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修士論文について 【オンラインで海外大学院に行こう! マガジン #23】

こんにちは。
岸 志帆莉です。

このマガジンでは、「オンラインで海外の大学院に行く」というテーマで定期的に情報をお届けしています。

多くの人にとって、大学院生活の山場となるのは修士論文です。修士論文は学習期間の半分以上を費やすことになる勝負どころです。しかしオンラインの場合、どんなふうに進めていくのかイメージしづらい方も多いと思います。

そこで今日は修士論文をテーマにお届けします。過去に私がイギリスの大学院にオンラインで通った経験をもとに振り返っていきます。


修士論文=修士課程における最大の山場

大学院の授業をすべて取り終わると、いよいよ修士論文に取りかかります。私が通っていたユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の教育学修士課程では、「オリジナルの研究に基づき2万wordsの論文を書く」というのが条件でした。

(に、2万ワード……。2万字じゃなくて、ワードね……。そんなに書けるかな……)

2万ワードという分量に圧倒され、最初は不安しかありませんでした。しかし取り組んでいくうちに書くことは山ほど出てきました。最終的には「2万ワードじゃ足りないかも」と思うくらい学びの多い体験でした。

修士論文のステップ

修士論文は決められた手順に沿って進めていきます。具体的には次のようなステップがありました。

【修士論文のステップ】
①    研究計画書(プロポーザル)の提出

②    研究倫理書の提出
③    先行研究のレビュー
④    オリジナル研究の実行
⑤    研究結果にもとづき論文を執筆
⑥    製本および提出

まずは自分が研究したいテーマを決めるところからはじめます。テーマが決まったら、それを追求するための手順を具体的に検討していきます。調査対象者は何人くらい必要? どんな調査方法が適切か? 分析方法はどうする? どんな文献が必要? これらをすべて検討し、研究計画書に落とし込んでいきます。

研究計画書と同時に、研究倫理書とよばれる書類も作成していきます。研究不正や倫理違反などが起こらないよう、大学側に事前に研究計画をチェックしてもらうものです。

研究計画書と倫理書の両方に承認が得られたら、ようやく研究に入っていきます。研究に入る以前ですでに労力と時間を使いますが、すべてを一人で進めていくわけではありません。指導教官と細かく相談を重ねながら一つずつ進めていきます。指導教官は研究期間を通してサポートしてくださる心強い存在です。

指導の受け方

UCLでは学生一名に対し、担当の先生が一名つきました。そして研究計画書から実際の論文まで何度もドラフトを往復させながら細かく指導を受けていきました。毎回先生からドラフトが返ってくるたびにコメントがぎっしりついてきます。ものすごく厳しい赤ペン先生の添削を毎月受けていくような感じです。はじめてドラフトが返ってきたときのことを今でも覚えています。ファイルを開いた瞬間、目も当てられないほどの赤字の数々。そして冒頭に記入された長文のコメント……。

や、やっちまったぁぁぁ……。

胃がキリキリと痛んだことを覚えています。しかし勇気を出して一つひとつ読んでいくと、それは厳しくも愛にあふれたコメントの数々でした。先生が本当にこの論文を良くしようと思ってくださっていることが伝わり、ありがたい気持ちになったことを覚えています。いずれも付け焼き刃では対応できないような指摘ばかりで、学業以前に人として鍛え直されているような心地がしました。

ちなみにこれらの指導をすっ飛ばしてひとりで勝手に論文を書いて提出することはできません。こうした個別指導をきちんと受けていくことで、最終的に修士論文を提出する権利が得られます(よって論文を代筆してもらったりなどの不正やズルはまずできません)。

修士論文のクライマックス

修士論文がいよいよ最終段階に近づいてきたころ、私はフランスの小さなアパートで論文の仕上げに取りかかっていました。その秋に新たな大学院に進むため、フランスのパリに引っ越してきたのでした。クーラーのない自室で額に汗をかきながら、ひたすらキーボードをたたく日々。もうろうとする意識は暑さのせいか、それとも時差のせいか……。パキパキに凝り固まった肩にムチを打ち、「ロッキーのテーマ」をエンドレス再生しながら自らを奮い立たせていました。そして迎えた、その瞬間。

