より多くの人に、正しいノウハウを。小島英揮さんと語る、コミュニティ運営に必要なこと
シンセカイテクノロジーズ初の著書「もうバズらなくてもいい 新時代のSNSコミュニティの教科書」の発売を記念した対談連載企画、第2弾のゲストはコミュニティマーケティング推進協会代表理事の小島 英揮さん。
近年「コミュニティ」という言葉は、私たちの日常にすっかり溶け込んでいます。
アーティストのファンコミュニティやオンラインサロンなど、複数のコミュニティに属しているという方も少なくないでしょう。
コロナ禍を経て、コミュニティは以前にも増して私たちの暮らしと密接になり、ビジネスの分野でも注目を集めています。なぜならコミュニティは、ファンの熱量を高め、ユーザーの購買意欲を喚起し、企業のマーケティング戦略において非常に有用なツールとなるためです。
そこでSNSコミュニティの運営支援を行うシンセカイテクノロジーズは、企業のマーケティング担当者やSNSマーケティングに関わる方々、そしてコミュニティの可能性に興味を持つすべての皆さまに向けた入門書『SNSコミュニティの教科書』を発売しました。noteでは、この書籍の発売を記念した対談企画を連載中です。
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今回ゲストにお迎えしたのは、パラレルマーケターとして複数社でコミュニティマーケティング支援を行う小島 英揮さん。
日本最大のクラウドユーザーコミュニティ「JAWS-UG」などの立ち上げに携わり、2019年には書籍『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』を発売したコミュニティマーケティングの第一人者です。
「コミュニティマーケティングを語るには、小島さんの存在が欠かせない!」と語る岡崎とともに、「コミュニティマーケティングの変遷とこれからのコミュニティ運営に必要なこと」をテーマにお話ししていただきました。
小島 英揮|パラレルマーケター /Still Day One合同会社 代表社員
IT・B2Bの世界で、30年ほどマーケティング活動に従事。PFU、アドビシステムズ等を経て2009年から2016年まで、AWS(アマゾン ウェブ サービス)で日本のマーケティングを統括。その間、日本最大のクラウドユーザーコミュニティ「JAWS-UG」の設計、立ち上げに携わる。2016年にコミュニティマーケティングのためのコミュニティ「CMC_Meetup」 を立ち上げる。2017年より複数の企業でコミュニティ施策やマーケティング全般の伴走支援、社外取締役などをパラレルに推進中。2024年2月にコミュニティマーケティング推進協会を設立、代表理事に。
著書に『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』(日本実業出版)がある。
岡崎 智樹 / TOMO OKAZAKI
株式会社SHINSEKAI Technologies CSO (Chief Strategy Officer)
2006年にアクセンチュア社に入社後、証券領域やアウトソーシング事業のコンサルタントとしてキャリアを積んだ。2022年にシンセカイテクノロジーズ社のCCOに就任し、コミュニティマネージャーやアドバイザーの経験をもとにコミュニティ運営のモデル開発や事業構築に従事。その後CSOへと役目を変え、全社戦略構築やMURAコミュニティの事業統括を担う。
コミュニティは、デジタルにリアルを実装する時代
岡崎:小島さんは2019年に書籍を出版されましたが、当時と現在でコミュニティの在り方はどう変わりましたか?
小島:まず、デジタル上でコミュニティを運営することが一般的になりましたよね。コロナ禍を経て「オンラインコミュニティ」が浸透してきましたし、参加者もZoomなどのツールの扱いに慣れたことで、比較的簡単に参加できるようになりました。
書籍ではコミュニティ運営においてリアルな場を重視する考え方(=オフラインファースト)を提唱していたのですが、その内容をアップデートする必要が出てくるほど、デジタル上でコミュニティを運営するのが当たり前になってきたと思います。
岡崎:そもそも、オフラインファーストを提唱されていたのはなぜでしょう。
小島:僕は良いコミュニティを運営する上で重要な「心理的安全性の高い環境」や「お互いの信頼」を重視したコミュニティ運営を重視する考え(=トラストファースト)を推奨しています。オフラインは、そんなトラストファーストが醸成しやすかったからです。
デジタル上ではお互いの反応や何気ないコミュニケーションが見えにくいのですが、この状態だとコミュニティの“熱”は高まりにくい傾向があります。
これは僕の経験上ですが、コミュニティではオフラインの接点をもつと圧倒的に熱量が高まりやすいように感じるんです。
でもデジタルには「効果が見えやすい」「いつでもどこでもやりとりができる」など良い面も多くあります。最近は世間全体がデジタルに慣れ、オンラインでも心理的安全性や信頼が醸成できるようになったため、リアルな場を重視するだけではいけないと考え始めました。きっとこれからは、デジタルにリアルを実装する時代なのだと思います。
岡崎:デジタルとリアルの双方をうまく組み合わせるんですね?
