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【読書】狭小住宅【感想文】

狭小住宅

【第36回すばる文学賞受賞作】学歴も経験も関係ない。すべての評価はどれだけ家を売ったかだけ。大学を卒業して松尾が入社したのは不動産会社。そこは、きついノルマとプレッシャー、過酷な歩合給、挨拶がわりの暴力が日常の世界だった……。物件案内のアポも取れず、当然家なんかちっとも売れない。ついに上司に「辞めてしまえ」と通告される。松尾の葛藤する姿が共感を呼んだ話題の青春小説。

商品紹介より

 Xにて、この小説の一部が貼られていることがあって、気になっていたので購入。
 序盤繰り広げられるパワハラを超えたパワハラ(普通に暴行)の連続は、胃の痛くなる素晴らしい描写でした。この本にはあらゆる種類のハラスメントがぎっしり詰まっています。

 昨今のコンプラを考えると異常とも思える暴言の数々が飛び交うわけですが、わりと芯を食った名言(パンチライン)も多く、この作品の読み応えの大半はこの辺に由来しています。

 そして、前半は動のパワハラ、後半は静のパワハラとなっており、静と動のパワハラを経て、主人公が覚醒します。
 

 労働とは人間性の変容を伴うものであり、主人公はそれが悪い方へ向かってしまった感があります。私生活の破壊と人間性の喪失を伴ってもたらされる成功の行方は何処へ…
 

 立地、場所、間取り、すべてを叶える住宅は存在せず、いずれかを捨て妥協せねばならない
 タイトルの「狭小住宅」とは労働と人間との折り合いのメタファーなのかもしれません。
 覚醒した主人公を導く課長もまた、何かを諦めて敏腕営業マンへと変容した存在であり、未来のなり得たかもしれない主人公だと私は解釈しました。

 残念な点は、登場人物の大半が物語のための装置と化していてリアリティがあるようでない仕上がりになっているところが残念でした。
 特に、突然現れてすぐに恋人になってくれる女性があまりにもありえない人物像で、「家庭(プライベート)と仕事、主人公はどちらを選択するのか?」という場面を書きたいがためだけに登場させた感が強すぎました。

 総合的には素晴らしい小説でした。すぐに読み終わる分量で読みやすい文章なのでぜひ。


 ご拝読ありがとうございました!他にもたくさん記事書いてるので他の記事も読んでいただけると嬉しいです。

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