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意見が通る人に共通する、「冗長率」のコントロール

先日、日経の記事に面白い言葉を見つけました。

再び出社率の制限があるなかで、企業の「テレワークの腕前」という言葉がなるほどという感じですが、上記の記事では「腕前」を測る基準として下記の3点が取り上げられています

1.インフラの整備
2.情報セキュリティ
3.社内コミュニケーション

3.社内コミュニケーションについて、特に社内の同僚とのコミュニケーションに問題を感じている人が増加しているとのことです。

確かに、テレワーク中心の働き方が進むと、コミュニケーションが淡白になりがちです。

その結果、次のようなことが起こりやすくなります。

・内容は理解したようだが、納得したのか良くわからない
・上司の「了解しました」が、大賛成なのか渋々なのか良く分からない
・同じ資料なのに、先輩が話すと好反応で、自分が話すと無反応…

内容は伝わっているが、気持ちまで伝わっていない。そのような悩みはテレワークによってますます増えそうです。

コミュニケーションは、相手に内容を伝達して終わりではありません。内容を理解、共感して、応援したり動いてくれてはじめて「成功」です。

そこで今回は、コミュニケーションで重要な「冗長率(じょうちょうりつ)」という視点をもとに、「ただ伝えるだけでなく、相手に納得・共感してもらうためのコミュニケーションのコツ」について書いてみたいと思います。

冗長率とコミュニケーション

一般的には、「あいつの話は冗長だな(ダラダラ長いな)」のように、ネガティブに使われることが多いこの言葉。

コミュニケーションの世界では、「冗長率」とは、内容伝達とは一見関係ない言葉が含まれている率を指します。(ちなみにIT業界では「十分なバックアップがある」という意味で「冗長性」という言葉が使われているようです。)

劇作家で、私の大学の大先輩でもある平田オリザさんの本から、冗長率の例を紹介します。

例えば、NHKでも7時のニュースは冗長率が低く、8時、9時と遅くなるほど、冗長率が高くなります。

7時のニュースでは「今日、箱根駅伝は復路が行われ、駒澤大学が優勝しました」と淡々と語られるニュースも、8時や9時のニュース帯には「いやぁ、驚きの大逆転! 大逆転の末、駒澤大学が優勝しました。強かった。」と、個人の感想や補足情報が入ってきます。

夜のニュースのように冗長率が高い方が、聞く人の興味や共感を得られやすくなりますが、高すぎると「余計な事ばかり話すアナウンサーで気に食わない」となってしまうので、そのバランスが重要です。

一方で、冗長率が究極的に低いコミュニケーションとは、長年連れ添った夫婦の「フロ・メシ・ネル」のようなものです。

これは、情報の共有や信頼関係ができている夫婦だからこそ成立する会話。そうでない相手に対しては、内容は伝わるかもしれませんが、ムカっと感じて、共感されません。

この冗長率のバランスが上手な人こそ、話がうまい人、説得力のある人だと平田オリザさんが言います。

そこで、「冗長率」という視点を、ビジネスの現場、特に社内コミュニケーションに応用してみよう!というのが、今回の狙いです。

次は、冗長率コントロールの失敗事例・成功事例を見てみましょう。

なぜ論文と授業では、伝え方が違うのか。

先日、論文について大学教授と話しているときのことです。

論文には、先行研究レビューといって、過去の重要な論文をまとめるパートがあります。

論文の書き手である学生は、自分がせっかく調べた論文の内容をあれこれ書きがち。「A氏の論文は○○について研究している。例えば、○○を対象に、○○人に対して○○について調査をした。その結果・・」と、良かれと思って詳細に書いてしまいます。

ところが、それを読む教授はすでにその論文の内容は知っているので、具体的な記述が多いとかえって読みにくい、と言うのです。

教授が求めているのは、過去の論文の結論は1行で終わらせて、その学生がそこから何を発見したのか。

だらだらと過去の論文を解説するだけの書き方は良くないと言います。

これは、会話における冗長率とは少し違うかもしれませんが、余計な情報の多さがコミュニケーションを邪魔しているケースです。


一方で、冗長率を高くした方が伝わるケースもあります。

例えば、以前、私が大学1年生向けに「キャリアの作り方」について講義をした時の話です。

2年連続で講義を担当したのですが、1年目は散々・・・でした。

自分の就職活動の話や仕事の話をしたのですが、最前列の学生が授業開始2分で机にうつ伏せになっておやすみになっていました。涙。(もちろん、ちゃんと聞いてくれていた人もいました)

