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音と読む短編小説 インク/ フラチナリズム 『4431』より

濡れた髪にドライヤーを当てながら
鼻歌を歌っていた。

伏線張り巡らせ 回収していくんだよ
このお話には終わりなどはありません

君を愛してる

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インク/フラチナリズム

その日は私たちの記念日だった。

わたしは「記念日はあなたの作ったビーフシチューが食べたい」とリクエストをしていた。

以前、仕事がクタクタに忙しくて 会う約束をしていても夕飯を作る労力と気力は残って無いぞ…という時に
「シチュー作ってあるから早く帰っておいで」と知らせを貰ってひどく感激したことがあった。
しかも、それがめちゃくちゃ好みの味。
ただの家庭のシチューなのに。
それ以来わたしは「あなたの作ったビーフシチューが食べたい」が発動する。

記念日のリクエストにはさすがに
シチューぐらいならいつでも作るのに…と返事をされたが
記念日だからこそ甘やかされたいのもあった。
その代わりに「ほうれん草のバターソテーして」と
わたしで言う「あなたのシチュー」と同じリクエストが返ってきた。

………………

帰宅すると大好きなシチューの香り。
それだけで頬が緩む。
「先にビール呑んで座ってて」
甘やかし最高。
運ばれてきた大好きなビーフシチューを目の前に、一目散に食べる。
美味しいは幸せ。
「お腹いっぱい…もう食べられない」
「…冷蔵庫にケーキあるよ?」
「嘘です、食べます!!」
甘いもの最高。
チョコレートケーキ。
切り分けたケーキを、一目散に食べる。
美味しいは幸せ。
これもひどく気に入ってしまい、「あなたが選んできたあのケーキ」になりそうだ。

本当にお腹も満たされ、ひと休みしてから
わたしが洗いものを始めると
「荷物届いてんだった 行ってくる」宅配ボックスまで出ていく。
戻ってきたと思うと、きてた。と部屋に箱を放った。

洗いものを片付けて彼の居るソファに沈む。
「あの箱、開けて?」
「わたしが?」
プレゼント…にしては乱雑。
バリバリっと開封すると
そこには剥き出しのランジェリーが丁寧にパッキングされていた。
笑う。透け透け。
「プレゼント?笑」
「これ凄いねってこないだ話したじゃん?笑」
「なにこれ、笑う」
「良かったね、サプライズだからね笑」
本当に買ってるなんて思ってなかった。
笑いが止まらない。

「…あと、あのテレビの、下のガラス扉から…」
ソファの正面にあるテレビ台に見覚えのあるラッピング。
本当のサプライズはこっちだった。
大好きなアクセサリーブランドの袋だから、開けなくてもわかる。
わたしは嬉しくて立ち上がれない。
何度もかわいいかわいいを連呼するもんだから、乱雑にパッキンに戻された透け透けのランジェリーを引き合いに
同じプレゼントなのに扱いに差をつけるなんて悲しい…とネタにして笑う。

こんなに
甘やかされて、与えられる時間が満たされているのは久しぶりに感じる。

「明日残ったビーフシチュー アレンジしてね?
ケーキも残りは明日ね。
さ、お風呂いれるからゆっくり入ろう。」

2人の物語は上手い例えもできない。
愛してるなんて言葉もいらない。
でも、ただの御伽噺ではない。
わたしたちには明日がある。

誰も知らない2人のストーリー
2人ですら知らない
もしも願っていいなら

ハッピーエンドにしよう

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2020年10月7日にリリースされた
フラチナリズム『4431』
まるで短編小説のような楽曲たちを短編小説にしてみました。

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