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#8ショートショートらしきもの「プロポーズ大作戦」

私には付き合って5年の彼氏がいる。
いつでも私のことを1番に考えてくれていて、何をするにも私を優先させてくれる。
周りには羨ましく思う人が多いようで、親友には「そんな男どこ探しても他にいないから、絶対に離しちゃダメだよ。」としつこく言われる。


見た目は一般的にはイケメンという訳ではないが、鼻筋が通っていて、背も高く、スリムで、かなり私好みだ。彼の良いところはなんといってもその優しい性格。気づかいができて、私の知らない私のこともわかってくれていて驚くくらいだ。


でもそれと同じくらい私も彼を理解している。
大学の時から付き合っていて、同棲を始めてもうすぐ3年になる。
2年目を向かえる頃から、口には出さないがお互いに結婚を意識している空気が流れる。
そんな頃から私はすごく不安になっていた。


結婚するということは一生この人と一緒に生きていくということで、どちらかが死ぬまで約50年ほど生活しなければならない。
本当にこの人でいいのだろうか?と考える。
ものすごく優しく、見た目も好きで、一緒にいて楽だし変に気をつかわない。


ただ、優しすぎるのだ。


何をするにもわたし優先なので、彼が主導で行動することがほとんどない。
いわゆる男らしさみたいなものが感じられない。
そうなってくると、嬉しいや楽しいという感情は常に湧いてくるが、恋愛におけるドキッとする感覚が全くないのだ。


彼に優しさを求める反面、少しの悪さのようなものもどこかで欲している。
一度そのことに気付いてしまうと、今まで彼の行動や愛情が加点方式で増えていたものが、アラを探す減点方式になってしまい、今や彼への愛は無くなってしまった。



だからといって嫌いになった訳ではなく、彼には幸せになってもらいたい。私とは違う世界で。



彼は誕生日や記念日のサプライズは常にしてくれるのだがいつもバレバレ。
何かを計画していると決まって口数が少なくなる。
最近あまり話さないなと思いカレンダーを見ると私の誕生日が近かったりする。


今回のもそうだ。最近口数が少ない。いつものよりもずっと。カレンダーを見ても記念日はない。
もしやと思い彼のカバンを見てみると小さな箱が出てきた。遅かった。早く別れを切り出すべきだったんだ。


この前、主人公が朝寝ている彼女を起こしてプロポーズをするという映画を見て私が、「プロポーズされるならこういう日常がいいな。」と言ってしまったのが原因だろう。
それは高級レストランとかを予約されてしまっては断れなくなってしまうから言ったことで、今プロポーズして欲しいという意味ではなかったのに。


そこから彼のプロポーズから逃げる日々が始まった。映画のように朝起きた時にされては逃げ場が無いので、朝はとにかく体調が悪いフリをし続けた。
彼のことだから体調の悪い時にはプロポーズはして来ないだろう。
優しい彼は仕事を休ませようとしてくるが仮病なのでそれはできない。
仕事を休むほどではないが、プロポーズはさせない程度の体調の悪さを演出する。


あとは別れるタイミングだけ。
私から切り出せば彼は酷く傷つくかもしれない。
どうにか彼から別れたいと言われるように仕向けよう。


そんな事をしているうちに4ヶ月がたってしまった。たびたび体調不良になる私を不審に思う事もなく、「仕事が忙しいから」と気づかってくれる。
実際に仕事は忙しくここ最近、本当に体調が悪くなってきた。


いつものように朝ごはんを作ろうと台所に向かうと頭痛が走り一瞬足元がフラついた。
でも今日は会議があって会社は休めないので気合を入れなくてはならない。



「大丈夫?」


彼は本当に私の事をよく見てくれてる。この一瞬を見逃さなかったのか。


「大丈夫だよ。」


だいぶしんどいが笑顔を作って答える。


「体調悪いでしょ。今日は絶対に仕事休みなさい。この間も休んでって言ったのに隠れて仕事行ってたでしょ。」


「あれ。バレてた?今日は大丈夫だって。そんなにひどくないし。でもなんで分かったの?」


体調が悪いのも、この間ウソをついて仕事行ったのもバレてた。


「付き合って長いんだし、同棲ももうすぐ3年だろ。それくらいすぐ分かるよ。とにかく今日は休みね。午前中は何もしないで寝てること。午後になっても辛かったら連絡して。病院連れて行くから。」


私のために会社を早退までしてくれるのか。本当に優しい。


「はーい。ありがとね。」


本当に辛いので、彼の優しさに甘えて会社を休むことにした。上司に連絡したら会議は別日でも大丈夫だということなので、安心してベッドに入る。





ふと気づくと11時を回っていた。体は軽くなったが、まだ頭痛はする。彼に大丈夫だとメッセージを送る。


それにしても彼があそこまで私をわかっていたとは思わなかった。
不意についた軽いウソではあったが体調の悪さに気づいていた。
それなら今までの仮病も気付いてる?
いや、そんな風には感じなかった。ならどうして。


昔、親友に「あんたってウソつく時分かりやすいよね。」と言われたことがある。
「いつも笑う時、顔をクシャッとするのに、ウソつく時の笑顔は口角しか上がらないもん。」
もしかしたらこのクセを彼も気付いてるのかもしれない。だとしたら使ってみる価値はある。


頭痛が治まっていなかったが、買い物に行き、家でカレーを作って彼の帰りを待つ。


「ただいま。」


「おかえり。早かったね。」


なるべくいつものように振る舞う。


「もう大丈夫なの?」


「大丈夫。寝不足だったみたい。少し寝たらすっごく元気になった。」


火を止めながらクシャッとした笑顔で言った。


「よかった。元気になって。」


信じた。


「心配かけてごめんね。今日嬉しかったんだ。私が体調悪いの気づいてくれて。私のことよく見てくれてるんだなぁって。ちゃんと私のことすきなんだなぁって。」


「一緒に住んでるんだし彼氏なんだから当たり前だよ。」


彼がポケットに手を入れる。一か八か仕掛けるしかない。


「私のこと好き?」


「そりゃね。」


やばい。プロポーズをしようとしているのか。返事が曖昧になっている。間髪入れずに畳み掛ける。


「恥ずかしがらないで、ちゃんと言ってよ。」


「す、好きだよ。」


「私も好きだよ。」


口角を少しだけ上げて彼に抱きつく。



彼の手だけがポケットから出てくるのを確認した。


〜おわり〜

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