地球建築家 vol.3 エリック・グンナール・アスプルンド
涙が出た
冒頭の写真、彼の遺作とも言える「森の火葬場」のアプローチである。
不覚にも涙してしまった。
一体何に涙したのかよくわからなかった。「感動したから」ということでもない。
抜けていったのだ。
その時体の中に溜まっていた鬱々とした感情。長旅の不安や恐れ。それらが芝生の平原にサッと飛び出し、吸い込まれるように空に消えていった。
そして、心が安寧で満たされた。
しかし驚いた。建築を観て涙するとは。そんな経験はそれまでただの一度もなかったし、それから現在に至るまでもない。たった一回、それっきりである。
「森の火葬場」は建築というより「場所」である。写真からもわかるように、アプローチの奥左側にある火葬場は木に隠れて見えない。敷地のほとんどがこの大平原である。
この大平原が彼の一番の作品である。
アスプルンドは「作らない」建築家である。森を切り開いてつくられた火葬場であるが、切り開くのも極最小限にとどめてある。
人間が死を迎え、この世に別れを告げる「大いなる場所」をつくったのだ。
アスプルンドは晩年に文字通り、命をかけてこの火葬場を設計した。
「今日は私、明日はあなた」
敷地内にある石碑に刻まれている彼が残した言葉だ。
生も死も繋がっている。死は決して怖いものではない。生も死も分けるものではない。全ては同じものではないか。そんなことを言おうとしているように思える。
この平原は死者の思いを空に放ってくれる。私の思いも空に放ってくれた。
そして「大丈夫だよ」と雪に凍えた体を、ほんわりと温めてくれた。
もはや建築ではなかった。
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