哲学・思想は社会のOS

「刀剣女子」が一時話題になった。日本の名刀の展示会に、それまでは全くと言ってよいほど姿を見せなかった女性が来るようになったらしい。しかもマニアを唸らせる知識を持っていたり。名刀をイケメンに擬人化したゲームが流行ったことがきっかけだったという。

昔、NHK教育(Eテレ)の芸術系番組といえば、真面目くさった、難しい言葉を羅列した解説が普通だった。そんな中、「びじゅチューン」という短い動画が放映されるように。そこではいろんな芸術作品がおちょくられる。ミロのヴィーナスは学級委員長に、麗子像は何故か夢魔をやっつけるヒーローに。

尊敬を集めてきた芸術作品をそれだけおちょくれば腹を立てる人が多いのかと思いきや、美術館に通う子どもが増えたということでとても評判がいいという。しかつめらしい小難しいもったいぶった解説のために遠ざかっていた人たちが、この動画をきっかけに興味を持ち、関心を深めた人も増えた様子。

私は、これと同じことを哲学や思想でできないか、と考えた。哲学思想に限らないけれど、専門家は専門用語に慣れすぎて、専門用語を使わずに説明することが苦手だったりする。特に昨今の哲学思想は、「こんな難しいものを理解できる自分はすごい」と酔うためのものになりがち。そのためか。

難しい言葉を難しいまま表現する人がどうも多い。専門用語ぐらい理解してから入ってこい、と、哲学思想をやってる人は、無知な人に対して冷淡。そして傲慢に振る舞いやすい。それが哲学思想を、一般の人から遠いものにしてしまっているように思う。

「哲学・思想なんて何の役に立つの?」と問われることは多い。それに対し、哲学を学んでいる人は「哲学で役に立つかどうかなんて考えちゃダメだ」と答えることがある。確かに役立つかどうかだけで判断するのは問題があるかもしれないけど、それでは「役に立たない」と宣言してるようなもの。

私ははっきり言って、哲学思想はものすごく役に立つと思っている。しかしどう役に立つのかと問われると、それらを学んだことのない人にわかりやすく説明することができない人が多いように思う。「誰それはこう言った」と説明てきても、それで?という感じで終わってしまう。

哲学・思想で、「びじゅチューン」のようなことができないか。「哲学思想って面白い!」と思ってもらえるようにできないか。哲学思想がどんなふうに役立つのか、それがわかると同時に強く興味を持つようなことができないか。それが「世界をアップデートする方法」執筆のきっかけ。

哲学や思想は、いわば私達が生きる世界の「OS」のようなもの。パソコンやスマホは様々なアプリを利用できるけど、それを可能にしているのが、土台となるオペレーションシステム(OS)。これと似て、哲学思想は、私達の社会のOSを形成してきた。

たとえば、中世の西欧はキリスト教が支配していた社会だった。キリスト教が社会のOSだったと言える。しかし次第に教会や僧侶の堕落が進むと、それに対抗するかのようにプロテスタント(新教)という新たなOSが提案された。ここで旧教と新教という二つのOSのせめぎあいに。

自分のOSこそ絶対だ!と主張し合って、人々はどちらを信じてよいかわからなくなった。そんなとき、デカルトが近代合理主義という新たなOSを提案し、結局これが現在に至る基本的OSになっている。このように、OSと捉えると、哲学・思想は社会に無茶苦茶影響を与えている。

西欧はキリスト教の影響が強すぎて、人間を罪深き存在だと捉えていた。なのに子どもは無邪気すぎて罪の意識がない。だから子どもになるべく早く罪の意識を植えつけなければ、というのがあったという。しかしルソーは「子どもの発見」をし、子どもの素直な性質そのままに育てた方がよい、と提案した。

ルソーが今の教育の「OS」を作ったと言える。
フロイトやユングなどは「無意識」を発見し、理性が無意識という海に浮かぶ小舟でしかないということを明らかにした。デカルトが提案した近代合理主義の基礎である理性は、その小舟の上の話でしかないという新たな「OS」を提案した。

レイチェル・カーソンは、化学物質の負の側面を指摘することで、科学の限界や環境問題という新たな「OS」を提案した。
このように、哲学・思想というものは、物事の考え方の基礎、OSを作り出し、そのうえに様々な社会的装置が動き出すという役割を果たしてきた。

そういうことが読み取れると、哲学や思想に興味を持てる人が増えるのではないか。そうした呼び水になるような本を書けないか、というのが、今回書いた「世界をアップデートする方法」の趣旨。

本来なら、哲学や思想を専門でやってる人が書いた方が良かったと思う。私は哲学・思想の素人。でも、哲学・思想に造形の深い人ほど、専門用語を使わずに解説することが難しくなってしまう不思議な現象がある。わからない人がなぜわからないのかわからないという状態になってしまうらしい。

私は、自分の特技が、わかりにくいことをわかりやすく書くことだと考えている。哲学・思想を専門にやっている人、哲学思想なんか一切興味がない人、この間には深い断絶があるが、その間に橋をかけることができるのではないか、と考えた。

読んで頂いた方には、面白いと言ってもらえてる様子。これまで哲学・思想なんて読んだことない、ソクラテスやプラトンなんて名前を聞いたことがあるだけで何をした人かなんて知らない、という人にこそ、読んでみて頂きたい。

「世界をアップデートする方法 哲学・思想の学び方」
x.gd/MWrKc

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