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外務省大阪分室の弱者男性(中国への道②)

『中国への道』とわざわざ表記することにしたのは、まさにその中国への道がなんだか怪しくなってきたからだ。ゴールデンウィーク終わりごろには渡航して働き始められるものと思っていたのだが、どっこい渡航が6月半ばごろになることさえ現実味を帯びてきた――否、むしろ確実と思われるようになってきた。
ここに至った経緯はさて置いて、とりあえず私は思った。
(前途遼遠。であればこそ連続物にして書こう。こりゃあ続くぞお)
望まぬ意思とは裏腹に。
嫌な予感に限って当たることを、私はそれこそ嫌というほど知っている。

というわけで私は考えた。
Enter the Guangdong(=広東 *いうまでもなくブルース・リー主演の『Enter the Dragon』のもじり)』
という線も検討したのだが、よりわかりやすく、
『中国への道』
とすることにした。とりあえず、まちがっても「絹の道」とはいえない。しかしもう、泥道でもなんでもいいから、ともかく歩ければなんでもいいという感じだ。歩けなければ泳ぐし。泳げなければ飛ぶし。ともかく、なんでもいいから「道」という名のついたタテマエか何かを持ってこい!

それもさて置いて。
前回では私の犯罪経歴証明書について書いた。
大阪府警の皆様のおかげでそいつが取得できたので、他の書類ともども中国大使館に持って行って【認証(=これは偽造書類ではないというお墨付き)】をもらうのだと思っていたところ、中国大使館のウェブサイトにて「まず日本の外務省の認証をもらってから来てね」とあって「来来来…」と倒れ込みそうになった。

しかし倒れてもどうにもならないので起き上がり、私は外務省の認証を受ける方法を探した…ところ、大阪のこれまた谷町四丁目に外務省の大阪分室があることがわかった。
返せよ、大阪府警察本部からの帰り道に(これで谷町四丁目も見納めか…)なんて思った私の感傷を返せよ!…なんという間抜けな話か。

それさえもさて置いて。
やることは1つ――といいたいところだがもう1つあった。
「認証を受けられるのは、3か月以内に発行された書類だけ」
私の手元にあったのは2020年に取得した物――というわけで、大学の卒業証明書を再取得しなければならなかった。
四十路としては更に気力の削がれる出来事だったが、不幸中の幸いとして無職だった私はキューピーコーワゴールド錠剤を叩き込み、大学まで自転車を走らせた。闇雲な怒りを覚えていたため、我ながら凄いスピードだったと思う。

でまあ卒業証明書を手に入れ、また実は外務省分室としては「返送のレターパックとか同封してくれたら、郵送でこっちにくれてもいいよ」ということではあったのだが、「もういいや、直で谷町四丁目まで行こう。認証申請書類の書き方もあやしいし」と事務処理能力皆無のボンクラという自覚があるがゆえに堅実な判断を下し、私は谷町四丁目に向かった。

地下鉄谷町線谷町四丁目駅の5番出口から地上に出て、私はいつも通りGoogle Maps 先生に頼ろうとスマートフォンを覗き見た。が、その必要もなく外務省分室の入ったビルが眼前に聳え立っていた。

外務省分室は「分室」の名にふさわしい、狭く小さな部屋だった。
私が入り口近くにあった受付台で認証申請書を書こうとしたところ、
「こっちで書いてくれていいですよ」
と初老の男性職員が声をかけてくれた。
それからもその職員さんは懇切店寧に申請書の記入方法を指導してくださり、もう本当に事務作業がダメな私としては感謝にたえなかった。
さらに、5営業日ぐらいは認証にかかると思っていたところが、
「あさってに投函しますので」
「あら? すると、速達だからしあさってには届くんですかね?」
「とは言えないんですが。ともかく、あさってには投函しますね」
明言できないのももっともな話だと頷き、
「わかりました」
と答えながら、(直に来てみるものだなあ)としみじみ思った私だった。

~続く(意思とは裏腹に)~

*ちなみに今回のタイトルは、The Clashの「(White Man) in Hammersmith Palais(ハマースミス宮殿の白人)」を意識した。個人的には「白人」を「白ん坊(しろんぼう)」とした方がハマると思うのだが、まあもう時代的にアカンのだろう。


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