湿度文学。

湿度の高いアングラ街に住む、救われたい人々の日常。短編小説、写真。Twitterでも「…

湿度文学。

湿度の高いアングラ街に住む、救われたい人々の日常。短編小説、写真。Twitterでも「湿気の街」の140字小説を書いてます。

マガジン

  • 【白鳩の聖域】編

    カルト教団、「白鳩の聖域」が、湿気の街を幸福で満たした。全3話(【白鳩の侵食】編の続きです)。

  • 聖なる夜の特別編。

    聖なる夜の特別編を纏めました。

  • 湿気の街。

    本編の記事を纏めました。

  • 【白鳩の侵食】編

    カルト教団、「白鳩の聖域」が、湿気の街を侵食していく。全6話。

  • 【ドヤ区域】編

    底辺の、底辺。ようこそ、湿気の街のドヤ区域へ。全6話。

最近の記事

  • 固定された記事

湿気の街の住人。

どうも、湿度文学。です。 年中、湿度の高い街、「湿気の街」。 ここでは、noteとTwitterで投稿している文章に登場する、街の住人を紹介します。 ようこそ、湿気の街へ。 * ペストマスクの男 濃紺色のペストマスクを被った男。「湿気の街」の住人を憂鬱から救おうと奮闘している。自称、「救世主」。正気な女子高生曰く「笑顔はあまりにも屑そう」。コーヒーと煙草が好き。イケメンが死ぬ程嫌い。 正気な女子高生 憂鬱になれない女子高生。「深海魚」と呼ばれる「湿気の街」の

    • 白鳩の麻薬王。

       全てを手に入れる過程が好きだった。  誰かの物、誰かの土地、誰かの人生……。自分のものではない何かが、徐々に自分の色に染まっていく光景が、堪らなく好きだった。 「湿気の街」を手に入れたいと思ったのは、僕の色が濃く染まりそうだったから。  噂で聞いた。都内に、年中湿度の高い街があるということを。その街の住人は常に憂鬱に侵されており、思考も出来ず、ただ俯き歩き続けている。 「次は、湿気の街に決定ですわね」  僕の右耳の下で優雅に羽ばたく白鳩のピアスが、上品な声で言った。 「はい

      • 特別編:死体掃除屋、「脊」。

         目を覚ます度、灰色の現実に悲観する。とは言っても、バトル漫画の主人公が敵に味方を殺され勝つ手段もなく握った拳を地に叩き付けて思わず泣き叫んでしまうようなものではなく、部屋の窓から見える灰色の空を眺めて、「いつまでこの日常が続くんだ。このまま何の生き甲斐もなく呼吸を続けて何の意味がある。早く消えてしまいたい」という軽い希死念慮に抱き締められる程度の無価値なものに過ぎない。  鉄製のベッドに質の低いマットレスを敷いただけの瓦落多から降りると、俺は簡素な机の上に置かれた飲みかけの

        • 聖なる夜の特別編:呪物サンタ。

          「奴が来るぞ 奴が来る  聖なる夜に 奴が来る  真っ赤な帽子と鬼のお面  奴が来るぞ 奴が来る  聖なる夜に 奴が来る  大きな袋と錆びた鋸  奴が来るぞ 奴が来る  人肉求めて 奴が来る」  自覚出来るぐらい掠れた自分の声が、聖なる夜の所為で更に憂鬱に染まった街に漂う。  それでも私は、歌い続ける。 「奴が来るぞ 奴が来る  聖なる夜に 奴が来る  真っ赤なお鼻と馴鹿のマスク  奴が来るぞ 奴が来る  聖なる夜に 奴が来る  大きな角と死を捉える目  奴が来る

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        湿気の街の住人。

        マガジン

        • 【白鳩の聖域】編
          3本
        • 聖なる夜の特別編。
          4本
        • 湿気の街。
          58本
        • 【白鳩の侵食】編
          6本
        • 【ドヤ区域】編
          6本
        • スピンオフ:殺戮忍者
          3本

