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【読了】やめるときも、すこやかなるときも

誰もが傷を負って生きている。それぞれ形も深さも色も違う。違うが故に側からは見えないもの。そんな当たり前を深く突きつけられる。 それと同時に、欠けた心同士がぎこちなくも融和していく様子が、愛おしさとなって目の奥に染み込んでいく。 壁のカレンダーを見た。もうすぐ十二月。三十一個ある数字のひとつに僕の視線が止まる。今年もまたその日がやってくるのかと思う。 暦の中のとある一日、ありふれた風景の一角、何気なく交わした会話。自分以外の誰もが気にも留めないものに自分だけが心を乱される。

    • 【読了】風のマジム 〜Island Dreamer〜

      ラムという酒の存在は知っていたが、これまで口にしたこともなければ、原料がさとうきびであることさえ知らなかった。読み終わって、いや、読んでいる途中で、すでにラムに興味が湧いて仕方なかった。 彼女が魅了されたさとうきびの酒、風の酒(原料のさとうきびが風に吹かれて育つことが所以)と言われるそれが一体どんな味なのか。 僕がもともと酒が好きというのもあってか、逸りと緊張を引き連れ近くの小洒落たバーに足を運んでしまったくらいだ。日本ではあまり馴染みがないにもかかわらずその店にはいくつか

      • 【読了】青くて痛くて脆い

        僕ら、その季節を忘れないまま大人になる。 この一文を読んだ時、過去を思い出した時点で、僕はすでに「その季節」の真っ只中にはいないのだ。けれど思い出したものがあるということは僕にも確実に「その季節」があったのだろうとも思う。少年と少女のように若葉のような青い希望を抱き、思い出すと胸のどこかがチクリと痛む、そんな時頃。消せるものならそうしたいのに、こべりついて離れない、ならそれでもいいかと記憶の片鱗で留守番させて前を向く。 それが良くも悪くも大人になるということかもしれない。

        • 【読了】Red

          不倫の話だと思っていた。 大方その通りだった。 だが、それだけではなかった。 道徳から逸れた男女の淫欲を綴っていながら、時折純心が見え隠れする、欲望の中に透き通ったものが混じっている、そんな世界だった。 "不倫をしてはいけない" 小学校の道徳の授業でも、中学校の保健の授業でも習った記憶など無いのになぜか、その概念は僕の中にいつからか居座っている。 とは言っても、不倫はきっとなくならないとも思う。「不倫は文化」なんて言葉がある。発言騒動の真相は置いておくとしても、あながち

        【読了】やめるときも、すこやかなるときも

          【読了】流浪の月

          せっかくの善意を、私は捨てていく。 そんなものでは、私はかけらも救われない。 帯に書かれた文章に全身が吸い込まれた気がした。 共感ではなく、同情の類とも違った。 ただわからなかった。 おそらくはこの活字の世界の中の少女が、それを明らかに善意と認めて、なお、受け入れない理由が。 単に思いやりを毛嫌いしているのとも違う。 明確に必要ないと悟り、拒絶を望んでいる。 諦めや、若干の哀れみを纏った潔ささえ感じさせる一文は何なのか、釘付けになり視線を逸らせなかった。 帯の一文の答え

          【読了】流浪の月

          【読了】本日は、お日柄もよく

          果たして自分は、身を貫かれるような興奮に出逢ったことはあるだろうか、焦がれるように夢中になったことはあっただろうか。 読了後、そんな思いがざわざわと全身を巡った。 きっと無いのだろう。もしあるのならそもそもこんなしみったれた考えは過ぎらない。 毎日ボールを追いかけたあの頃でさえも、所詮は惰性と共に置き去りにしてしまった過去の遺物に過ぎない。もし僕が今でもそれに魅了されているというのなら、今も変わらずボールを追いかけているはずだ。 熱中するとは、きっとそういうことなんだろう

          【読了】本日は、お日柄もよく