Pしんぶん その10
今日も銀座に行かなくちゃ
そりゃ銀座だって暑いに決まってます。コンクリとアスファルトに囲まれた上に、無数のお店や会社、行き交う自動車の冷房機器が吐き出す熱気ですもん。たまったもんじゃありませんよ。少なくともペンギンが住める街じゃなさそうです。
ゆかた祭りがスタートした頃も既に暑くて、打ち水イベントをやってました。見た目も涼し気な浴衣姿がそぞろ歩く銀座通りっていうのも、なかなか良い風景だったなぁ。俗っぽい屋台も無いし、缶ビール片手の人もいないのもまた良き。憎きコロナ禍頃から足が遠のいて、今はどうなってるのか……。
居並ぶ店々に入れば涼しいのは分かってるけど、涼を求めるってのとは趣旨が違うなぁ。銀座名物地下道に逃げる手もありますが、景色が楽しくない。並木道はあっても、まとまった木陰もなく、あっても涼しくはないです。となると僕たち街歩きの貴重なオアシスは、三原橋のミストシャワーです。最近は築地~銀座間を行き来する外国人観光客の方々が憩う姿をよく見掛けますけど、ペンギンだって有り難いですよ。
でもこの真下に、人通りも少ない涼し気な地下道があったんだよなぁって思うと、感慨深いものがあります。そう、シネパトスがあったとこです。決して綺麗とは言えない映画館でしたが、ガッパとか大魔神とかモノクロ時代の歌謡映画なんかをやってたっけ。足元から日比谷線、頭上から晴海通りを通る自動車の音や振動を感じつつ、ツ離れしないお客さんと一緒に昼間映画を楽しむ優越感と背徳感が、捻くれ者の心を満足させてくれました。勿論ペンギン割引料金でね。
もう足元には東銀座に至る地下道しかないけど、このミストのスクリーンが、あの至福空間に連れてってくれないかなと思ったりするのです。
雷様が降りるバス停へ
おかしいな、江戸川区に行くのに何故浦安駅まで東西線に乗らにゃいかんのだと思いつつ、グーグル航海士の仰せの通り、葛西駅をやり過ごし、旧江戸川を渡ってチーバくんの駅を降り、さっき渡ったのにと思いつつ浦安橋を歩いて川を跨いでの江戸川区東葛西。バス停に行くならバスに乗流のがお決まりでも、小一時間待つうちに目指す雷バス停に着いてしまうと思ってねぇ。
ふと地図帳で見つけてしまった雷。こないだの荒川土手は風景のイメージが湧くけど、雷ってなんだ? 最近豪雨と共にゴロゴロピカピカやらかす雷様は、ここから都バスで出勤するのか? いや、一時間に一~二本しかないアクセスで、緊急出動できるとは思えない。という訳で雷バス停に向かったのであった。
浦安橋を降りて、新旧住宅とマンションばかりの一本道を、意外と多い行き交う車に気を配りつつ進む。時折顔を出す木造家屋の年季の入り具合が半端なく、タイヤガーデンの看板通りに草木に覆われたムーミンの家の如きタイヤショップやら、鹿の唐揚げという幟はためく食堂やら、一見無表情な細道が、不思議なオーラを放ち始める。
ここで早くも雷バス停の謎が解けてしまった! 雷不動尊を見つけ、もうちょっと遊びたかったと清砂大橋通りを渡ると、看板と似合わぬ佇まいの店。よく見たらカフェやん。お昼時なんで丁度いいやとドアを開けると森の中。さっきはムーミンで今度はトトロかい! 美味いホットサンドを食べつつ、店名イスケは釣具店を営んでた祖父の名と聞き、店を出て裏に回ったら、広い雷公園で雷鳴ならぬ蝉の大合唱。元の道に戻ってのんびり進むと、はい、雷バス停に到着。
大きな工場とホームセンターはあるけど、雷様は住んでないし、「イカズチ」と読むことも分かった。バスは当分来ないけど、スーパー銭湯発見! Busは来ないけどBathがあるイカズチバス停。
帰りはまた歩くんだよね
京都のいたって普通の建物について
