有名人の罠【途中まで無料】

本日の記事は、
「有名人=善意のかたまり」のアドバイスを聞くと、知らない間に「罠」にはまってしまうという話です。
先に言っておきますが、決して有名人が悪い訳ではなく、受け手に問題があるという話です。

落語家の場合、有名人のアドバイスは、当たり前ですが、「有名人」か、「有名になろうとしてる人間」か、「偶然(未来に)、有名になってしまうような人間」にしか効果はないと思います。普通の凡庸な落語家に、有名人のアドバイスはあまり効果がないということです。にもかかわらず、多くの落語家は、思わず「有名人=傑出した成功者」のアドバイスを採用してしまいそうになるのです。また一般のお客様もそれを採用すべきと勘違いしがちです。

たとえば、落語会で集客力を高めていく戦略は、「有名な落語家が集客する方法」とは丸っきり別物になりやすいです。
落語会で集客力を高めていく戦略は、長期的で負けにくい戦略であり、いわゆるビジネスの正攻法に近いような戦略になります。←地道に顧客を増やすという話ですから。

しかし、多くの噺家や一般人が納得いく戦略は、
得てして非常に成功確率の低いような「有名人のアドバイス」であり、そっちのほうが心に響いてるように思います(笑)
それゆえ、多くの噺家は、有名人の「俺がやったようにやれ!」的な再現性の少ない戦略の真似をしたり、一般人も「売れてる人の言うようにすべき」と勘違いしてしまいます。これが結構な落とし穴だと私は思うのですが・・・(笑)
こういうことはなぜ起きるのでしょうか?・・・それが本日のテーマです。

もちろん、「メディアで有名になって、その後にお客様を沢山集める」という方針であれば、有名人の戦略は採用しても良いかもしれません。しかし、それはそもそも「集客作戦」ではなく、「有名になる戦略」です。その戦略・作戦のゴールは「集客」ではなく、「有名になること」です。そして、この「有名になる」という戦略は、私が研究していない分野なのもありますが、落語家として地道に集客していくよりも「解明されていない謎の要素」が多いです。その「謎の要素」とは「運の要素」というか、「時代によって変化する何か」の要素も強く、実践するには非常に難しい戦略だと思います。

つまり、有名になるという目標を達成するために有名人のアドバイスを採用していくならまだ良いですが、「有名になっていないのに、有名人の集客方法を真似しても無駄」ということです。有名人の集客アドバイスは「有名になってから効果を発揮するもの」であり、「無名の状況では威力を発揮しないもの」だと思います。
有名人の集客のアドバイスは、大概「有名になってから」という前提条件があることを理解することが大事です。また有名人は、「自分がどのように有名になったか」を忘れて、得てして「芸だけ頑張ってたら誰かが評価してくれる」みたいな無茶苦茶なことを言い出したりするということも忘れてはいけません(もちろん全部が間違いでは無いのですが、落語の場合、芸と知名度が比例形にならないことが多いことからも、無茶苦茶と言えます(笑))。

つまり、何が言いたいかと言うと、「有名人になって集客する」ことと、「落語の実力を向上させて、その芸に見合った形でお客様を地道に増やして集客する」ことは、全く違うという話です。別にどっちが正解ではなく、二つは「集客する」という結果は同じですが、戦略や道のりが全く違うと言う話です。

それでも、多くの落語家が「有名人のアドバイス」をつい聞いてしまう理由と、そこから生まれる「落とし穴(罠)」についてお話いたします。


【有名人のアドバイス】

有名人のアドバイスほど、恐ろしいものはありません。ほとんど「罠」と言っても良いでしょう。ある意味、「集客」と「有名になること」を分けないといけないのですが、一般人には区別がつきません。

有名人のアドバイスは実は「有名になる」ためのアドバイスとして受け取るべきです。それを聞いて、「お金を儲ける」とか「集客する」とか「芸を高める」とか「落語ファンからの人気を得る」とかの別の目標は達成できないと考えるべきです。それを混同して、有名人のアドバイスを別目的で使用するから「罠」にはまるのです(笑)・・・決して有名人は罠にかけてる訳ではないのに、多くの人は、自分で勝手に「罠」を作って、はまってしまうのです。

何が言いたいかと言うと、「落語家として、”自分の芸を好きな人=お客様”を増やしたいのか」と、「有名になって、”自分を見たい人=お客様”に沢山来てもらいたいのか」は、全く別物だということです。
(お金を払うという行動としては「お客様」の定義は同じなのですが、少し「お客様」の意味が変わるのです)
ですから有名人のアドバイスは、「とにかく有名になる」という目標を持つ人が、その目標のためにそのアドバイスを活かすべきです。

【笑福亭たまのアドバイスは聞きたいが、聞きたくない】

ちなみに、私は、他の噺家から

「(笑福亭たまは)集客するのが上手い」

と言われます。これは誉め言葉のように見えますが、別の側面があります。
多くの噺家は「自分の実力が(世間に)過小評価されている」=「本当はもっと自分の落語会にお客様が沢山入っていても良いはずなのに…(それより少ない)」と思っていますし、「落語の実力と集客力は得てして一致しないものだ(=一致しないのが普通)」と思っています。
しかし、笑福亭たまの落語会を他の噺家が見た場合、「こいつは実力以上にお客様を集めてる・・・なんでや???」となるのです。しかも私は「メディアで有名な訳でもない」ので、「何もわからない未経験者が集まってる」ということもありえません・・・。そうなると、ますます他の噺家達は私の商売方法に「???」となるようです。
→その結果が「笑福亭たまは集客するのが上手い」というコメントになるのです。つまり、「落語の実力以外の部分に集客の謎がある!」ということを理解しているという裏返しでもあります。