小島:はい。僕はよくコミュニティを盛り上げることを「加熱」と表現するのですが、リアルが加熱であればデジタルは「保温」の役割をもつと思っています。実はオフラインの場って、エンゲージメントは高まりやすい一方、終わった後の減衰も起こりやすいんです。
でも、デジタルコミュニティのイベントであればオンラインで連絡を取り合ったり、お互いの発信を見たり連絡を取り続けたりすることで“熱”を保つことができます。
デジタルコミュニティの良いところはまさにこういった熱量の保ちやすさですが、時折オフラインで開催する特別なイベントや場所があると、より効果的なコミュニティを作れると考えています。
効果的なコミュニティを作るには「ファーストピン」を探せ
岡崎:「効果的なコミュニティ」というお話もありましたが、小島さんの思う良いコミュニティの条件ってなんでしょうか?
小島:メンバーの行動変容が、コミュマネや運営元の会社“以外”の力で起きていることではないでしょうか。いわゆる「行動の連鎖」ですね。
コミュニティマーケティングにおけるコミュニティには、必ず最終的な目標があります。何かのサービスを利用してもらうのか、広め役になってもらうのか、目標は団体によって異なりますが、いずれにせよ「なんとなく運営して関係を維持する」ではいけないんですよね。
そこで必要なのは、運営側の必要最低限のアクションでコミュニティメンバーの一人ひとりが行動を起こす状況を作ることです。
コミュニティマネージャーが直接働きかけられる人数には限界があります。一人ひとりに直接アプローチすることで行動を起こしてもらうことはできるかもしれませんが、それはもはやダイレクトマーケティングですよね(笑)。
岡崎:それではコミュニティを作る意味がないですよね!コミュニティマーケティングの何よりの良さは、人やお金が少ない中でも多くの人に商品を届けられるサステナビリティだと思います。
小島:そうなんです。だから、コミュニティマーケティングにおける良いコミュニティとは「目的の達成に対して最短距離でアプローチできるコミュニティ」であり、それはメンバー同士が互いに影響し合い、行動を促す環境があることなのではないでしょうか。
岡崎:小島さんの本では行動の連鎖を引き起こすためには「ファーストピン」の見極めが重要だとおっしゃられていますよね。
小島:ボウリングの一番ピンになぞらえて「その人を狙えば、その人を中心に口コミが広まって行動の連鎖が起きる」という人を指しています。
例えば商品の購買に繋げることが目的のコミュニティであれば、そのコミュニティ内にいる商品のファンであり、情報を発信してくれる人ですね。
岡崎:ファーストピンの重要性はとてもよく分かるのですが、その方を見つけるまでが難しいと感じています。僕らは素質がありそうな人を選び、コミュニティに発生した「余白」に何か行動を起こしてくれるかを基準に選んでいるのですが、小島さんのおすすめ方法を教えていただきたいです。
小島:最終的に巻き込みたい人たちを想像して、その人達が影響を受けているのは誰なのかを見つけるのが良いと思います。
おっしゃる通り、ファーストピンを見つけるのことは容易ではありません。ファーストピンにはまわりにいる人の多さと人への影響力、発信の多さなどが求められるのですが、それを兼ね備えている人はなかなかいないですよね。
一番やりやすいのは集団の中で目立つ人にアタックしてみる方法なのですが、目立つ人が必ずしもまわりへの影響力を持っているわけでないんですよね。
なので、影響力がある人を探すよりも、巻き込みたい人が影響を受けている人を探すほうが早いんじゃないかと考えています。
コミュニティマーケティングの需要に、人材が間に合っていない
岡崎:コミュニティを盛り上げるために必要な要素を兼ね備える人材はなかなかいない。おっしゃる通りだと思います。こういった人材は、探して入ってもらうのではなく、コミュニティ内で育成することも視野に入れないといけませんよね。
小島:まさに。今はコミュニティに参加する側だけでなく、運営する側の人数や質も昨今のコミュニティマーケティング需要に応え切れていません。
実はコミュマネには、かなり幅広いスキルが求められます。コミュマネはコミュニティを維持するのではなく、商品の購買やサービスへのコンバージョンなど、さまざまな目的を達成するためにドライブさせる必要があるからです。