これではいけない!と思い、2年目に再び講義の依頼があったときに、改めてどう話すかを考え直しました。(よく2年目も依頼が来たな・・と思いましたが、リベンジに燃えていました)

話す相手は、大学1年生。

ようやく受験も終わって遊びたい! そんな大学1年生ですから、就職活動やその後のキャリアについていきなり話しても興味を引き出すことは難しい。

そこで私は、自分の高校から今までの人生を折れ線グラフで図に書いて話したり、学生にも同じように書いてもらいました。

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高校時代の部活や大学のバイトが、今の仕事に意外と繋がっているという話をした上で、「キャリアの作り方」について話したのです。

その結果、おやすみになる学生もおらず、最後まで楽しく聞いてもらうことができました。

これは、キャリアとは一見無関係な情報があったからこそ伝わった、いわば冗長率が高くて成功したケースです。

意見が通る人は、相手に合わせて冗長率を変えている

ここまでの話をまとめます。

・冗長率とは、伝えたい内容とは一見無関係な補足情報や背景情報を指す
・相手の知識が高い場合、冗長率が高いと「はやく結論を教えてよ」となり、あまりよくない(論文のケース)
・相手の興味や知識が低い場合、冗長率が高い方が興味を引き出す場合がある(学生のケース)

このように、相手の知識や興味に合わせて冗長率をコントロールすることで、同じ内容でも伝わりやすさが変わってくるのです。

これは、社内のコミュニケーションでも同じです。

業務内容を良く知っている同じ部署の同僚や上司に話すなら、冗長率は低く、事実や結論をコンパクトに伝えた方がよいかもしれません。

逆に、内容を良く知らない他部署の同僚や、経験が浅い後輩に話す場合は、冗長率を高くした方が良いかもしれません。

冗長率を高めるといっても、まったく難しくはありません。

例えば、「そもそもなぜこの業務が生まれたのか」や、「個人的にどこが面白いポイントなのか」など、一見すると関係ないような話を少し追加すれば良いだけです。

そうすることで、相手の理解を深めたり、仕事に対する興味を高めることができます。

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会議の前に5分だけ、伝えたい相手の興味や知識について考えをめぐらせて、自分の話す内容の冗長率を調整する。

今年は、そんな、相手のことを考える「 #やさしい時間 」を持つようにしたいな、と思います。

冗長率「2割増」時代?

会議では無駄口を話すな。プレゼンは論理的に話せ。

ビジネスの世界では、冗長率は低い方が良いとされてきました。

しかし、テレワーク中心の今、その常識が少し変わるかもしれません。

在宅勤務が続くと、「今、何が起こっているのか」が分かりにくく、上司・部下ともにお互いの現状把握しずらくなります。

その結果、業務に関する最新情報は乏しく、場合によっては相手に対する興味・関心も減少傾向にあるかもしれません。

ということは、もしかしたら、冗長率を意識的に2割ぐらい増していったほうが、社内のコミュニケーションは円滑になるかもしれません。

内訳としては、自分が話す内容の冗長率を1割増やすと同時に、相手の余計な話を聞いてあげる意識も1割増にすると良いのではないでしょうか。

実は、雑談的に話を聞いてほしい人も多いような気がしていますし、結果的に相手の話を聞くことで、思わぬ発想が広がったりもするものです。

私も、1時間のオンライン会議のうち、10分ぐらいは「冗長タイム」だと思って、雑談をしたり、されたりするようにしたいと思います。

おまけ

博士論文の執筆を少しずつ始めています。お正月は、「価値共創」について10冊ぐらいまとめ買い。ユーザー・イノベーションの「共創」と、S-Dロジックの「共創」はだいぶ違うということが良く分かりました。


#日経COMEMO #やさしい時間



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