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掌編つめあわせ

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3000字以下の掌編(文字数ちょっとオーバーしてるのもあるかも)
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記事一覧

掌編/雨の日の、選ばないという選択

雨の日の選ばないという選択 窓の外にはさらさらと雨が降っていた。  軒先の紫陽花を、ライ…

25

掌編『あさぼらけ』

#虚構文庫解説 #掌編小説   あさぼらけ トウヒコウしよう――と、凪は言った。中学校の帰り…

8

掌編/アンカット

 本棚に『煙草と惡魔』がある。芥川龍之介の短編小説だ。  函付きで、パラフィン紙がかけら…

13

掌編/七月の雨に立ち止まる

 空気が水だったら、ゆるゆると流れる時間が肌に生々しく感じられるだろうか。ふいと顔を動か…

8

掌編/フィクション

 悟がくしゃみをした。厚手のカーディガンを着ているし、風邪かもしれない。 「のど飴いるか…

12

掌編/共食い金魚

共食い金魚 ぬるく、ゆるやかに対流する閉じた世界。水のなかで食いちぎられた尾びれを揺らし…

4

掌編/彩

彩「色は捨てたのですか」と問うと、女はわずかに口元に笑みを浮かべた。 「捨てた? 捨てるなど」  襟元につと白魚のような手がそえられ、するりと胸元をすべり汗ばんだ肌をなぞったその指は、黒い紗の着物とあいまって一時の涼を見る者にもたらした。  こうも暑くては色など無いほうがよほど過ごしやすいわねえ。  薄紅色の唇は女の紡いだその言葉通りの形をなし、最後は弓のようにくっきりとした笑みを浮かべた。女の名は彩(アヤ)という。  忙しいねえ。ああせわしいせわしい。  鈴をこ

ほどける金網

ほどける金網  日が落ちて、黄昏。  鴇色(ときいろ)#F4B3C2、からの半色(はしたいろ)#…

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掌編『たまごが先』

たまごが先  チュンチュン。  朝めざめるとスズメの鳴き声が聞こえた。頭がズキズキと痛む…

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掌編小説/潮目

 境目というのは案外はっきりと見えるものなのかもしれません。  海岸沿いに車を走らせ、展…

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掌編/善哉

 ――新年。  物音がしてふと目を覚ますと、さらされた頬がひやりと澄んだ空気を感じた。 …

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掌編/ちっぽけな

 石垣と溝にはさまれた細い坂道を登り、雨樋にぶつけないようにハンドルを切った。母屋の縁は…

10

掌編/姉

 レースのカーテンが揺れていた。もとは真っ白だったその布は、柔らかく風を纏いゆらゆらと乳…

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掌編/貪欲な芳香

 フォン・ド・ヴォーと赤ワインの濃縮した香りというのは、どうしてこうも食欲をそそるのだろう。「赤もらおうかな」とキタムラの背に声をかける。「まいど」とフランス料理屋らしからぬ返事が返ってきた。カウンターの端に立ってシルバーを磨いていたアイナちゃんの手元でカチャリとフォークが音をたてる。 「何にしますかぁ?」  甘ったるい声が学生アルバイトらしい。「なんでもいいよ、なぁ?」とキタムラに問われてうなずいた。火にかかったフライパンに彼はポイと何かを入れる。 「何入れたの?」「