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郡山・会津若松旅行記・2023夏(5/n)

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0/n:1日目早朝
1/n:1日目午前
2/n:1日目昼
3/n:1日目正午過ぎ

1日目・17時

サウナを終え、夕飯の時刻となった。夕飯は天井のみがあり、周りの木々にくくりつけて吊るすタイプのテントのなかで行われた。そのようなテントを、タープテントということは後で知った。テントのなかには、直径1メートルほどの円形のグリルが置かれており、キャンプチェアが人数分並べられていた。夕飯担当のスタッフが、ひとつのアイスボックスにまとめた食材を運搬してくる。彼は、そのアイスボックスを開封しながら、それらがこだわりの食材である旨を説明してくれた。話は長くなかった。というよりも、話を早く切り上げて飯を食べさせろという僕らの雰囲気を感じ取ったようだった。


乾杯をする。会津だかの特産牛を食べる。後部座席の友人が、少しこだわって調理をしていた。与えられた一人当たりの食材では、僕目線で見ると腹6分目にしかならないと感じたので、人数の倍頼めばよかったと感じた。煙草は適宜吸いつつ、吸い殻は食後のグリルの中に放り込んでいた。


この歳になると、他者に指摘したいことがあっても、その大半を口にはしない。その人への周りの印象というものは、過去に指摘されるなどして本人も既に認識しているからというのと、今更他者から指摘されたところでもう変えることができないほどには、自分も相手も歳を食っていることに自覚があるからだ。だからこそ、それでも何か芯を食ったことを言うというのは、逆説的に、その相手との信頼関係の総量が多いことを物語る。たとえ2、3点クリティカルなことを言っても、それで消滅するような関係性ではないですよね、と言う投げかけになる。そしてなにより、そういった数多のデメリットや諦念があっても、それでも伝えたいこととして、発言内容が受け取られる。

後部座席の友人は、僕がこれまでに価値を感じてきたこととその移ろいに対して、捉え直しをしようとしていたように思う。10年ほどの空白があったが、それまでは彼と日夜語り合った仲だった。高校生、大学生の頃の僕のしていたことや、したいことについても、彼は把握している。それらを踏まえて、彼の中にあった10年前の僕の印象を更新しようと試みていたようだった。

翻って僕も。彼に対して、ずっと疑問だったことを伝えた。彼は、贔屓目なしに論理的思考力や好奇心が同年代と比べ強いと感じる。くわえて、自ら意思決定しようとする姿勢もある。つまり、賢いだけの評論家ではない。彼のそのようなケーパビリティを、僕は、高校生の時からずっと、リスペクトしてきた。今でもそうだ。そう考えた時に、その資質を、今彼が従事している業界では発揮しきれないのではないかと、彼と会っていないこの10年の間にも都度思っていた。今の業務でもおそらく評価をされ、楽しくやっているのだろうが、もっと大きなインパクトを与えられる営為が他にあるだろうという仮説を、僕は捨てきれていなかった。そのような旨を、彼に問う。すると。

彼は、自分のケーパビリティは、パズルやクイズを楽しく早く解く程度のものであって、僕の仮説は過大評価だといった。そして、僕が把握していなかった事項として、自分はそもそも課題に対してのソリューションが新規性や奇抜さを伴うことに価値を感じており、それ故今の業界がしっくりきているということを言った。

僕は、彼と同じ業界で働いていた。そして、彼が言ったような価値観を受け入れることがついぞできなかったが故に退職した。大事なのは課題の解決であったり、それによる利益の拡大だ。解決方法で大喜利をしているわけではない。そう感じた。僕としては、今でもそう考えている。解決方法の大喜利力に価値を感じているような、業界風土に根付くある種のデタチッタメントが、どうしても我慢ならなかった。でも。

今はそこまで思わない。いや、思っているが、それはあくまで僕自身の仮説だということに気づいている。人には人の考え方がある。より具体的に言えば、自分の人生における仕事やお金の位置付けは、人それぞれだということを理解している。くわえて、人はケーパビリティを発揮しようとしても、色々な要因で、それができなかったり、しないと決めた人たちがたくさんいることもこの目で見てきた。誰もが、ケーパビリティを最大限活かせる環境にあるわけではないし、そうしたいという意志があるわけではないのだ。人それぞれが、自分のなかで、労働をし、金を稼ぐと言うことに、自分の時間や心をどの程度使うか、そして、それをどこに使うかを決めているのだ。たとえそれが現状に居座ると言う開き直りのように思えたとしても。

彼への評価が過大評価だとは思わないし、二の矢三の矢となる質問もしたかった。でも、やめた。このような会話ができたことを愉快に感じた。なにせ、人生はまだ長い。このタイミングで彼と理解し合ってしまうのも、まだもったいないなと感じた。日はもう沈み、気づいたら皆、腹は膨れていた。

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