いかにもな京町家がじゃんすかリノベされてお洒落な店舗に変身する一方で、微動だにせず変わらぬ放置プレイを続ける建物も共存してるとこがまたこの街らしい。その味わいはビル建築でも同じ。別段戦前生まれの文化財指定でもなく、ただ時が経ってしまった、お化粧直しも模様替えも補修もせずに、どこかで止まったまま現在に至るビルが、昭和一桁洋風建築ビルに負けぬ風情を醸し出しているのだ。
カフェ・アマゾンのモーニングに向かう途中の七条、下駄箱三階建てに二階建て店舗が合体した建材店。三階建ては横積みしてるタイルが、店舗部一階は何故か縦積み、でもよく見ると何種ものタイルやガラスブロックを縦横積み分けている。ビル階上の窓の格子デザインもモダンかつ古めかしい。建材店なだけに商品見本も兼ねてたりして?と勝手に想像してしまう。
平安神宮から加藤順漬物店への道すがら、聖護院のマンションはさほど古くはないけど、各階各戸の開口の上部両隅に付けた曲線パーツが、四角四面のビル建築を上手く和らげてくれる。一階が店舗、しかも屋根付きって配慮は、このサイズの集合住宅ではとんとお目にかからない。途中まで目隠しを付けた螺旋階段、店舗屋根を支える円柱、そしてベージュの外壁の退色具合が味わいを見せる。
その先の自動車整備工場の、何と言っても正面の凹凸仕上げと入口ドア、そして良き看板の融合に瞠目。
工場と倉庫が多い西京極の幹線道路から一本外れた角地に立つ集合住宅の、年月を経たコンクリ色とベランダと出窓の圧倒感は、小さな要塞みたい。屋上の後付プレハブも見逃せない。
こんな建物こそが街に個性と深みをもたらすに違いない。
「おはようペンギンさん、オリーブビレッジのビルが遂に更地になったね」、「オリーブビレッジとは懐かしい。おはようございます鐘ヶ淵さん」。折戸通りを脇に逸れた先にあるケーズ・バーのマスター鐘ヶ淵さんが、今日もうちの店先にやってきた。北口商店街と空蝉橋の坂道の交差点近くにあった古い雑居ビルが解体したのだ。
「都電車庫跡の都営住宅の裏、プラタナス通りの更地も大きいのが出来そうじゃないですか」、「都電車庫跡…、オリーブビレッジのお返しですかな」、「その手前、ブックオフの斜前にある、養老乃瀧跡の新築のテナントは決まったんでしょうか?」、「ほほう、古手の波状攻撃ですな。こう暑いとアタシも気軽にパトロールできないもんで、近頃の大塚を知らないんですよ」、「それは僕も同じです。ちょっと前に三業通りであった火事も、ニュースで知ったくらいですから」。
「火事と言えば、ミカドが火事になったのはいつ頃でしたかな?」、「あぁ…大昔もいいとこ、僕が小学生の頃だから、軽く半世紀は過ぎてますよ」、「すぐ横がガソリンスタンドだったから、アタシも焦りましたよ。しかも癌研通りを挟んだ向かいがペンギンさんの店だったしね」。角海老宝石ボクシングジムの隣の、江戸村がある建物は、その頃ミカドというキャバレーだった。一階にファミマが入るホテルフロンティアは、ガソリンスタンドだったんだ。「学校から帰ってきたら大騒ぎで。幸いボヤで収まったけど、もう余り憶えてなくて」。鐘ヶ淵と話してると、五十年なんかひとっ飛び。その間に大塚は激変したんだ。
編集後記・のようなもの
京都に行ってきました。連日雨が降る生憎の天気でしたが、お目当ての展覧会も喫茶店&パン屋探しやクラフトビール行脚もきっちりこなしての、大充実な旅でした。でも次は大阪だよなってね。かつては黄金週間の恒例行事だったけど、ご多分に漏れずコロナ禍で中断して落ち着いたはずなのに、やっぱり歩きたいんです、あの街のあちこちを。その時にはまた紙面で報告しますんで。
大感謝配布協力
池之端・古書ほうろう、雑司が谷・旅猫雑貨店、法善寺横丁・洋酒の店 路、目黒・ふげん社、浅草・珈琲アロマ、平井・平井の本棚、神宮前・シーモアグラス、大塚・山下書店、深川・エンミチ文庫。
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