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色彩に憧れる場所|DIC川村記念美術館「芸術家たちの南仏」

キャンプをするついでに、キャンプ場の近くにある美術館へ立ち寄る、という楽しみが増えた。

先日は、千葉の一番星ヴィレッジでキャンプをして、帰りにDIC川村記念美術館に寄った。同じ千葉県といえども、市原市にある一番星ヴィレッジから佐倉市にあるDIC川村記念美術館までは車で40分かかる。少し足を延ばす感覚ではあるが、キャンプに行くだけ、美術館に行くだけ、よりも満足度が高い。

DIC川村記念美術館は、ずっと行きたいと思いながらも、なかなか機会がなかった美術館の一つ。ちょうど開催していた企画展「芸術家たちの南仏」が面白そうで、満を持して踏み込むことにした。

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フランスの地理には明るくなくて、「南仏」と言われても地名はピンと来ない。「ニース? あーね」ぐらい。ただ、"超よさそう"な匂いはする。20世紀の南仏で活躍した画家は、パブロ・ピカソやアンリ・マティス、マルク・シャガールなどなど。強い陽光と鮮やかな色彩。そんなイメージ。

展示室に入ってすぐ、ひときわ存在感を放つアンドレ・ドランの『コリウール港の小舟』は、朗らかで翳りのない南仏の印象をさらに強固なものにしてくれる。

力強い色の数々が自由に行き交って、生命力をわけ与えてくれるような絵。こういう港の絵は日本では生まれないような気がするし、きっと南仏に行かなければ感じられない景色なのだろう。21世紀の南仏も、こんな雰囲気なんだろうか?

このアンドレ・ドランという画家は、何度か絵のテイストを変えたそうで、「野獣派」の作品として位置づけられる『コリウール港の小舟』とはまた違うタッチの絵も展示されていて面白かった。ひろしま美術館所蔵の『パノラマ(プロヴァンス風景)』は、森が開けた場所から、美しい風景をはるか遠くまで見渡せる。

夕刻だろうか。西日のような強い光が人物の背中を染め、空や山が美しいグラデーションをつくる、しみじみと味わい深い絵。『コリウール港の小舟』と同一人物の作だとは、言われなければ絶対にわからないぐらい雰囲気は違うけれど、この絵も同様に南仏の素晴らしさを教えてくれる。

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20世紀は戦争の世紀とも言われる。「朗らかで翳りのない南仏」と書いたものの、フランスは第二次世界大戦の参戦国だったこともあり、戦火の影響は免れなかった。

展示の第2章は「避難、あるいは収容」というタイトルで、戦争の影響を受けた画家の作品が展示されていた。特に、ハンス・ベルメールのデカルコマニーの数々が心に残っている。デカルコマニーというのは、紙などに絵の具を塗り、別の紙を押しつけて絵の具を転写する技法。作家の意思を介さずに形象が描き出されるところに特徴がある。

一見、絵の具が無秩序に広がっているだけのように見えるが、顔を近づけて目を凝らすと、偶然生まれた形を活かしながら、人の顔が細かく描きこまれていて驚く。

ドイツ出身のハンス・ベルメールは、フランス国内で敵性外国人として収容されたそうで、そのデカルコマニーからはどことなく陰鬱な雰囲気が感じられる。

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「南仏って、美しいよね!」だけでは終わらない、幅と深みのある企画展で、ほくほくしながら帰路についた。コレクション展示の方も素晴らしく、2時間ぐらい、じっくりと楽しめた。人が多すぎないところもいい。

気に入った絵の真正面に立って、大きく息を吸って。身体中が清々しい空気で満ちるような、そんな体験をくれる美術館だった。私は、それこそがアートの効能だと思う。

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