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ヨーロッパ小児感染症学会に参加した話

今週いっぱいかけてデンマークのコペンハーゲンでヨーロッパ小児感染症学会(ESPID、通はエスピッドと読みます)があり、自分の発表はなかったのですが、おもに情報収集とネットワーキングのために参加しました。ロンドンからの参加だったので1時間半くらいで到着。普段使っているケータイも何の設定変更もなく利用開始可能で、日本から参加するのと比較すると当たり前ですがいろんなことがめちゃくちゃ楽だなと思いました。

思わず一緒に写真を撮りたくなるオシャレな看板や掲示物が多いです。

今年のESPIDはもともとイスラエルで開催予定だったのですが、昨今の世界情勢を鑑みていつの間にかコペンハーゲンに変更されていました。コロナ前に他の都市でのESPIDに参加したことがあるのですが、昨今の円安の影響や当初イスラエル開催の予定だったこともあってか、今年は日本からの参加者はものすごく少なかったです。

学会全体のトレンドとしては、すでにRSウイルス予防のNirsevimabが導入されている国の流行状況の報告や、コロナ前後での感染症の流行変化・抗菌薬使用状況の変化、ChatGPTなどAIに関する話題、SNSの活用に関する話題などが目新しいかと思いました(この記事では医学的なことはあえてあまり触れません)。

学会の会期は月曜〜金曜の5日間で、北米のIDWeekと同様に1週間かけて行われます。海外の学会は食事の面倒まで見てくれることが多く、今年のESPIDは朝はクロワッサンとコーヒー程度のものは出されて、昼はビュッフェ形式でした。夕方にはちょっとした焼き菓子やアイスクリームなども出されたりします。苦学生の私は昼にここぞとばかりに食べまくっていました。

昼のビュッフェ。5日間毎日メニューが変わっていました。
食に関してもいろんな文化背景・信条の人がいるという背景のもと、結構いろんなものが置かれていました。

今回の会期は毎日快晴で20度を超えるような日が続きました。参加者はもはや夏の格好をしており、スーツ&タイの人はごく少数で、スマートカジュアル的な格好の人が一番多いと思いました。託児所的なところはないですが、普通にこどもを連れて参加している人も沢山いました。発表中の会場内で小さいこどもが泣き出したけど誰も気にしない、みたいなこともありました。

日本の学術集会ではいわゆる「総会」は正直つまらないものと思い込み参加したことがなかったのですが、今回ESPIDでは色々な事情があってAnnual Grand Meeting(AGM)というイベントに参加しました。ESPIDの通年会員が参加するとポイントが獲得できるので、私はこのポイントが欲しく参加したわけですが、学会としてなんか色々面白いことやってるんだな〜と思ったことがあります。

まず、Young ESPIDの存在。ESPIDの通年会員で40歳未満の人は自動的にYoung ESPIDと呼ばれます。Young ESPIDは年次集会の時に若手主催のイベントが複数開催される他、学会全体の「なんとか委員会」みたいな運営側にも参加が求められます。たとえば教育委員会や学術委員会など日本の学会にもあるような委員会に、Young ESPID会員も2名ずつ参加が必要となっていて、若手の意見も尊重するための方策のようでした。ちなみにYoung ESPIDとして委員会メンバーに選ばれるためには推薦または立候補の上での信任投票が必要で、ESPIDの年次会員としてこういう案件のメールが普段からよく届いていたのでこういうことかと腑に落ちました。このためYoung ESPIDとして委員会メンバに選ばれるのは名誉なことのようで、きっとCVとかにも書くんだと思います。またAGMに参加すると付与されるポイントを一定以上集めると、Good Standing Memberという立ち位置になることができます。日本語でいうと優良会員みたいな感じでしょうか。ESPID会員でかつGood Standing Memberの条件を満たすと、ESPIDが主催する数々のFundingに応募できるようになったり、色々と良いことがあります。このためAGMは若手も含めて大盛況で立ち見の人も沢山いました。

