見出し画像

蠍座 積極的に走り回れば願い事がかなうチャンスあり

 インドから帰国した翌月、2007年4月6日の毎日新聞の星占いに「蠍座 積極的に走り回れば、願い事がかなうチャンスあり」とあった。そうか、これは5月の連休で、南アフリカの洞窟を見てこいということかもしれない。南アフリカに『人類のゆりかご』と名づけられたユネスコ世界遺産、スタークフォンテン、スワルトクランス、クロムドライなどの洞窟を中心とする人類遺跡群がある。そこを訪ねたら、「人間とは何者か、文明とは何か」という問いに答が見つかるかもしれないという予感がした。この問いは、2002年8月にヨハネスブルグに向かう飛行機のなかで手帳に書いたものだ。しかし、積極的に走り回るっていったい何をすればいいのだろう。

 僕は、まず、学生時代からお世話になっているプロのカメラマンで、縄文土器の撮影の専門家で、かつて若いころには、旧ポルトガル領アフリカのギニアビサウで解放闘争を戦うゲリラのルポ「ゲリラの朝」を書いた小川忠博さんに電話してみることにした。

 「おひさしぶりです。今度、人類が生まれた場所である南アの洞窟に行ってみようと思うんですけど」
というと、小川さんは、細かい背景や取材目的など聞かないで、
 「君はそろそろきちんとした取材をして、それを雑誌に持ち込むくらいじゃなきゃいけないね。一眼レフのカメラを買って、写真も撮って。まず、近くの本屋にいって、その記事を買ってくれそうな雑誌をみつけて、編集部に電話してみてごらんなさい。あと、カメラと三脚を買ったら、広角レンズとストロボは貸してあげるから、一度家にいらっしゃい。洞窟の写真の撮り方を教えてあげるから」
という具体的なアドバイスをくれたのだった。

 根が素直な僕は、会社の帰りに書店の雑誌コーナーに立ち寄り、可能性がありそうな雑誌を見つけ出しては、編集部の電話番号をメモした。

「ソトコト」、「ムー」、「AXIS」、「新建築」、「一個人」、「環」、「旅」、「ニュートン」、「歴史街道」、「中央公論」、、、。総合雑誌から、科学雑誌、建築雑誌、エコロジー、旅といった実に多岐にわたる雑誌である。

 取材する前の段階で、そもそもどんな記事を持ち込もうとしたのかというと、人類進化のミッシング・リンクであるハダカ化がおきたとおぼしき洞窟が南アフリカにあるので、その洞窟の中で文明の来し方行く末を考えるというかなり漠然としたものだった。

 建築雑誌がどうして入っているかというと、洞窟でハダカになった人類は、洞窟を一歩出たときから、人工の洞窟を必要とするようになった。それが建築の始まりであるということから、洞窟の中をよく見わたせば、建築にとってヒントになることがあるかもしれないという筋書きであった。

 結果的に、興味を示してくれて原稿を買ってくれるといったのは「ソトコト」だけだった。ソトコトを出している木楽舎からは、島泰三先生の「はだかの起原」が出版されている。僕は「はだかの起原」を読んで、人類がハダカになるとしたら、それは洞窟の中しかありえないと考えていた。人類が、ハダカであることの不思議を理解している編集者に
 「島先生は、重複する突然変異によって、ハダカ化と言語が同時に生まれたと書いておられますが、それは洞窟の中でおきたと思うのです。それを確かめてきたいのです」
と話したら、すんなり受けてくれたのだった。


トップ画像は、ユネスコ世界遺産『人類のゆりかご スタークフォンテン洞窟』出口にあるロバート・ブルーム博士の胸像(著者撮影)


 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?