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【おしえて!キャプテン】#31 ゴールデンエイジ? シルバーエイジ? ヒーローコミックの時代について(後編)

キャプテンYことアメコミ翻訳者・ライターの吉川悠さんによる連載コラム。今回のテーマは先月公開した読者の方からのご質問「ゴールデンエイジ、シルバーエイジとは?」後編をお送りします。

前編はこちらから▼

ヒーローたちの復活の時代:シルバーエイジ

今回は、前回の続きで「シルバーエイジ」そしてそれに続く「ブロンズエイジ」以降についてのコラムになります!

シルバーエイジとは、1950年代後半から1960年代全体にかけて、リバイバルを含むスーパーヒーロータイトルが再び盛り上がった時代のことです。

「シルバーエイジ」という言い方が発見されている最古の例は、1966年の『Justice League of America』#42のお便りコーナーに投稿された「(もし出版社が)ゴールデンエイジのヒーローたちのリバイバルを続けるなら、20年後の人たちは、この時代をシルバーエイジって呼ぶだろうね!」という文章だと言われています。今回は、シルバーエイジの特徴であるリバイバルとはどういうことか、ご説明いたします。

シルバーエイジの始まりについては、専門家の意見がほぼ一致しており、1956年の『Showcase』#4での二代目フラッシュ(バリー・アレン)初登場とされています。まずはフラッシュの誕生への背景からご説明します。

コミックブック市場にとって、シルバーエイジの前夜である1950年代前半は、繁栄から一転した受難の時代となりました。盛り上がっていた犯罪・ホラーなどのジャンルを中心に、風紀を乱す原因になっていると社会的な非難の的になってしまったのです。このため業界は自主規制を行いましたが(これが原因かはともかく)衰退の一途をたどっていました。

その自主規制がいわゆる「コミックス・コード」と呼ばれていますが、さまざまな文献が出ていますので割愛させていただきます。

こうしてコミックブック市場が盛り下がっていたところに登場したのが前述の『Showcase』#4でした。カーマイン・インファンティーノが描く、クリーンかつ奇想天外な超高速ヒーロー、フラッシュの冒険が、たちまち読者の心を掴んだのです。

フラッシュの成功は更なるリバイバルブームを呼びました。かつて活躍したヒーローであるグリーンランタンやアトムも、名前のみ引き継いだ別のヒーローとして再スタートを切り、「ジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ(以下JSA)」は「ジャスティス・リーグ・オブ・アメリカ(以下JLA)」として復活します。

この経緯を簡単に説明するなら「コミック業界の自主規制によりジャンルが制限された出版社が再起を図るため、スーパーヒーロージャンルに再挑戦した」という話になります。

実際、自分もこうした説明をすることが多いのですが、これはかなり単純化した物言いでもあります。例えば先立つ1950年代前半にはTVドラマ版『スーパーマン』のヒットを受けて、マーベル(当時の社名はアトラス)はかつてゴールデンエイジに活躍したヒューマントーチ、ネイモア、キャプテン・アメリカ(のちの50年代キャップ)を復活させています。しかし彼らはフラッシュほどの成功は収められませんでした。単にスーパーヒーローだから成功したのではなく、『Showcase』#4で描かれたフラッシュの冒険の魅力が、ジャンル復興のきっかけとなったと考えるべきでしょう。

そして、なぜフラッシュを打ち出したのか?という疑問も湧きますよね。そもそもゴールデンエイジに登場した初代フラッシュのジェイ・ギャリックはスーパーヒーロー人気の低下に伴い1951年以来登場していませんでした。1991年の『The Greatest Flash Stories Ever Told』や2008年に刊行された『The Flash Companion』を読むと、編集会議で「なぜ一度人気がなくなったフラッシュを復活させるのか?」という問いに対して、「最終号から5年も経ったから、読者である子供たちも入れ替わっているだろう」というやり取りがあったそうです。また、ヒーローとしての名前と能力は同じですが、性格やバックグラウンドなど、全く違うヒーローとして復活したのも、フレッシュな魅力に感じられたのかもしれません。

一方マーベルでは……

マーベルもJLAのヒットに刺激され、ヒーローチームのコミックを刊行します。それが1961年、マーベル・ユニバースを真の意味でキックオフさせた『ファンタスティック・フォー(以下FF)』でした。この新規タイトルで口火を切ったマーベルは独自のリバイバル路線を歩むことになります。前述のアトラス社時代の1950年代のリバイバルを一旦無視して、『FF』には名前と姿だけ同じヒューマン・トーチが登場します。続いて『FF』誌でネイモアが、そして『アベンジャーズ』誌でキャプテン・アメリカ本人が復帰しました。DCのやり方とは違いますが、これもリバイバル路線ですね。

JLAがFF誕生に影響を与えた経緯は諸説入り乱れているため簡単には説明し難い。
とはいえ、この通り表紙のテイストも似ている。しかし中身の雰囲気は大きく異なる。

さらに、マーベルのシルバーエイジには特徴があります。『FF』の発祥については、スタン・リー含む多くの関係者の証言が食い違っていたり伝説が流布されたりしているのですが、本編を読むと「同時代のJLAとは違うことをやろう」という意志が強く伝わってくるように感じます。そもそも、FFの面々は初登場時点ではヒーロー然としたコスチュームすら着ていません。また、スパイダーマンが初登場する『Amazing Fantasy』#15は「(コスチュームを着たヒーローは)掃いて捨てるほどたくさんいる」という書き出しから始まります。これらの描写から、マーベルは市場に溢れるスーパーヒーロージャンルのなかで「非DC的なるもの」を意識していることが読み取れます。

