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【SS】心からの祝福を。(1255文字)

※このお話は「【SS】泣かないと決めている。」のサイドストーリーです。

「今日は一緒に寝てくれませんか?」
と消え入りそうな声で尋ねる真莉愛まりあは、女の私から見てもやはり可愛い。
何か辛いことでもあったのだろうか。
真莉愛のベッドに入り、頭をなでてやる。

それにしても、可愛い女の子はこんなにも愛らしく人に甘えられるものなのか。
社内の男性陣から人気があるのも頷ける。

一方の私は、性格のきつい女にありがちなように、裏では「鉄の女」なんて呼ばれている始末だが、5歳もの年の差にも関わらず真莉愛は何故か懐いてくれている。

彼女からルームシェアを提案されたときは流石に驚いたが、結婚はまだかという両親の無言の圧力にもうんざりしていた頃だったので、いい機会だと思い実家を出て一緒に住み始めた。

仕事終わりの夜、2人でテレビドラマを見ながらあーだこーだと言い合う日常は思った以上に楽しいもので、同期が結婚だ出産だとライフステージを変えていく中、私は気の置けない後輩と過ごす心地よい生ぬるさに身をうずめている。

結婚の憧れは人並みにはある。
だが、「鉄の女」にも愛される女とそうでない女がいて、かのマーガレット・サッチャーは25歳のときにひとりの男性に見染められ妻となったのに、私は32歳にもにもなっていまだ独り身だ。

ときおり真莉愛から彼氏の話を聞くたび、愛される女と愛されぬ女の差を見せつけられている気がしてしまい、そんな自分の卑屈さに落ち込む。

可愛げのある女になれるようにと努力はしているつもりだったが、性分しょうぶんを変えるのは難しい。
今日だってつい、目についたCMの表現を取り立てて文句を言うような面倒な女になってしまった。

真莉愛はいつも大きな瞳をきらきらさせて私の話を聞いてくれるが、私が憧れの対象となるような格好いい女ではなく、それどころか後輩の愛らしさを羨んでうだうだ思い悩むような女だと知ったら、彼女は軽蔑するだろうか。

すやすやと隣で眠る真莉愛を眺めながらそんなことを考えているうちに夜が明けてしまった。

***

「わたし、来年俊也しゅんやくんと結婚するんです。」

こちらを見ないで言った真莉愛のひとことで、昨晩の不自然な態度に納得がいった。
結婚となればルームシェアは解消しなければならないし、同居人の30オーバーの先輩は独身。なかなか言い出せなかったのだろう。
余計な気を遣わせてしまったな、と申し訳なく思う。

山本俊也。
山本くん。
かつて少しだけ恋心を抱いていた、私の同期。

真莉愛と山本くんから揃って交際を打ち明けられたときにはすでに、彼は「山本さん」ではなく「俊也くん」だった。
私がたぶん一生呼ぶことのできない彼の名前をやすやすと呼んでしまう真莉愛への嫉妬が無かったといえば、嘘になる。

気持ちの整理はついていたはずなのに。
今、チクリと胸にささる痛みを隠し切れない自分がいる。

「本当におめでとう、真莉愛。幸せになってね。」

私はうまく笑えているだろうか。
醜い感情も、淡い恋心も、最初から何もなかったみたいに。

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