当然そこから、他の噺家から

「お客様をより多く集める方法は?」

などと聞かれることもあります。いずれ解説しますが、私の集客方法は多岐にわたります。例えば、

●チラシについて(デザイン、印刷枚数、配布理由や配布方法)
●パンフについて(興味深い文章を書く・材質)
●落語そのものの演出(商品差別化)
●落語会の番組(出演者のバランスと演目の決め方)
●普段の落語の口演方法(どの会で何のネタをやるのか?)
●落語会の会場の陣形(お客様が笑いやすい客席づくり・舞台づくり)
●落語会のチケット販売方法(お客様が購入しやすい方法)

などなど。私は「お客様に来て欲しい」「落語を聞きたいと思って欲しい」という一心で色々て考えております。当たり前ですが、どの項目についても「一定の再現性のある技術論」なので、説明が長くなります。

噺家から「こういうイベントで集客するには、どうしたらええ?」と聞かれた場合、
もちろん時間の関係で省略したりはしますが、相手が一番聞きたい部分について、私は真面目に懇切丁寧に説明します。

すると、

「そんなややこしいのはイランねん。もっと簡単に言うて欲しい」

となってしまいます・・・。どうやら、

「そんなんやなしに、”これだけしたら、パパッとお客様が増える!”みたいな工夫を教えて欲しいねん!」

ということらしいです(笑)・・・そんなもんあるかぁ!です(笑)

その意味で、私のアドバイスと違って、有名人のアドバイスは、そういう人達にとっては非常に心地よいようです。
私からすると、有名になる方法のほうがはるかに難しく、有名になる方法こそ多岐にわたり、一筋縄ではいかないと思うのに、有名人のアドバイスは非常に簡潔です。

たとえば、「東京に行け」とか「皆に感謝する」、「夢をあきらめない」「夢を言葉にする」「大きい花火をあげろ」みたいなことです。

それも、上記は原則として、有名人1人につき、1コメントです。
有名人が「東京に行け!それと、皆に感謝しろ!それと、夢をあきらめないように!それと・・・」とか、ダラダラ喋ってるのをあまり聞いたことがありません。また「東京にいけ!なんでか言うたらやな・・・」と論理的に解説しているのも聞いたことがありません。

つまり、上記のアドバイスは、理念的なことだけだったり、それだけでは絶対に何も達成できない格言です。このアドバイスは、聞いた側が、分かった気になるだけで、これだけでは、ほぼ「有名になる」という目標は達成できません。しかし、有名人の簡単なアドバイスの方が皆さん、即座に「納得」し、「ありがたがり」ます
どうやら多くの人は、論理的な説明は聞きたくないのですが、「何か大きく変わる簡潔な一言」を聞きたいようです。事実と論理で考えぬいた数学的証明みたいな私の集客計画など、誰も聞いてはくれません。帰納法も演繹法も不要です。ある種、科学的知見よりも根性論の方が良いと言う事でしょう…。

この頃、思うのですが、世間は質問して来ても、実は本気で説明などを求めていないのだと思います。即効性のある答えだけが欲しいのです。いわば、多くの人は、ダイエットをする時に「これやった瞬間にスグ痩せる知識」が知りたいのであり、「毎日カロリー制限をして、運動をする」みたいな「科学的な証明により、地道にやれば絶対に効果の出る方法(手間のかかる方法)」などは聞きたくないのです。まさにそれと一緒です。
そして有名人はそういう大衆の心理を全部わかってるのだと思います(感覚的なのか、理知的なのかは知りませんが…)。つまり、有名人は、処世術としてor時間短縮のために、「理念だけを簡単に一言で言う」という作業を常に実践しているのだと思います。あるいは「そんな状況で、常に簡単に一言で言える人」だけが有名人になれるのかもしれません。

多くの人はその有名人の言葉を聞いて納得し、ありがたがり、有名人にならずして一生を終えます(笑) もちろん、有名人になる人もいます。そして、その場合、その有名人になった人は、同じような単純な言葉をまた別の誰かに再生産して話していくのだと思います・・・。

そもそも、有名人は忙しいですから、「どっちみち大して説明を求めていない人」にちゃんと説明しても時間の無駄だとわかっているのでしょう。だからコンパクトに一言で言うのだと思います。私は、そこらをわからず、聞かれたら、つい懇切丁寧に言おうとして、結局、相手に「そんな話は聞きたない…」と言われるのです。そろそろ私も見習おうと思っています。

私も次に聞かれたら、コンパクトに

「ドラッガーを読め!」

と言うつもりです。(だいぶ具体的ですけどね)

では、なぜ有名人の言葉が罠になるのかということを具体的に考えてみましょう。ひょっとすると、ここから悪口に感じる人がいるかもしれないので、ここから有料です。

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