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[本・レビュー] 定本 想像の共同体

“国民とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体である”
「国民」・「国家」という概念も、読書も、教育も当たり前のものではない。
先人達の努力によってようやく「開いた眼」を、あなたは今自ら閉じようというのか?

佐藤優さんの著書をはじめ、教養関連の本や読んでおくべき本の特集で取り上げられることが多い本書。 「ナショナリズム」についての本です。文章および内容が硬いため、読んでいて非常につかれました。
 私の歴史的知識が欠如しているため、本書を隈なく理解したとはいえませんが、おおよそのエッセンスは理解できたのかなとは思っています。
 ナショナリズムとは、「主権をもつ国民が集まり、政治的単位である国家を形成する」という概念といったところでしょうか。
 
 「私は日本国民であり、国家である日本国は国民一人一人の平和と幸せのために存在する」というような考えをもっていましたが、そんなイメージは現実とは程遠いのかもしれません。
 
 本書では、ナショナリズムは18世紀以降にアメリカで生まれ、フランスで再現された後に、各地方でそれぞれ特有の修飾を受けながら続々と複製された過程が示されています。今日一見当たり前のように思えるナショナリズムの歴史は、実は非常に浅いのです。
 
 「ナショナリズム」以前に存在していた政治体制は「宗教共同体」や「王国」といったシステムでした。これらの体制では、聖なる言語(ラテン語)の習得、民族や階級といった生まれが全てでした。いくら能力があっても、しかるべき環境に生まれてこなければ、教育を受けることも出世も望めなかったのです。
 
 また、書物も特定の言語でのみ書かれ、印刷技術のない時代は、一部の特権階級がその所有を独占していました。本=知の宝だったのです。
 
 この状況を変化させたのが、出版資本主義、つまり印刷技術の発達でした。印刷機が普及してくると、それまでの一部の知的階級だけでは市場も限られています。市場を拡大させる、つまり読者を多くするためには、特権階級が用いる言語だけでなく広く一般的に使用されている言語で書かれた書物が多く出版されるようになりました。印刷機の普及により、書物だけでなく、新聞も普及するようになりました。
 
 私達は新聞のある生活が当たり前なので、あまり意識していませんが、新聞の出現によって自分達が住む世界の外にある村や町でも、その場所特有のイベントが、自分達の時間と並行して行われていることが想像できるようになりました。
 まだ会ったこともないけど、自分達と同じ価値観・同じ言語・同じ利害関係の一致をもつ人たちが存在することを想像できるようになったのです。
 
 現在、日本では言論の自由が原則認められています。嘗ては執筆に伴って著者が投獄、場合によっては死罪になったような書物でも、その書物が現存していれば本屋やオンラインで容易に入手することができます。
 
 これは今日では当たり前のように思えますが、長い人類史をみても、決して当たり前のことではないのです。
 
 為政者からしてみれば、政治共同体内の人々は、ほどよく利口で、ほどよくおバカが理想です。生産性を高める目的から教育は進めたいけど、政治にあれこれ口をだすほどに利口になっては欲しくないと思っていてもおかしくはありません。
 
 今回のCOVID-19感染症でも、「ナショナリズム」ではなく、「政治共同体」や「王国」であれば、人民の都合などそこまで考慮しなくてもすみます。
政策が大失敗でも「神の御意思」「偉大なる王国の判断」で、人民が口をはさむ余地などないのです。
 
 「読書離れ」についても、度々報道されています。インターネット技術や映像技術の発達に伴い、わざわざ本を読まなくても事足りるというのも一因だと思われます。しかしながら、書物の全てが映像化されるわけはなく、映像化されたものは製作者の意図が反映されます。
 
 読書や勉強は、押し付けられる義務なのではなく、権利以上に、私達自身の「眼を開く」知への宝庫の入り口なのです。
 押し付けられるまでもなく、本来は自ら身を乗り出して手に入れたいと思うようなものなのです。
 
 また、ナショナリズムは国民にも、為政者にも非常に都合よく利用されていると感じます。人数の力は強大です。他国の国家権力に対抗するには、やはり国家規模の協力が必要となります。そんな時に、言語や価値観といった共通の「国民性」を共有できる人間同士で集まるのは理に適ったことです。
 「国家」や「国民性」が絶対的なものではなく「想像の産物」というのも、この間の「諸悪の根源は○○」といった発言にも見てとれます。実に都合よく伸縮自在なことが伺えます。
 
 世界史を勉強した後にまた読み返したいと思います。世界史の知識が深いほど、本書の例から得られるものも多くなると考えます。
 硬い文章も嫌いではなく、本書を読まれたことがない方は是非ご一読してみてください。

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