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【小説】つまらない◯◯◯◯ 24

 そういう何もなかった人たちにしても、どうして近付けなかったのだろうと思う。俺のことを好きだったり、興味持ってくれているんだなとは思っていた。そして、俺のほうもそうできるならそうしたいと思っていた。けれど、相手と顔を向き合わせるたびに、実際はあんまりそういうわけでもないのかなとか、別に何があってほしいというわけでもないのかもなとか、そんなことばかり思ってしまって、何かをしようという気持ちになれなかったのだ。
 そんなことはないとは思いながらも、身体の感覚としては、相手の態度に、むしろ距離を近付けることを拒否されているようなニュアンスを感じ取っていたのだと思う。距離が近付く人とは、自然とそういう雰囲気になって、そのまま身体をくっつけ合うようになっていくけれど、近付けなかった人たちは、そういうムードが自然と生まれようがない感じに、俺への気持ちを表に出ないようにしている感じがしていた。それは、わかりやすくいえば、でれでれしてくれているのかどうかということだったりはするのだろう。もちろん、好きだからといって、自分をどう思っているのかはっきりとしていない相手にでれでれするのは、恥ずかしかったり、自分をみっともなく感じたりすることではあるのだろう。けれど、でれでれするほどあからさまに態度に出さなくても、気持ちや気分が伝わるくらいの態度で一緒にいることはできるんじゃないかと思うし、俺はそれくらいには態度に出していたのだと思う。何かしらは思っているのだろうに、何事もないかのような顔で、何事もないかのように話をされていると、話はそれなりに盛り上がって楽しく過ごせていても、その適度な距離を取ろうとされる感じに、なんとなくしらけてしまうところがあった。単純に、俺は自分からは何事もなさそうな雰囲気を崩さないようにしている人が苦手なのだろう。そういう態度を取られるたびに、俺のほうも身構えてしまって、自分から前のめりになろうともできなくて、さっさとただ会話を楽しんでいればいいというふうに切り替えてしまっていたのだと思う。
 そういう何事もなさそうな雰囲気の中で微妙な沈黙が繰り返されているときに、自分から無理に近付いてみたこともあったのだと思う。けれど、そういう何事もない顔をしたがるタイプの人に無理をしてみても、それに応じてくれた相手のリアクションというのは、まぁいいかというくらいの、こちらがうれしくなれるほどのものではないことが多かったし、お互いにその気があるときと、俺がそうしたいならどうぞという顔をされているときとでは、こちらの気持ちはまったく違っていた。それは無理をして身体に触れてみても同じで、そんなふうにやりだしてみても、こちらが何聞けばそれに対して肯定的に何か答えてくれるけれど、たいして強い気持ちがあるわけでもなさそうな、シチュエーションを軽く楽しんでいるくらいの反応しかなくて、こちらとしても気持ちが入らないままで、こんなふうならやらなくてよかったと思ったりもした。そういうことがたくさんあったわけではなく、二十代の前半にほんの一、二回のことではあった。けれど、その相手と何かあってもいいくらいには思っていたのに、実際にくっつき始めてからも、まぁいいかという以上には気持ちが入ってこない人もいるのだなと思って驚いたし、男と近付いたり何かをすることを駆け引きとか取引のようなものとして扱うような女の人というのは、それほど珍しくもないのかもしれないと思ったりはしていたのだ。
 そういうこともあって、二人で向かい合っていて自然と雰囲気が出てこないときに、自分から無理に近付かなくなっていったところはあるのだと思う。そういう何事もない顔をして、自分のペースを守りながら、こちらの意思に任せるような態度を崩さないようにしているような女の人たちに対して、プライバシーの意識というか、自分が傷付けられないようにという気持ちが強すぎるんじゃないかと思ったりもしたし、そういう本気の感情じゃない、どっちでもいいかのような駆け引きに付き合わされているのを、バカにされているように感じたりしていたのだろう。