        記事

          白鳩の聖域。

           手を打ち合わせる音が、辺りに響き渡る。  天井、壁、床、全てが真っ白に染まった、小劇場程の広さの部屋に俺はいる。  俺を含め30人ぐらいの白色の装束を着た男女が、同じ方向に向かって拍手をしている。  俺達の視線の先には、舞台がある。舞台上には、3人の男がいる。こちらを向くようにして立つ、白髪の男と白色のペストマスクを被った男。そして、ペストマスクの男の足元に蹲る、白装束を着たマンバンヘアーの男。 「皆さん」  白髪の男が、美しい切長の目で山を作った。  それを合図に、舞台下

          白鳩の聖域。

          ペストマスクの白鳩。

           あの頃に戻りたいと、ほんの少し思っただけだった。  夜、ベランダに出て煙草を吸っていたら、街の暗さ、道を照らす明かり、虫の鳴き声、自動車の優しい走行音が、妙に懐かしく感じた。  短くなった煙草を、まだ少しコーヒーが入っているアルミ缶に入れ、部屋に戻った。  濃紺色のペストマスクを被って、煙草箱と財布、スマホをスウェットパンツのポケットに入れる。凸凹のバールを握って、暗く湿った夜の街へと繰り出した。  いつもと変わらない街並み。それなのに、思い出に浸れるような演出をしてくれて

          ペストマスクの白鳩。

          グレーアッシュの悪魔。

          『黒熊ヒーロー、指名あり』  俺のスマホに、「殺戮婆」からメッセージが届いた。  メッセージに既読を付け、背後の壁に設置された大きな硝子ケースに向かう。ケースの天井部分には照明が取り付けられており、陳列された様々な武器が美しく光っている。その中からネイルハンマーを取り出し、カウンターへ向き直った。  ここは、「湿気の街」のラブホ区域にあるラブホ、「胔」。胔は特殊なラブホで、通常のラブホとしての営業と、会員登録をしている殺し屋の管理を行なっている。1〜3、5階は、ラブホの部屋と

          グレーアッシュの悪魔。

          特別編:肉切り屋、「赫」。

           調理台の上に寝かせた、裸の男の死体を見下ろす。  彼の頭頂部は分かり易いぐらい凹んでおり、一目でもう生きていないということが分かる。  男の死体の周りを、ぶぉんぶぉんと元気に飛び回る紫色の蝿を左手で払う。自分の首を左右に傾け、両耳に付けた白色の百足のピアスを、ゆろりゆろりと揺らす。 「湿気の街」の居酒屋やスナックが立ち並ぶエリア、居酒屋区域。その中にある元居酒屋の廃墟。ホールの奥にある、得体の知れない蟲が這う厨房が、俺の仕事場だ。  俺は右手に持った牛刀を振り上げ、男の死体

          特別編:肉切り屋、「赫」。

          特別編:牛蛙の魔窟。

           ぬちゃ、ぬちゅ、ぬちょ……。  灰色が支配する空間に、泥濘んだ地面を踏む不快な音が響く。  深夜1時。  辺りを見回しても、明かりなんてない。スマホから放たれるライトで、足元を照らして歩く。  ここは、「湿気の街」の廃墟区域。エリア名の通り、辺りには廃墟しかない。元一軒家、元肉屋、元ゲームセンター、元ラブホ……。このエリアからは、生気を感じない。土地自体から魂が抜けたような、死体というより骨のような、虚無に近いものだと思った。  元住宅街を抜けて、元アーケード商店街を歩く。

          特別編:牛蛙の魔窟。

          五寸釘の白鳩。

           幸せは、残酷だ。  夜の湿った路地裏の湿った地面の上に、勢いよく前から倒れた。ねちゃ、という不快な音と共に、得体の知れない液体を含んだ土が口と白Tシャツに入った。口の中で、しゃりと音が鳴る。あまりの気持ち悪さに、嗚咽を繰り返しながら泥を吐き出した。  何とか体勢を直そうと、四つん這いになる。立ち上がる為に、両手と両膝と両足に力を込めた瞬間、背中に鈍痛が走る。 「んがはっ!」  呻き声を上げて、再び俯せに倒れた。 「げぼっ、わ、悪かった、悪かったよ!」  両側を居酒屋やスナッ