岡崎:コミュニティの規模にもよりますが、僕も1人でコミュニティを運営することは非常にハードルが高いと思っています。数値を見てすべきことをすると同時に、メンバーがコミュニティに対して抱いている感想やメンバー同士の繋がりなど、エモーショナルな部分も把握する必要があるのも難しいポイントですよね。
僕たちはこの難しさを解決するために、コミュニティ内にさまざまな役割を持った人がいることが望ましいと考えています。クライアントにとっての成功の定義や期待値の確認を行うカスタマーサクセス(CS)、コミュニティ活動の場を建築するコミュニティデザイナー(CD)、コミュニティの運用施策を実施するモデレーター(MOD)などです。
各役割に合った仲間を集めることが、円滑なコミュニティ運営に繋がるのかなと。
小島:まさにそうだと思います。この難しさを理解しないまま、社交性だけでコミュマネを決めてしまうと運営はなかなかうまくいきません。適材適所に人材を選び、その人材に正しくスキルをインプットさせることが求められていますよね。
興味がなかった人も参戦。期待値が高まる、コミュニティの今後
小島:ここ数年で、コミュニティの需要は一気に高まりました。コミュニティマーケティングを成功させた企業が出てきたことで、ダイレクトマーケティングに限界を感じている企業がコミュニティの立ち上げに挑戦するようになりましたよね。
コミュニティマーケティングと相性の良いD2Cビジネスに取り組む企業も増えているので、これからもっと色んな分野でコミュニティが立ち上がりそうです。
でも僕はその分、これからは「コミュニティマーケティングって思ったより難しいんだ…」と幻滅する方も増えてくると思うんです。
それだけ期待値が高まっているということは良い傾向ではあります。一方でこれからはきちんとしたフレームワークやトレーニングを提供し、再現性が高い形でノウハウ化していかなければならないと考えています。
岡崎:コミュニティ作りに成功した企業を見て「そんなに効果があるなら」と興味本位でお話を聞きにきてくださる方も増えましたよね。色んな方が興味を持ってくださる分、どんな方でも理解できるようコミュニティマーケティングを説明する必要性も感じています。
小島:これまではコミュニティマーケティングに対して前向きな方がコミュニティを作っていたのですが、最近は藁にもすがる想いで取り組む方も増えてきており、コミュニティの良さが腹オチしている人ばかりではなくなってきています。論文などを交えて、言葉で論理的に説明することが求められる機会も出てきていますね。
コミュニティマーケティングのカバーする領域は、複数の研究分野にまたがっていることもあり、様々な立場の人に納得してらえる説明ができるようになるまでに僕もかなり試行錯誤しました。僕の著書や日々の講演は、まさにそういった方々に向けたものであるわけですが、『SNSコミュニティの教科書』も今後、そういった役割を果たすのではないかと考えています。
岡崎:小島さんの著書のタイトルにはコミュニティマーケティングが「ビジネスも人生もグロースさせる」と書いてありますよね。たしかにコミュニティマーケティングを学ぶことで得られるものは大きいと思うんです。だからやっぱり、興味がある方には一度体系的に学んでみてほしいですね。
小島:「ビジネスも人生もグロースさせる」には2つ意味があります。
1つはコミュニティマーケティングの手法を使うことで「正しい評判」を得て、自分自身をうまくブランディングできること。
コミュニティマーケティングの基本は、届けたい人に情報を届け、正しい人たちを巻き込むことです。このやり方を知っていると、自分の周りにも適切な人たちを集めて正しい評判を得ることができます。
そして2つ目は、今の時代にフィットした人材になれること。先ほども言ったように、今はコミュニティ有識者が多く求められているのに対して、圧倒的に人材が不足しています。コミュニティマーケティングやマネジメントができること自体が、将来を切り拓くことに繋がるかもしれません。
岡崎:僕もコミュニティに携わるようになって新たな人生の道が見えた当事者なので、非常に共感します。この書籍が、皆さんのキャリアを切り拓くきっかけとなれば嬉しいです。
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前回の記事では、きせかえできるNFT「sloth(すろーす)」のコミュニティを運営されている、けんすうさんと対談しました。こちらも併せてぜひご覧ください!
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