【読了】風のマジム 〜Island Dreamer〜
ラムという酒の存在は知っていたが、これまで口にしたこともなければ、原料がさとうきびであることさえ知らなかった。読み終わって、いや、読んでいる途中で、すでにラムに興味が湧いて仕方なかった。
彼女が魅了されたさとうきびの酒、風の酒(原料のさとうきびが風に吹かれて育つことが所以)と言われるそれが一体どんな味なのか。
僕がもともと酒が好きというのもあってか、逸りと緊張を引き連れ近くの小洒落たバーに足を運んでしまったくらいだ。日本ではあまり馴染みがないにもかかわらずその店にはいくつかラムが置いてあって良かった。
飲んだのはロンサカパというラム酒だった。
味の違いには疎い方だが、確かに美味しかった。
優しい痺れと、爽やかな甘みが舌から喉に伝わる感覚は、まさに風に吹かれたような涼しさと浮遊感だった。
沖縄のさとうきびから生まれた酒。
沖縄の風に吹かれて育った酒。
もしも、そんな酒があったなら。飲んでみたい。
いや、違う。造ってみたい。
その思いは、きらりと光って、
すとん、と落ちてきた。
流れ星のように。
まじむの心の、真ん中をめがけて。
彼女の動機は本当に単純だ。日本一のさとうきびの生産量を誇る島原産のラム酒が、どうして存在しないのか、その疑問が、飲んでみたいという好奇心に変わり、そして造ろうという決意に変わる。
「あったらいいなあ」と夢見ることは少なからずあっても、その夢を実現させるために躍進すること、真っ直ぐに熱意を注ぐことは並大抵にできることではない。その行動力と懸命さに、奮い立たされずにはいられない。
きっと造ってみせる。いつの日か、大好きな人たちと酌み交わせるように。
彼女がラム造りに粉骨砕身して取り組んだのにはきっといろんな思いがあったからだろう。
社内ベンチャーを勝ち取りたい。無気力で安穏な日常が退屈。生まれ育った郷土の誇りと呼べる物を自らの手で作りたい。
どれも殊勝な理由に違いない。だが、それだけではきっと、彼女の心はなくなってしまったのではないか。造酒の困難さに、事業の重荷に波打たれ流されるように。
最後まで彼女がラムの完成に躍起になったのは、もっと単純明快で純粋な、真心にあふれた願い。硝子玉のように透明な信念を持っていたからだ。
些細な日常を彩る予感が、大切な人の笑顔が彼女の夢を後押ししていたのだと思うと、胸が明るく晴れ渡る気持ちでいっぱいだった。
彼女のひたむきな情熱も、それに感化される人々の思いやりも全てが温かかった。
まさに風のように吹く真心と情愛で、澱みがすっと晴れるような気持ちを味わうことができた。
出来ない事はないのだと、そう強く思わせてくれた。
〜〜あとがき〜〜
この一冊は実在する女性と、その女性が立ち上げたラム製造会社がモデルになっている。現実に日本の南の離島に拠点を構えるその会社で「風が育てた酒」が生まれている。
影響を受けやすい質なのか、それとも、もともと酒を嗜むことが好きだからなのか、それを知ってから調べる手が止まらない。
その「コルコル」という名の付けられたラムを、
いつか現地の風に吹かれながら飲んでみたい物だ。