同じシルバーエイジと言っても、DCとマーベルはすでに違う路線を歩んでいたと言えるでしょう。

こうしてDCとマーベルで再びスーパーヒーロージャンルが盛り上がっていったこの時代がいわゆる「シルバーエイジ」となります。

シリアスさを増していく、ブロンズエイジ

「シルバーエイジ」後の1970年代から1980年代にかけて、コミックの内容はシリアスなものに変化していき、「ブロンズエイジ」と呼ばれる時代に突入します。しかし、その定義は段々怪しくなっていきます。なぜならコミックスの内容のトーンで定義をしているので、どこで始まりどこで次の時代に移ったのかはっきりしていないからです。

DCではグリーンアローとグリーンランタンがアメリカを旅し社会問題に向き合う『グリーンランタン/グリーンアロー』(小社刊)、マーベルではスパイダーマンの恋人が悲運の死を遂げる『スパイダーマン:ステイシーの悲劇』(小社刊)が、それぞれ間違いなく代表的なブロンズエイジの作品と言えるでしょう。

他にも、クリエイターや編集者の世代交代、クリエイターと出版社の権利のせめぎ合い、マイノリティのヒーローの増加、アートの傾向の変化なども時代の特徴として挙げられていますが、ゴールデンエイジやシルバーエイジと比べるとかなり定義はふんわりしています。

しかし、コミックの歴史を表す言葉としては定着しているため、「この雑誌はブロンズエイジ中心に取り扱う」という方針を掲げているコミックブック研究誌もあります。

ブロンズエイジの先は……呼び方は適当!

ブロンズエイジ以降、時代の定義は曖昧なものになり、様々な名前がが提唱されていますが、定着しているものがあるかは怪しいところです。

『クライシス・オン・インフィニット・アース』(ヴィレッジブックス刊)や『ウォッチメン』(小社刊)や『ダークナイト・リターンズ』(『バットマン:ダークナイト』として小社刊)が出てきた80年代後半を「モダンエイジ」と呼ぶ傾向はあります。しかしモダン(=現代)と言っても、もう40年前の話だったりしますので、適切な呼称かは分かりません。

このコラムの「グリム&グリッティ」の回では、この時代を「ダークエイジ」と呼ぶ本を紹介してます。

筆者の主観と偏見による、時代区分

ちなみに、自分が時代区分を提唱するとしたら……と考えたのですが「単語を出して話が通じる呼び名にするべきでは?」と思い下記のようにしました。金属のテーマは途中で放棄してます。完全に自分の主観と偏見で考えた分類ですが、意識してないだけで皆さんも実際にはこんな区分で話をしてるんじゃないかと思いますよ!

「ゴールデンエイジ」:前記と同じ。
「シルバーエイジ」:同上。
「ブロンズエイジ」:同上。

「80年代中盤」:上記のモダンエイジの項で言及したように、80年代中盤にコミック史上のターニングポイントとなる作品が多く出た。そのためこの時期は一つの区分としての扱いが必要と考えられる。

「90年代」:トイブームやコレクターの投機に熱が入り、景気は一時的に大きく盛り上がった時代。アーティストのスター化や、クリエイターのオリジナル作品が市場を沸かせた。その後の市場の落ち込みも含めて、大きな区分を構成していると考えられる。

「ゼロ年代」:2001年のアメリカの同時多発テロ事件以降、エンターテイメント全体の空気が変わったため、明確に区別すべき時期と思われる。コミックスの世界においては、特にマーベルを中心に作風の変化が始まった。

「10年代」:DCが世界設定を刷新した「ニュー52」体制と、それに刺激されてマーベルが始めた「マーベル・ナウ!」体制が柱となった時代。また、TVドラマ版『ウォーキング・デッド』のヒットが引き金となっての、イメージコミックスが再興した。結果としてクリエイターのオリジナル作品が再び盛り上がってくる。

「20年代」:最近なので、特徴がわかるのはまだ先のこと。

「途中から時代区分じゃなくて年代になってるじゃん!」と思うかもしれませんが、実際にコミックの話をするときに分かりやすいのはこれだと思います。前編の冒頭でご説明した通り曖昧な区分ですし、後世の読者が今の時代を「ナントカエイジ」って呼ぶことはないんじゃないでしょうか? とはいえ、前回の冒頭で申し上げた通り、時代のレッテルは後世の人々が決めるものですからね!

◆筆者プロフィール
吉川 悠
翻訳家、ライター。アメコミ関連の記事執筆を行いながらコミック及びアナログゲーム翻訳を手がける。訳書近刊に『コズミック・ゴーストライダー:ベビーサノス・マスト・ダイ』『スパイダーマン:スパイダーアイランド』(いずれも小社刊)など。Twitterでは「キャプテンY」の名義で活動中(ID:@Captain_Y1)。

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