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郡山・会津若松旅行記・2023夏(1/n)

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0/n:1日目早朝
1/n:1日目午前
2/n:1日目昼
3/n:1日目正午過ぎ

1日目・午前【郡山】

待ち合わせは郡山駅だった。郡山駅までの新幹線は1時間もなく、また、4月からの東北暮らしで新幹線にも慣れてしまっていることから、特に何の物思いに沈むこともなかった。郡山も2、3回目だから、街の雰囲気もわかっていた。

郡山は、地方の繁華街だ。神奈川県の大和駅や海老名駅、埼玉県の大宮駅に近い。東京都の京急線沿いの駅のような場所である。雨が降れば、路に積まれたゴミ袋から出た廃油が水たまりに合流して鈍色の輝きを発している。折れたビニール傘が道路脇に散乱している。もう何年も磨かれていない商店街のアーケードが、灰色に頭上を覆う。まあ、そんな街だ。北海道の帯広だか十勝だかとも似ている。高度経済成長期に開発されたのち、寂れることと治安の悪化が同時にゆっくりと進展しているような街だ。東京にいると分からなくなるが、これが今の日本なんだろう。

11時に駅集合だった。数分の差で、僕が先についていたので、待ち合わせ場所のそばの店で赤べこを眺めていたところ、2人が視界の端に写った。もう何年も会ってなかったが、いい意味で、驚きもないままに彼らの方に向かった。より長い間会ってない方の友人から、変わってないねと言われた。

郡山駅は西口を出て、レンタカー屋に向かう。とはいえ時刻は11:00過ぎであり、昼時でもあった。正直僕はお腹が空いていなかったが、久方ぶりの2人とは、そう、ぶっきらぼうに言い放てる距離感ではなかった。久々の再会だったし、オトナとしての気の遣いかたを流石に学びおえている年齢だ。お腹減ってる? どうしよ? ここで食べるか、一旦車乗っちゃうか? そんな話をしながら、一旦車を走らせて、目的地である猪苗代湖までの道中のお店に入ろうということになった。

小雨降る中徒歩数分。レンタカー屋にて車を借りる。薄い化粧の女性の店員。案内されるはトヨタのカムリ。旅行のひとつの楽しみに、借りる車の種類あり。運転するのは基本僕ゆえ、値段は張ったが選んだ次第。

昔は、レンタカー屋でNAVIとbluetoothを入れることに、結構時間がかかってしまうことを気にしていたが、今は太々しく時間を使う。何事も、慣れないうちは人の目が気になるものだが、経験を積むにつれて、そんなことを周りは大して気にしていないということに気づいていく。

出発する。トヨタのカムリは、日産のnoteやMAZDAのCX-5のように、やや身重で運転しがいのある車であり、すぐに気に入った。運転して数分経つと、後部座席に座る友人が、昼食の候補先をいくつか振り出し、そのうちの一つを皆で選んだ。

そんな大層な話ではないが、僕はこの一連の流れに、すこし思惑があった。というよりも、この流れになることを予期していた。後部座席の友人は、柔らかな物腰の奥に、論理的な思考と主体性をもつ男だと知っていた。10年近く会わずとも、過去のある期間において、ともに過ごした時間は他の友人と比べて多い方だ。そんな彼が、腹を空かせている状況で、昼食をどこで食べるか未確定のままに、都心部から郊外に向かおうとしてるこの状況を放置することはないと信じていた。僕も腹を空かせており、その時に共にいる友人によっては、自ら調べ、振り出すということをしていたと思うが、今回は後部座席の友人がいるので、彼の挙動に身を任せる方針としていた。そして、それがその通りに進んだというわけだった。

まあ、なんてことはない。誰でも良い誰かが振り出さなければならなかった昼飯の場所について、後部座席の友人が、その任を請け負ったというだけだ。けれども、彼という人間に対して持っていた僕の信頼が、10年前から色褪せず存在していることが少し嬉しかった。いい意味でも、人は変わらないのだ。

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