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味噌汁と新妻の悲哀

味噌汁は鍋を使わなくても作れる、というのは一人暮らし時代に知ったことだ。
スーパーには「調味みそ」という、だしの入ったチューブタイプの味噌が売っており、乾燥わかめやねぎなどの具とともにお湯で溶けば、インスタントよりも割安かつ美味しい味噌汁が食べられるのだった。

結婚してから研究はさらに進み、調味みそを買わずとも、ほんだしと普通の味噌を適当に入れれば同じようなものが作れることがわかった。
もちろん、これは一人で朝や昼に食べるときの手抜き飯で、夫に食べてもらうときはちゃんとお鍋で作る。
しかし「ちゃんと」と言っても、手順はほぼ変わらない。具を煮て、ほんだしと味噌を入れるだけだ。

結婚から一年経って、私たち夫婦はいま、12月の結婚式に向けて準備の真っ最中である。
先日、披露宴の司会者との打ち合わせをした。
トークの材料にするのだろう、司会者が夫に、「奥さんの手料理で一番好きなものはなんですか?」と聞いた。

私は少し緊張した。決して料理上手ではないからだ。
夫は私の料理の中では、厚揚げのそぼろ煮を気に入っていたはずだ。それか、シチューとかミネストローネとか、私の得意な煮込み料理を答えてくれたら嬉しいなと思った。

夫は少し考えてから、
「味噌汁ですかね」
と、答えた。

「味噌汁って自分では作らないので、新鮮というか。作ってもらえると嬉しいです」
と続けた夫は、つまり味噌汁の味ではなく、味噌汁が食卓に上るということ自体が新鮮で嬉しいという意味で言ったのだ。

それでも、夫が「一番好きな手料理」に「味噌汁」を挙げたことは、少なからず私を悲しくさせた。
あんなの料理のうちに入らない。カップ麺並みの手間であるし、あれはほんだしと味噌の味であって、私の努力の成果ではない。
スクランブルエッグと言ってくれた方がまだマシだった。私はふわとろのスクランブルエッグを作ることにプライドを持っているからだ。

結婚式で私は、「ほんだし頼みの味噌汁しかまともに作れない不出来な女」と思われるのだろうか。違うのに。ちゃんとした料理もたくさん作ってきたのに。
好きな奥さんの手料理は味噌汁って言うのやめてください、と司会者に頼んでもよいものだろうか。


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