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英語での道案内に失敗した話〜あたふたした英語だけでも持ち帰ってマスターしていけば、刹那的国際ガールくらいにはなれるんじゃないか〜

(あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ……あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ……)

家を一歩出ると無意識に心のなかで復唱してしまう呪文。

本日、マンションのエントランスの前でたむろしているのは、西洋系の、なんか柔らかく聞こえる言語……Vっぽい音が多いからたぶん……フランス人……!!!(?)

と大して良い耳を持たないわたしの当てずっぽうの国当てゲームが毎朝行われるのはここ、言わずと知れた国際都市、京都である。

韓国や中国のツアー客に紛れながら駅へ向かい、コンビニではヒジャブで頭を覆った中東女性のうしろに並ぶ。カフェに入れば隣の席からまたも(おそらく) フランス語での男女の会話が聞こえてくる。気分はパリ……なんて雰囲気に酔っていた時代もあった。


“Does this train stop at Gion Shijo?”


と、祇園四条とは逆行きの電車のホームでこの質問をされるまでは____

この街に住んで早十年、もちろん英語で同じような質問を受けるのは初めてではない。しかしその都度、その危機的状況をわたしは万能の ”Yes.” で乗り切ってきた。発音にリアリテイを追求するとしたら「いえーす、いえーす」になる。運の悪いことに、わたしのいとこはアメリカ人だ!という、それ以上でもそれ以下でもない自負が、わたしにドヤ顔の追加オプションを許していた。

____なぜこの電車は祇園四条に止まらないのだろう?なぜこの人たちは雑踏の中からわたしを選んだんだろう?選ぶといえば、たくさんのおんなのひとがいるなかでわたしをみつけてくれてありがとう、なんて今橋愛さんの短歌があったな。ストレートだけれど、あのぼんやりと澄んだ感じは、遠ざかっていくふたりだからこそ振り返っている出逢いへの奇跡を想像してしまうから、いいのかもしれないな。あれっ、なんか、なんかいまになってすごくいいと思うな。

「いえーす」以外の選択肢を急ピッチで用意しなければならないというのに、阿呆の思考回路は主題から離れたところにじんわりじんわりとエネルギーを送ってしまうんだな〜と俯瞰する自分を頭上に置いたまま、現実のわたしは必死にからだ全体を使い向かいのホームを大きく指差し、

「……いえす」と、ただ答えた。

思い返せば祈りの言葉であった。

異国の民は戸惑いながらも、意図は伝わったと笑顔で向かいのホームへ移動しようとしてくれたのだけれど、ここは改札をいったん出なければ反対側へ行けないタイプの駅……!

改札に引っかかってしまっている彼らを助けるために、わたしは再び大きな身振りで『駅員呼び出しボタン』を指差した。もう「いえす」とは言わなかった。

救世主の名に縋っているだけでは、迷える子羊を救うことなどできない。

やはり啓示とは、ときに厳しく、そして正しい。

心を入れ替えたその日より、主の御名をみだりに唱えることをやめ、近所のコメダ珈琲で味わうお手軽パリにさえ冒頭の呪文をお祈り代わりに唱え出すようになったというわけだが。


前置きが長くなって申し訳ない。

2022年10月11日からの外国人観光客入国制限緩和により海外からの観光客が急増した影響か、ここ一年で海外からの観光客に道を尋ねられることが増えた。

わたしはわたしで、おひとりさまでの外出を楽しみはじめ、それを阻害する一パーセントの恐怖心でも拭い去っておきたいと考えるようになった。

そこでズボラが導き出した最善策がタイトル通り。

まあ、この日本から飛び出る予定のないわたしのような人間からしたら、ホームパーティーやBBQに誘われるシチュエーションの例文は、脳内ネイティブたちとのコミュニケーションにしか役立たないわけだし、実用性で言えば失敗の上に成り立つこのやり方を越えるものはそうないぞ……。よし、これを「付け焼き刃英会話」と名付けよう。

ちなみに「その場しのぎ」は stopgap って言うんだって。”It's just a stopgap.”(これはただのその場しのぎだ。)うん、使い勝手が良さそう。

はい!!じゃあ今回の焼きつける刃はこれ!!!(What?)

Q: Does this train stop at Gion Shijo?
(この電車は祇園四条に止まりますか?)

A : No. This train doesn't stop there. You need to get on the train at the platform on the other side. So, you have to exit the ticket gate once. Please go back to the gates and press the station staff call button and tell the staff that you wanted to exit.
(いいえ。この電車はそこには止まりません。あなたは反対側のホームの電車に乗る必要があります。だから、あなたは一度改札を出なければなりません。改札に戻って、駅員呼び出レボタンを押して、係員に退場したい旨をお伝えください。)

流暢でしょう?
翻訳ツールやさまざまな英語サイトを参考にさせていただきました。

※素人がインターネットの海でがんばってかき集めて応用した知識なので、ネイティブからしたら表現が堅すぎたり遠まわしすぎたりするかもしれませんが、伝わりはするはずです。

このサイトとかわかりやすくて大好き!


以下、個人的におぼえておきたい表現🗒

get on the train (電車に乗る)
platform (ホーム)
on the other side(向かい側・反対側)
ticket gate(改札口)
go back(戻る)
station staff call button(駅員呼び出しボタン)
tell 人 that 〜(人に〜と言う)

ちなみに you wanted to exit. の wanted はもちろん want でも伝わるんだけど、過去形にすることで「出たい!」ではなく「出たいと思っていたのですが……」のような丁寧なニュアンスになるらしい。Could が丁寧な表現として使われるのと同じだね。

はい!!焼きつけ終了!!!
ここでの焼きつけって丸暗記のことだからね!!!

とりあえず、わたしは二度と同じ過ちを繰り返さないと決めた。あの日のわたしのためのQ&Aをここに記し、咀嚼し、栄養とし、道端というシチュエーションにおいては完璧な国際ガールになってみせようじゃないか。

では最後に、この画期的かもしれない思い付きがあなたやわたしの今後の人生の出逢いにいい影響を与えてくれることを願って、テーマに因んだ一首を詠んで結びとする。


良い旅を 道案内の英語だけこころにつめて歩くあなたも

それでは “Have a nice trip!”


(DoやDoesの使い方から忘れていたので、さすがに中学英語の基礎だけは下記の本で再履修しました!)

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