          五寸釘の白鳩。

          湿度の高い街娼レポ:蔕。

           ぬちゃ、ぬちゅ、ぬちぃ……。  ラブホとラブホに挟まれた小路を進む。泥濘んだ地面を踏む度に鳴る足音が、今夜はいやらしい音に聞こえる。  むぶぉぉぉぉおおおぉぉぉ……。  両側から室外機の野太い喘ぎ声が聞こえる。それに呼応するかのように、紫色の蛙も興奮したような鳴き声を出す。 「蔕」。そう白色の文字で記された電飾看板が紫色の光を放ち、辺りを怪しい色に染め上げている。  こちら側から見て道の右側に置かれた電飾看板の後ろには、室外機に座って正面にあるラブホの薄汚い壁を眺める1人の

          湿度の高い街娼レポ:蔕。

          肉屋、「蟷」。

           がごっ、がごっ、がごっ……。  紫色の光で照らされた黴臭い厨房に、力強く心地よい切断音が響く。  がごっ、がごっ、がごっ……。  この音を聞くだけで頬が緩み、自慢の鮫歯が口から覗く。ぶぁんぶぁん、と手元で鳴る羽音が更に私を高揚させる。  ここは、「湿気の街」にある廃墟ばかりが並ぶエリア、廃墟区域。そこにある大量の建物の内の1つ。元中華料理屋である、2階建ての廃墟。当時は、1階が食堂、2階が厨房だった。  かつての活気を失った厨房にある調理台の上で、私は人間の死体を切断してい

          肉屋、「蟷」。

          バレンタインの特別編:闇バレンタインデー。

          「チョコ渡す資格なんて、もうないアル」  ラブホとラブホに挟まれた路地裏。道を照らす唯一の明かりは、両側にあるラブホの電飾看板。  ころころころ……。  私はピンク色の妖しい光を放つラブホの料金表に背中を預けて、桃味の棒付きキャンディを堪能している。 「うぅ……私はもう……駄目アル」  道を挟んだ反対側にある、廃墟ビルのようにぼろぼろなラブホ。その建物の壁にぴったりとくっ付くように設置された室外機の上に、チャイナ服を着た少女が座っていた。 「うぅ……私なんて……うぅ……乙女失

          バレンタインの特別編:闇バレンタインデー。

          聖なる夜の特別編:麻薬サンタ。

          「奴が来るぞ 奴が来る  聖なる夜に 奴が来る  真っ赤な帽子と鬼のお面  奴が来るぞ 奴が来る  聖なる夜に 奴が来る  大きな袋と錆びた鋸  奴が来るぞ 奴が来る  人肉求めて 奴が来る」  シャッターに両側を挟まれた地下通路に、歌詞の内容とはかけ離れた楽しげな歌声が響き渡る。  以前は栄えていたであろうこの地下商店街には、今や不快な湿気と点滅する蛍光灯と錆び付いたシャッターしかない。動きがあるとすれば、逃げるようにして走る紫色の鼠ぐらいだ。  そんな廃れた商店街を

          聖なる夜の特別編:麻薬サンタ。

          遺袋乙女。

           しゃりゅしゃりゅしゃりゅ……。  洋梨を食べながら、湿った夜の路地裏を歩く。  しゃりゅしゃりゅしゃりゅ……。  ぬちゃ、ぬちゅ、ぬちぇ……。  洋梨の咀嚼音と、スニーカーが泥濘んだ地面を踏む音が絶妙に重なり合って、鼓膜が心地よく震える。  道の両側に並ぶのは、室外機と黒ずんだ壁を伝う凸凹の配管。個人経営の居酒屋、雑貨屋、占い屋等の小さなお店。そして、闇夜を照らす赤提灯と電飾看板。  奥に進むに連れて、両側に並ぶ物達の外見が廃れていき、人がその場にい続けたいと思う空間ではな

          遺袋乙女。

          文学フリマ東京35の特別編:藍を売る者。

           ここでは、弱者は食われるしかねぇ。  むかつくぐらい湿度の高いこの街に、長年いりゃあ分かる。  カルト教団の信者、人身売買の商品、風俗への強制労働……。今まで何度だって見てきた。強い者が己の欲を満たす為、汚い金を生み出す為、弱者を道具にしている光景を。弱者が人ではなくなっていく姿を。  人が闇に喰われていく惨劇を見ても、何も思わねぇのかって? 安心しろ。心までは鬼にはなっていない。可哀想だとは思う。可哀想だとは思うが、それだけだ。  両手で握った金棒を振り上げる。 「や、止

          文学フリマ東京35の特別編:藍を売る者。