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思いの外たっぷりの塩を入れて茹でないとパスタはおいしくならない|真中 陽宙『PASTA―基本と応用、一生ものシェフレシピ100』

材料が少なくて済むこともあって、大学生の頃からペペロンチーノを作っていたと思う。初めて家族に振る舞った料理も、確かペペロンチーノではなかったか。作る手順がシンプルなところも、初心者にはありがたかった。

どんなに料理が苦手でも、失敗してとんでもなくおいしくないペペロンチーノができあがることはそうそうないと思う(最初こそ、麺を茹でる時の火が強すぎて、鍋からはみ出たパスタの先を焦がしてしまったりしていたけれど)。ただ、毎回作る度に、その仕上がりにもやもやしていた。お店で食べるペペロンチーノとは明らかに別物なのだ。特に、パスタがつやつやうるうるにならず焼きそばのようにパサパサになることと、味がやたら薄いことが気になっていた。

これまで、料理はクックパッドの投稿を見て作ることが多かった。材料を全部揃えるとなると食費が高くつくのでところどころ自分流にアレンジをしながら作る。できあがった料理は、まずくはないのだけど、飛び上がるほどおいしくもない。

そんな状況を打破しようと思い、各ジャンルの料理人さんが書いたレシピ本を読んで工程を忠実に再現する、という試みを始めた。もうこの1回しか使わないのでは、というような調味料も入手する。油通しなど、面倒なので割愛してしまいたくなるような手順もきちんと踏む。食材は、「玉ねぎ ○g」「にんにく ○g」などと書かれている場合はぴったりの重さになるよう計測する。

イタリアンは、真中陽宙さんに師匠になっていただくことにした。本屋で見かけた『PASTA―基本と応用、一生ものシェフレシピ100』の写真がとても美味しそうだったからだ。使う食材も工程も多すぎず、敷居が高くないところがいい。

ペペロンチーノもどきを作り始めて約10年。真中さんの本と出会い、「もどき」になってしまっていた理由がようやくわかった。

一つは、ソースに入れる茹で汁の量が少なすぎたこと。「こんなに入れたらソースの味が薄まってしまうんじゃ?」と心配して少ししか入れていなかったが、真中さんのレシピではザバザバと入れる。茹で汁の量が少ないと、乾燥肌のパスタに仕上がってしまい舌触りも悪い。

そしてもう一つ、「もどき」を生み出していた最大の理由はパスタを茹でる時に投入する塩の量が少なすぎたことだった。昔どこかのレシピで見た「たっぷりのお湯にたっぷりの塩を入れて茹でましょう」を自分なりに解釈した結果、2.5リットルほどのお湯に小さじ1程度の塩を入れて茹でていた。ところが、真中さんのレシピにある入れるべき塩の量は「お湯の1%」。つまり、推奨されている量の1/5程度しか塩を入れていなかった事になる。

真中さんのレシピに従って初めてパスタを茹でた時は、恐る恐るだった。計量スプーンに入った塩の量にどきどきした。さすがに高い塩を使う勇気はなく、キッチンの隅で長いこと出番を待っていたアルペンザルツを使った。鍋にざーっと入れると、お湯が真っ白になった驚いた。

そうやって作ったペペロンチーノを初めて食べた時のことは忘れられない。「ここはお店か!」と驚愕するほどのおいしさだった。パスタがしっかりと塩味をまとっている。ソースも、茹で汁の塩気がきいている。懸念していたように茹で汁によってソースが薄まってしまうのではなく、茹で汁が味を決めているのだ。

本に載っているミートソースも作った。2時間コトコト煮込む、手間のかかる料理だけれど、休日の時間の使い方としては最高だ。

バジルペーストのパスタも文句なしのおいしさだった。パスタを茹でる前に同じ1%の塩水でじゃがいもを茹でるのだけれど、その結果ほくほくのじゃがいもの中までしっかり塩味がしみこんで、食べ終えたくないぐらいやみつきになる。松の実は、薄く色づくまで乾煎りするという一手間で、素晴らしい風味を加えてくれる。

次は何を作ろうかと、ページをめくる時間が楽しい。イカスミのパスタ、挑戦してみようかな。



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