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【散文詩】錆色の色彩

(はじめに)
 
 住んでいる町を描こう。生まれ育った地元
の匂いや、数年前の体験を詩にしてみるのも
良いのではないか。陰と陽、どちらかと言え
ば、限りなく陽には程遠いかもしれない。地
方の町が抱える問題を避けては語れませんが、
この場所が好き、そんな思いだけで綴ってみ
ようか。風を感じるままに。

 

 錆色の色彩

商店街は昼間だというのに人通りがなかった
営業している店のほうが少なく シャッター
が下ろされている店舗ばかりが目立つなか 
郵便局だけは 人の出入りがあるようだった
息を吸って吐く そのことさえ忘れてしまっ
た空気が漂う これが私の生まれ育った町の
現状だった その昔 隣町に大型スーパーが
出来て以来 買い物客は自然と流れ 人口の
流出に歯止めをかける術はなかった 数年前
に母校であった小学校までなくなったときに
は ショックを受けた 錆色の町 と形容し
てしまうのは誤解を招く表現になってしまう
のだろうが 乏しい知識では相応しい言葉が
浮かんでこない ひとすじの風が鼻先をかす
め潮の匂いを残していく 海辺の町特有の色
彩だ 軽自動車を車検に出していた自動車修
理工場から完了の連絡を受け 徒歩で向かっ
ていた
「お待たせしました」
工場へ着くと 六十を少し過ぎた社長が出迎
えた 誰からも好かれそうな雰囲気の社長は
先代から事業を引き継ぎ 地域に溶け込んだ
商売を続けている 私の父とも顔見知りであ
り 何より 褪せてゆくばかりの町において
光を放つ存在だった かつて父も商売を営ん
でいた 七坪ほどの広さの椅子が二台しかな
い理容店を開いていたが 歳を重ねるにつれ
客足は遠くなり 耳も遠くなったせいもあり
辞めてしまった 社長が今回の車検について
の内容を説明し 費用がかさんでしまうので
バッテリーは今すぐ交換する必要はないだろ
うと (仕事への情熱が垣間見えた)



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    イラストお借りいたしました
  私の故郷の海辺にそっくりな作品を
     ありがとうございました

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(ちょっとだけ解説)

 もう少し脚色しても良いのではないか。い
や、これはこれで───。感想が分かれると
思いますが、この作品を書くにあたりまして、
ミレーの絵画「落穂拾い」を頭の片隅にちょ
っとだけ浮かべ完成させましたことを吐露し
ます。

 お読みくださいまして、ありがとうござい
ました。


    3月もよろしくお願いいたします。



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