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幽刃の軌跡 #62

第62話「九国の闇に潜む叡智」

広間の奥から、一人の人物がゆっくりと姿を現した。その男は、身長190センチを超える長身に細身の身体を持ち、黒のマントを纏い、白髭を蓄えた紳士風の西洋人だった。その堂々たる立ち居振る舞いに、広間にいた全員が息を飲む。

以東元帥は、その姿を確認すると驚きの声を漏らした。

「この方が……我ら出雲族に森羅万象を伝承した……お方……」

九国王が頷きながら口を開く。

「その通りだ、以東元帥。かつて800年以上前のこと……この八洲の地を統治していたのは、我らが始祖・出雲族だった。平安国の南端にある関門湾北側、そこから北へ行けば出雲の地がある。そこに我々の祖先は都を構え、繁栄を誇っていた。しかし……」

九国王はその瞳に怒りの色を浮かべ、言葉を続けた。

「大和族の出現により、出雲と大和は戦争状態に陥った。やがて、両者は今の神戸を境に領土を分け合うことで一旦の平和を得た。しかし、今から約100年前、大和族の一部が内乱を起こし、平壌国、すなわち現平安国の前身が成立した。平壌国の侵略によって、我々出雲族は九国の地へ島流しにされることになったのだ。」

九国王の言葉に、以東は深く頭を垂れる。

「存じております……」

九国王は再び顔を上げ、白髭の男を指し示した。

「だが、我々が絶望の淵にいたとき、この地に救いをもたらしたのが、このお方――ミスター・フランクリン師である。」

その名を聞いた瞬間、広間がざわめいた。

「ヤット、ミナサマノ前ニ姿ヲ見セラレテ光栄デス」

流暢だが、やや芝居がかった日本語に、美帆が小さく咳払いをする。

「フランクリン師、おふざけは不要かと……」

「これは失礼しました。以東元帥、中窪殿、初めまして。」

以東と中窪は、彼の明瞭な日本語に驚きを隠せない。中窪は冷静に状況を分析し、小声でつぶやく。

「語学など容易い……裏で指揮を執っていたなら当然か……」

フランクリン師は穏やかに微笑み、話を続けた。

「では、森羅万象についてお話ししましょう。この力は、もともと出雲族が扱っていた八百万の神々の霊力――大和族が扱う霊域とは少し異なる性質を持つものでした。それを私が西洋から持ち込んだ聖域(サンクチュアリ)の概念と融合させ、新たに創造したものが、現在の九国軍が使う『森羅万象』です。」

「……そんな仕組みだったのか……」

中窪の驚きの声に、九国王は重々しい声で言葉を続けた。

「すまないな。今まで黙っていた。しかし、この九国には土着族も多い。森羅万象という力を広めるためには、異国文化であることを伏せる必要があったのだ。」

フランクリンが穏やかな笑みを浮かべながら続けた。

「その通りです。だからこそ、私は一切表に出ることなく、裏から支援してきました。組織を統治するためには、共通の主義や思想が不可欠です。しかし、現在、我々は大戦を控え、戦力を最大限に引き上げる必要があります。これまで隠してきた森羅万象のもう一つの力を、一部リーダー以上の人材に解放し、伝授する時が来たのです。」

九国王が静かに頷きながら付け加える。

「勿論、元帥である以東と戦略師である中窪、君たち二人には先行してその力を伝授する予定だ。期待しているぞ。」

美帆が軽く頷き、言葉を補足する。

「卑弥呼様にもこの力の伝授は完了しています。それはもう、圧倒的な力でしたよ。」

フランクリン師は一同を見渡し、微笑を浮かべる。

「この力を更に高めるためには、皆さんに新たな解放術を伝授する必要があります。まずは元帥と戦略師、そして後日他のリーダーたちにもお教えします。」

九国王が厳かに宣言した。

「三日後からだ。期待しているぞ。」

翌日:九国軍リーダー会議

出雲隊本陣には、九国の各地からリーダーたちが集結した。以下の面々が顔を揃えた。

九国軍元帥:以東哲文

九国軍戦略師:中窪紀道

別府隊:山口有明

東薩摩隊:稲垣大輔

阿蘇隊:奈良琉生

西薩摩隊:島田欣也(しまだ きんや)

佐世保隊:毛利五郎(もうり ごろう)

久留米隊:杉本高志(すぎもと たかし)

以東は会議の冒頭で、昨日九国王と話し合った内容を共有する。その場の空気は徐々に重みを増していった。

そして、会議が終わりに近づく頃、以東の奥から再びフランクリン師が姿を現した。彼の登場に、場内のリーダーたちは目を丸くする。

「壮大なお話ですねぇ。」

東薩摩隊の稲垣が茶化すように言った。

「こんなフィクサーがいるとは思いもしませんでしたわ……」

久留米隊の杉本も同意し、驚きを隠せない。

フランクリン師は改めて、一同に森羅万象の秘密と、新たな力の伝授について説明した。全員がその力に期待を寄せる一方で、不安も拭いきれない様子だった。

「もっと早く教えてくれれば、平安をもっとはように潰せたんじゃないですか?」

西薩摩隊の島田が疑問をぶつける。

フランクリンが一同を見渡し、静かに口を開いた。

「その理由は……卑弥呼様の存在です。彼女の力がどうしても必要なのです。森羅万象のさらなる解放には膨大なエネルギーを要します。しかし、その力は極めて危険でもあり、暴走する可能性も否めません。そうなった時、私ではなく、彼女のような特別な存在が皆さんの力を制御する必要があるのです。」

「ほかにもなにかありそうだな。」佐世保の毛利は察する。

少し間を置いてから、フランクリンは穏やかに続けた。

「また、この伝授する力を私自身が解放できるようになったのも、ほんの数か月前のことです。十分な準備を整えた今だからこそ、皆さんにこの力をお伝えすることができるのです。」

フランクリン師の説明を聞いた一同は、納得し、深く頷いた。そして、以東が号令をかける。

「それでは、全員ここ出雲隊本陣にて伝授を開始する!準備を整えよ!」

「御意!」

一斉に響き渡る声の中、九国軍の新たな力の伝授が幕を開けた――。

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