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雨の日の選ばないという選択 窓の外にはさらさらと雨が降っていた。 軒先の紫陽花を、ライ…
#虚構文庫解説 #掌編小説 あさぼらけ トウヒコウしよう――と、凪は言った。中学校の帰り…
本棚に『煙草と惡魔』がある。芥川龍之介の短編小説だ。 函付きで、パラフィン紙がかけら…
空気が水だったら、ゆるゆると流れる時間が肌に生々しく感じられるだろうか。ふいと顔を動か…
悟がくしゃみをした。厚手のカーディガンを着ているし、風邪かもしれない。 「のど飴いるか…
共食い金魚 ぬるく、ゆるやかに対流する閉じた世界。水のなかで食いちぎられた尾びれを揺らし…
彩「色は捨てたのですか」と問うと、女はわずかに口元に笑みを浮かべた。 「捨てた? 捨てるなど」 襟元につと白魚のような手がそえられ、するりと胸元をすべり汗ばんだ肌をなぞったその指は、黒い紗の着物とあいまって一時の涼を見る者にもたらした。 こうも暑くては色など無いほうがよほど過ごしやすいわねえ。 薄紅色の唇は女の紡いだその言葉通りの形をなし、最後は弓のようにくっきりとした笑みを浮かべた。女の名は彩(アヤ)という。 忙しいねえ。ああせわしいせわしい。 鈴をこ
ほどける金網 日が落ちて、黄昏。 鴇色(ときいろ)#F4B3C2、からの半色(はしたいろ)#…
たまごが先 チュンチュン。 朝めざめるとスズメの鳴き声が聞こえた。頭がズキズキと痛む…
境目というのは案外はっきりと見えるものなのかもしれません。 海岸沿いに車を走らせ、展…
――新年。 物音がしてふと目を覚ますと、さらされた頬がひやりと澄んだ空気を感じた。 …
石垣と溝にはさまれた細い坂道を登り、雨樋にぶつけないようにハンドルを切った。母屋の縁は…
レースのカーテンが揺れていた。もとは真っ白だったその布は、柔らかく風を纏いゆらゆらと乳…
フォン・ド・ヴォーと赤ワインの濃縮した香りというのは、どうしてこうも食欲をそそるのだろう。「赤もらおうかな」とキタムラの背に声をかける。「まいど」とフランス料理屋らしからぬ返事が返ってきた。カウンターの端に立ってシルバーを磨いていたアイナちゃんの手元でカチャリとフォークが音をたてる。 「何にしますかぁ?」 甘ったるい声が学生アルバイトらしい。「なんでもいいよ、なぁ?」とキタムラに問われてうなずいた。火にかかったフライパンに彼はポイと何かを入れる。 「何入れたの?」「