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【仕事術:就活編】25年以上前の就活で役立った2つの取り組み

それは90年代前半の話

ぼくが就活をした時期は、バブルが崩壊して間もない頃。
けれども、ゲーム業界はバブル崩壊なんて何処吹く風でした。

家庭用ゲーム市場は、任天堂のスーパーファミコンとゲームボーイ、セガのメガドライブ、NECのPCエンジンがしのぎを削っています。
アーケードゲーム市場では、ストリートファイターIIが大ヒットして、格闘ゲームブームが起こっていました。

ゲーム機もソフトも種類が沢山あって、どれで遊ぶか迷うくらい。
業界全体の景気が良いので、ゲーム業界に就職したがる学生は多く、競争率は今よりもずっと高い時代でした。

グラフィックデザイナーとしてゲーム会社に就職を決めた時、ぼくを含む3人の採用に対し、200人の応募がありました。66倍の難関だったわけです。

就活生の皆さんへ

今回は、ぼくがゲーム業界に対して就活していた時の話をします。
合否に影響したと思われるポイントは2つありました。

1:できることは全部やる=最大限の知恵と工夫と配慮を注く

書類選考が通った後、自分で描いたイラストの提出が求められました。
期限は1週間。最低2点の提出だったと思います。

ぼくは、期限の1週間をフル活用しました。
バイトも休み、卒業制作も後回しにして、机にかじりついてました。

提出物で押さえたポイントは次の通りです。

【a】イラストは全て書き下ろし(過去のものは使わない)
【b】全てカラー。ただし、短時間で数多く描くので着色はマーカーを使用。
【c】2枚以上描く(結局7枚描きました。1日1枚ペースです)
【d】ゲームで使われることを想定したキャラ描く(風景は描かない)
【e】一枚絵ではなく、キャラデザイン案として描く(1枚に数点描くことも)
【f】描くキャラはバラエティ豊かに(老若男女、動植物、妖精、モンスターetc)
【g】3頭身デフォルメも8頭身リアルも、どちらも描く
【h】出来上がったイラストは黒い台紙に張り、トレーシングペーパーを被せる

採用側は、ぼくが何を描けるのか、わかりません。
一方、ぼくは採用側が何を描ける人物を求めているのか、わかりません。
だから、【f】【g】のようにバラエティ豊かになるように心がけました。

で、何を描いたのか?

それは次の7枚です。

【1】2,3頭身のデフォルメモンスター5体
【2】2,3頭身のデフォルメモンスター5体
【3】5,6頭身のデフォルメキャラクター集合イラスト(老若男女7人)
【4】5,6頭身のデフォルメキャラクター集合イラスト(人間やモンスター9体)
【5】リアルな8頭身のファンタジー系人間キャラ1体(ラフ)
【6】リアルな8頭身のファンタジー系亜人間キャラ1体
【7】リアルな8頭身のファンタジー系ボスモンスター1体

描く対象をキャラクターに絞り、数多く用意したことには理由があります。

当時、ロムカセット中心だった家庭用ゲームソフトの媒体は、今後、大容量のCD-ROMに変わろうとしていました。
数年後にCD-ROMが主流になった時、多くのキャラクターがゲームに登場するようになり、そのキャラクターを使った様々な物語が作られるに違いない。

そう考えたぼくは、描く点数を多くして、単に描けることを示すだけでなく、デザインアイデアが豊富にあることも示すことにしたのです。

また、上記【h】の台紙は、見る人の手がイラストに被さるのを防ぐ為です。台紙の色は、イラストを邪魔するカラーを避け、より引き立たせる黒にしました。これは額縁と同じ効果を狙っています。
トレーシングペーパーを被せたのは、イラストが汚れないようにするため。クリアファイルを使わなかったのは、前述の額縁効果を出す為です。

ちなみに、後々行われた面接では「今後、ゲーム業界はどうなると思うか?」という質問があり、前述した「CD-ROMでゲームソフトが大容量になり、その結果、多数のキャラクターが登場し、様々なドラマが生まれる」と答えています。
課題の対応も、面接の準備につながるということです。

2:自分にしかできないことをする=自分以外には一般的でない経験を生かす

自分にできることを全て注ぎ込んだ最初の課題は、無事に通過しました。

しかし、応募者多数のため、急遽、追加の課題が出されます。
(後々知ったのですが、この時点で応募者200人が40人まで絞り込まれたそう)

課題は「1キャラクターのデザイン画を前後左右の4枚描く」でした。

ぼくは「5,6頭身の男性デフォルメキャラクターの裸体」を描くことにしました。
ちょうど大学で解剖学を学び、骨格や筋肉の構造を把握していたからです。

ぼくは授業で裸婦デッサンをしていたので、裸慣れしていました。
それが一般的ではないことも自覚していました。
だから、返って自分のオリジナリティになるだろうと思ったのです。

また、当時連載中だった「ドラゴンボール」で、筋肉隆々のサイヤ人が出ていたので、裸の男性を描いても相手が引くことはないだろうという読みもありました。

その他に配慮した点は、髪型と腕のポーズを左右非対称にしたこと。
左右非対称がないと四方向を描く意味がありません。服を描かないので、変化をつけられるのが髪型とポーズだけだったのです。

さて、追加課題の結果ですが...見事、合格。役員面接へと進みました。

追加課題の選考ポイントは?

入社後、新入社員歓迎会で、当時の開発部長にこの時の選考のポイントが何だったのか聞いてみました。

その答えは「ハダカを描いたのは君だけだったから」でした。
想定外の絵にビックリして、大笑いしたそうです。

ぼくが解剖学で学んだ筋肉構造は、選考の決め手でも何でもなかったようです。
とはいえ、自分ならでは経験を生かしたことは、大正解でした。

似たようなエピソードが、もう1つあります。

内定から入社までの期間に、ゲームのプレイレポートの提出が求められました。
その時、ぼくはパソコンを持っておらず、手元にあったのはワープロだけ。
当時、パソコンはまだまだ高価だったのです。
でも、文章を印刷するだけなら、ワープロで十分でした。

だからと言って、ただ書いて印刷するだけでは面白くありません。
プレイレポートを書き終えた後、もう一工夫加えることにしました。

真っ白な紙に印刷するのではなく、原稿用紙に印刷したのです。

当時のワープロに原稿用紙用の印刷設定なんてありません。
マス目に文字を綺麗に埋める為、字間と行間を何度も調整しました。
その努力の結果、入社後、先輩社員にはこう言われました。

「原稿用紙に印刷されたレポートなんて初めて見たよ。これミリ単位で自分で設定したんだろ。なんて細かい男なんだ(笑)」

自分にしかできないことは、身の回りに潜んでいる

例えば、今では誰もが使っているスマホ。その使い方で自分では当たり前と思っていることが、実は一般的ではないかもしれません。

あるいは、本棚にある愛読書の1冊は、誰も知らない珍品かもしれません。

面接会場までの道のりを調べた時に、A駅とB駅からの距離は同じだけど、B駅から移動した方が信号の数が短いので早く着く可能性がある、というところまで調べたのは、あなただけかもしれません。

何か特別なことをしなければと焦ったり、今まで大した経験をしてこなかったと落ち込む前に、もう一度、自分が経験してきたことや、身の回りにあるものを見直してみて下さい。

あなただけの個性が見つかる可能性は、十分あります。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 気に入っていただけたら「スキ」やSNSでのシェアをお願いします。