終わったぁぁぁぁぁぁぁ~~~……

きっかり2万ワード、頁数にして164ページ。一年と二ヶ月の時を経て、私の修士論文がついにできあがりました。それは二年間にわたる学習の集大成でした。汗と涙がつまったWordファイルに表示された「20,000 words」という文字を見て、感慨に浸る余裕もなくベッドに倒れ込んでしまいました。

製本、そして提出

論文が完成したら、先生から内容の最終確認をもらいます。そこでOKが得られたら晴れて提出です。UCLでは論文を二つの方法で提出することになっていました。ひとつはデジタル版(PDF)。オンラインのコースウェアから提出します。もうひとつは印刷版。大学指定の様式で製本し、国際郵便で提出します。

デジタル版の提出はいたって簡単です。論文提出ボックスからクリックひとつで提出できます。ものの数秒の出来事にへなへなと全身の力が抜けていくようです。一方、この瞬間にはある種の緊張感も伴います。実は提出ボックスには盗用・剽窃発見ソフトが搭載されていて、論文に不正がないかを瞬時にチェックしているのです。

(これ、大丈夫なの……? なにかの間違いで不正と判断されたらどうするの?)

信用できないわけではないのですが、なんだか緊張してしまいます。「引用符の抜け漏れとか大丈夫だったかな……」とあらためて内容を見返したい気持ちにもなります。もちろんそういうミスがないように何度も何度も論文を見直してきたわけですが、最後まで不安はつきまといます。

結果、審査は無事パス。晴れてデジタル版は提出となりました。

ちなみにソフトの審査結果は学生本人にも通知されるので、万が一不正があったと判断された場合「知らなかった」では済まされません。すべての努力が水泡に帰するだけでなく、悪質と判断されたら最悪の場合は退学になる可能性もあります。故意による不正は言うまでもありませんが、不幸なミスを防ぐには引用をもれなく記載するなどの基本を守ることが大切です。そのための訓練は普段から丁寧に積んでいきます。

印刷版は大学指定の形式で製本したあと、大学宛に直接送ります。指定の様式を守ってさえいれば日本国内で製本してもかまいません。ただし規定がかなり細かいので、大学の提携業者に依頼するのが安心です。UCLではロンドン市内に特約店がいくつかあり、そのうち一社を選んで注文しました。

ちなみに私は少しでもコストを節約するため、パリの学生街の安い印刷屋さんで原稿をプリントアウトし、それをロンドンの印刷会社に送って製本のみ依頼することにしましました。パリ―ロンドン間の国際郵便を考慮してもそのほうが価格を抑えられたためです。日本からだと状況が異なったかもしれませんが、念のため比較するに越したことはないと学びました。

修士論文はとても厳しい道のりでしたが、最も大きな成長を感じられたプロセスでもありました。やり遂げたときの達成感は筆舌に尽くしがたく、間違いなく私の大学院生活におけるハイライトです。

ちなみにここまで読んで「大変そう……」と思われてしまったかもしれませんが、これには私の個人的事情が大きく関係していることを申し添えておきます。私は他のライフプランとの兼ね合いもあり、最短の2年間で学習を終えられるよう計画を立てていました。そのため修士論文もほぼ最短の一年で完成するスケジュールで進めていました。ただ実際にはそこまで無茶なスケジュールを立てている人はあまりいませんでした。とくにオンラインコースの場合、たいていの人は修士論文だけでも2~3年かけてじっくり取り組んでいきます。その場合、毎日の生活にももう少しゆとりが出るはずです。社会人の皆さんは他の優先事項とのバランスをとりながら、ご自身なりのペースをつかんでいっていただけたらと思います。

次回からはすこし視点を変えて、学習と私生活との両立についてお話ししていきたいと思います。

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