香山の39「カーネル・パニックⅩⅢ」(57)

 いいか、俺もお前も患者なんだ。俺は『反社会性パーソナリティ障害』、お前は『薬物依存』という、歴とした病気のね。……となれば、そう。シャーマンの呪術のようなスピリチュアルな方法ではない、然るべき、確立された方法で病魔は、必ず退治できるんだ。孤独に戦う勇気があろうと、助けなしでは孤掌難鳴なのさ。俺が一緒に模索して治す方法を探してやる。
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 明が話を区切って息をついた。
 彼の脳裡が撃つ情念は太陽フレアのように盛り始めていた。彼は灼熱で私に救済を与えるべく、肉体だけではなく魂も動員して発声していた。同時に指先は痙攣をはじめて、(その形象のみは私が薬物を欲するときのように)、彼は自分で気づいていながら敢えてそれを前面へ押し出していた。恐怖ではなく、豪胆からなるその震えが果たして、私を失望させるはずがないと思っていたのだろう。―恐怖だけで痙攣を説明するなど、怠惰から発症した精神的吃音を抱えた、言葉が乏しい者のすることだ。
 彼の救済は私の中にあった残酷な通説を否定した。彼は私を信頼していないのでない。実相はそんなものではない。彼は、私を信頼しており、それを肉体に享受しようと葛藤していたのだ。人を信頼していないのは、外ならぬ私であった。すると明は途端に光を帯びた一人の青年に様変わりして見えた。彼は、私が待ち望んだ白い光を放っていた。
「そうだった……この世界は虚構なんかじゃあないんだ。その証拠に、そら」
 彼がiPhoneを取り出して、メモアプリを開いた。一読するとそこには、私の信じていた対談が一字一句異なることなく書き記されていた。
「これはお前から命令されて柴田隼人を殺した際に、役に立つかも知れないと思い、彼のパソコンから抜き取った原稿だ。俺達をモデルに小説を書こうとしたらしいが、所詮は無能な学生だ。素人らしい奇抜な描写で、拙劣極まりない文章で構成された対談だけしかまだ書けちゃいなかった。
 おかしいとは思わないか。作者というのであれば、俺達の思考をすべて掌握していなければならない。それなのに、ここに書かれている俺達は裏をかくかのような発言をしているではないか。それに、わざわざ場を設けて登場人物の意見を聞き取る必要がどこにあるというのかね」

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