さや香の「エロい」は言い下しの芸/博多華丸大吉の優しい想像力
とても今更すぎる話題なのですが、M-1グランプリ2022でのさや香の1本目の免許返納のネタについてです。
あれから四ヶ月経って見てもめちゃくちゃ面白いですね。M-1の歴史に残る、なんならブラマヨやミルクボーイの伝説に匹敵する漫才。これは一生拍手を送りたいです。
このネタとセットで思い出すのは、大吉さんの審査コメント。
新山の「オトンが47歳になってからできた子供?お前のオトン、エロいな」というツッコミは直接的すぎるのでは、という内容でした。
エロいとわざわざ言わなくても、例えば「元気だな」や「すごいな」でもニュアンスをほとんど変えず、笑いの量も変えずにワード自体をポジティブなものに変えられるところでした。
幅広い視聴者の中には似たような家庭環境の人がいて、彼らへ配慮をするなら別の言葉を選ぶべきだったのでは。漫才を見て気まずくなる家庭もあるという優しい想像力を持った大吉さんらしいコメントでした。寄席で不特定多数の観客を楽しく笑わせる、大吉さんの漫才師としての矜持を感じました。
対してさや香たちも、無遠慮にその言葉を選んだのではなく、あえて乱暴に言い下してしまった方が大きな笑いになると考えたのだと思います。
これまで上の世代の漫才師がやってきた「元気だな」「すごいな」という巧い言い回しをフリに、避けられたはずの言葉でストレートに言い下してしまう面白さ。
特に関西の芸人でこの言い下しの芸をよく見ます。
パッと思いつくのは霜降り明星の粗品。ツッコミの名手でたくさんの技術を持つ粗品も「キモいのぉ」「○ねぇ」など低俗な言葉を多用します。
わざわざ言わなくてもいいのに、オブラートに包まない言葉で言い下してしまう。その言葉を使わずとも代替できる技術があるのに、浅いところで言いすぎてしまう芸。
関西でのお笑いに対する土壌がこの言い下しの芸を形成したように思います。
エロいなぁの下りでも、関西圏の視聴者のようにお笑いのリテラシーが高ければ、気まずくならず自虐やいじりネタに転換できる。芸人があえて低俗な言葉で言い下したことも面白がれる。
言ってしまえば、お客さんのリテラシーを信じたさや香と、お客さんを守ろうとした大吉さんとの意見の不一致なんですよね。
そしてさや香に見えていたのは関西の観客で、大吉さんが見ていたのは全国の視聴者だった。
個人的には大吉さんの審査に共感しましたが、そこを崩して切り開こうとしたさや香もすごい。さや香のチャレンジが全国の視聴者のリテラシーを高め、いずれはそちらが評価される時代も来るかもしれません。
どちらにも信念はあって、それがぶつかり合うから面白い。M-1初期のように審査員が上から漫才を採点する時代から、今では信念のぶつかり合いになっている。
とてもダイナミックに変わっていく瞬間を、今見ているんだなとしみじみ感じます。
今年のM-1も楽しみです!
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