 ある程度その人を好意的に思っていたり、面白い人だなと思っていたけれど、そういう男を軽くバカにしたようなところに引っかかって、何度か飲みに行っただけで終わった人たちが何人いたのだろう。セックスしてみたいなとも思っていたし、してみればきっとそこそこいい感じにセックスできるんじゃないかと思っていたし、そうすれば、そこからは自分の気持ちを乗せた目で俺を見てくれるはずだろうとは思っていた。もったいぶった人なのは仕方ないのだから、そこは流して、キスをしてとりあえず服を脱がせればよかったのだと思う。実際に会う前にそう思ってから会ったこともあったのだと思う。けれど、俺任せというスタンスの顔を向けられるたびに、俺の気分はあっさりしぼんでしまって、じゃあ結構ですという感じになっていたのだろう。
 二、三年前に、もう何年にも渡って何度も二人で飲んだことがあったけれど寝たことがなかった人が、翌日の仕事の現場が俺の部屋の近所だからと、俺の部屋に泊めてくれと連絡してきたことがあった。どうしようかなと思ったけれど、自分からそこまで言ってくるならいいかと思って泊まらせてあげた。かなり遅くにやってきて、酒を飲むでもなく少しお喋りして、寝ようかということになって同じベッドに並んで横になった。どうしたもんだろうなと思いながら、俺は相手の身体に触って、相手はまったく拒む感じもなく「なにしてるの」と言っただけで、俺がノーブラの胸の先をシャツ越しにくわえたりとか、尻を撫でたりしているのをそのままにさせていた。こちらが何か言っても、「ふーん」と言うくらいで、俺は気長にいろんなところに触れていたけれど、相手からは触れられているという以上の反応はなくて、ずっと息を潜めて俺が何かをすることを待っている感じだった。その待ち方にしても、待っているのがどういう気分なのかこちらに伝わってこないような、何事もないかのような白々しい待ち方だった。俺はそのまま身体を触ったり唇をあてているのもバカらしくなって、仰向けになって目を閉じた。そのうちすぐに眠ってしまった。
 同じベッドの上にいたときですらそうだったのだし、した人としなかった人の違いはそういうものだったのだろう。セックスした人とは、並んで歩いたり、少し身体が触れながら座っていたり、人によっては向き合って座っているだけで、もっと近付いたほうがいいような雰囲気が出てきていた。はっきりと言葉にするとか、露骨に相手に触れるだとか、そういう明確なものがなくても、お互いに顔なり態度に相手への気持ちが出ていれば、相手が発している気持ちに自分の中の近付きたい気持ちが引き寄せられて、どちらからというわけでもなく近付こうとしてしまうものなのだ。部屋に泊まりに来たりにきた人にしても、その何年も前に俺に彼女がいるのをわかっているうえで告白してきて、その後もちょくちょく連絡してきて、接点がなくなってからもたまに向こうから連絡してきて、いつの時点でも、俺が付き合おうかといえば付き合いたかったりしたのだろうと思う。けれど、それくらいには思ってくれていたうえで、ベッドの上で身体を触らせてくれていてもそういう雰囲気にならないほどに、自分の気持ちを自分の中に隠して、何事もなさそうにしながら、何をどうするにもすべて俺任せにしていたのだ。むしろ、ちゃんとポリシーをもって、俺が切り出すのを待っていたのかもしれないし、向こうからすれば、相手任せにしていたのは俺のほうだったのかもしれない。けれど、俺はそんなふうに切り出すつもりはなかったのだ。
 かといって、無理に近付かなかったことを後悔してもいるのだ。寝なかったことで得られたのは、あまりその人を知ることがないままになったなという気持ちだけだったりはする。セックスすれば仲良くなるし、セックスしたからできる話をいろいろしたりできる。とりあえずセックスして、仲良くなっていく段階の時間を過ごせれば、そこまでで充分にいい思いができたことになったのだろう。何もしなかったことで、何事もなさそうにされて嫌だったという以外には、何も感じないままになっただけだった。何か感じれば、それが残ったのだろう。何もないよりはそのほうがよかったのになと思う。


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