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【SS】平穏な日常(794文字)

おじさんって、なんであんなに偉そうなんだろう?

温厚さが取り柄の27歳会社員、民生たみおはよくそう思う。

彼には、理由もないのに不機嫌なひとの気持ちが心底理解できない。
ただ、この世に不機嫌なおじさんは何故なぜか多い、と感じている。

例えば喫茶店にて。
ミルクと砂糖をテーブルに置いた店員をひと睨みするおじさん。

「砂糖いらんねん。」
とドスの利いた声で言う。

「申し訳ありません。」
と謝る店員。

自分の真後ろで交わされる会話を聞いた民生は、
(そこ謝らなきゃいけないのかぁ。)
とぼんやり思う。

思うだけだ。
おじさんに対して怒りを覚えるわけでも、店員を憐れむわけでもない。
ただ、身の回りにあふれる不機嫌を眺めるのが彼の日常だった。

そんな民生だが、先ほど会社から出てきた顔をみると、今日は珍しく少し苛ついている。
仕事で何かやらかしてしまったのかもしれない。

憂鬱げにタクシー乗り場へと向かう。
職場から民生のアパートまではワンメーターの距離だが、今日は歩く元気もないらしい。

タクシーに乗り込むと、
「どこまで?」
と運転手のおじさんが聞いてくる。

アパートの住所を伝える。
短距離なのが気に食わないのか、小さな舌打ちが聞こえた。
また、機嫌の悪いおじさんに出会ってしまったようだ。
温厚な民生は特に反応はしない。

すると、いつの間にか機嫌を直した運転手が、
「にいちゃん、元気ないなあ。カノジョにでも振られたんやろ?」
と声をかけてくる。

面倒なので、
「そうだよ。おじさんは元気そうでいいよね。」
とデタラメを言う。

民生が発したタメ口の返事に、運転手は一瞬あっけにとられる。
また、じわじわと不機嫌になる。

(どうして他人は無条件に丁寧な態度をとるって思えるんだろう。)

最近、自分は別に温厚ではないのかもしれない、と思い始めている。
車内に重い空気が充満し始めるが、それが民生の精神を削ることはない。

ただ、今日もひとの不機嫌を眺め、受け流す。


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