差社会に苦しむ99%の人々が憤懣に駆られざるを得ない状況を描きます。

・現在までのところ、政治と経済の自由に基づく社会組織は、世界で最も優れた制度だったことが明らかになった
・しかしながら今日、このシステムは機能不全であり、世界は奈落の底へ突き落とされる寸前である
・今日、市場はグローバル化され、法の支配のない状態にある
・国内に閉じこもる民主主義はますます空虚になり、民主主義が現実に対しておよぼす影響力は減る一方である
・袋小路に陥り、怒りが爆発する

そして、その結果、世界大戦を含めた破滅的な危機が人類に訪れるであろうことを示唆します。

面白いのは、アタリが「最悪の事態が起きる可能性は極めて高い」としながらも、それを回避する方法を個人の意識と行動レベルから説く、その内容です。

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