AGMではいろいろある委員会からの年次報告がされるわけですが、会計からの報告によると、学会費・学術集会の参加費など色々の収入が2023年度は130万ユーロくらいだったそうです。これが多いか少ないかはおいといて、面白いなと思ったのがここ数年ずっと結構な黒字が続いたので、若者の研究や研修を支援するためのフェローシップの枠組みを増設しましたと言っていたこと。結果として収支はプラス1万ユーロくらいになるように運営されているそうです。

研究を支援するための枠組みは結構数が多く、生活費として研究者を支援する給与型のものもあれば、もう少し小口の研究費を支援するものもありました。自分も知らなかったのですが、これらの研究費への応募はESPID会員であることとGood Standing Memberであることだけが条件で、ヨーロッパの学会ではありますが世界中の誰にでも門戸が開かれています。また研究を実際にする場所も、受け入れ側のスーパーバイザーがESPIDメンバーであれば世界中のどこでも良いという、これまた寛容な条件になっています。これとは別に各学会賞も非常に充実しており、ちょっと名前からは他の賞とどう違うのかよくわからないような賞も沢山用意されていました。これらの詳細はESPIDのホームページに公開されています。

また、SDGs委員会なるものがあるのも興味深かったです。国連が言っている持続可能な開発目標を達成するためにESPIDとしても貢献し、それをアピールをするための委員会なのでしょう。AGMでは昨年のリスボンでの年次集会における参加者・参加国などを分析して、カーボンフットプリントはこうでした、という報告をしたりしていました。また今年からSustainability Travel Grantというトラベルグラントが新設され、学会会場までバスか電車で来た人の参加費を割り引くなどしているようです。また、参加者が観光する際に公共交通機関を使うことを促すために参加者は割引価格で公共交通期間乗り放題チケットを購入できるようにしたり、プログラムの電子化の徹底、名札は各自で印刷して持ってくることを推奨、ポスターは全部電子化、など色々な取り組みが行われていました。

学術集会全体を通してX(旧Twitter)を通じて、学会自体がものすごく情報発信をしているという印象でした。この裏側にはYoung ESPIDメンバーを中心としてESPIDアンバサダーが任命され、SNSでの情報発信が一任されているようです。それでもAGMの途中では、SNSを学会としてもっと上手に使うための委員会を設置した方が良いんじゃないかという声が上がっていました。

ESPIDは毎年ホストとなる都市が異なるので、次の開催地はどこかな〜という楽しみがあります。AGMの最後は来年のホスト国であるブカレスト(ルーマニア)の紹介で締めくくられましたが、宣伝するためのプロモーションビデオが流れ、ルーマニアで活躍する医師兼タレントの知らないお兄さんがブカレストを案内する内容でした。会場はHouse of Parliamentというところで、アメリカのペンタゴンに次いで世界2番目の延べ床面積を誇る建造物だそうです。内部装飾も宮殿のようで、そんなところで学会が行われるなんてすごいでしょ?と次期会頭の先生もご満悦でした(Wikipediaによると世界第3位と書かれていました)。

企業展示は日本でも普通にありますが、各ブースに足を運ぶとカフェばりのメニューの豊富さでいろんなものをくれます。
ポップコーンマシンや、フォトブースを設置している企業もありました。

その他、学会内容とは関係ないことですが、演題を聞いている時にふと近くの人が開いているノートパソコンを見ると、明らかに遠隔で電子カルテにアクセスして仕事をしている人をちらほら見かけました。感染症医の仕事はよほどのことがなければ遠隔でできることも多いので、単純に羨ましいな〜と思いました。

自分も国際学会への参加経験はまだまだそんなに沢山あるわけではないですが、これまで参加してきた中でもESPIDは毎回楽しい学会だなと思います。参加者全体のリラックスした雰囲気や、ネットワーキングのしやすさ、企画の面白さなどからそう感じるのかもしれません。来年自分がどこで何をしているかまだ未定なのですが、間に合うようであればブカレストにちゃんと演題を出して参加したいなと思いました。


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