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偉大なるホー・チ・ミン (我々の偉大な旅路 6-4)

↑こちらのシリーズの続きです。

↑ハノイ編(6-3)はこちら


ハノイ警察博物館

ハノイ警察博物館の外観

 書店街を少し離れたところに警察博物館はあった。賑わっている様子は全くなく、我々の他にベトナム人・外国人ともに観光客はいなかった。建物の前面にはホーチミンとおぼしきおじさんが描かれており、微笑みながら我々を見つめていた。守衛のような人が入り口に建っている。我々は笑顔で挨拶をし、中へと入った。

 中も閑散としており寂しい雰囲気ではあったが、展示は博物館としてはしっかりとした作りになっていた。展示は全てベトナム語で書かれているので我々にはさっぱり…ということはなく、ちゃんと英語、そして旧宗主国のフランス語で説明があり、我々にもかろうじてわかる内容となっていた。

「CIAとの戦い」パネル

 ハノイ警察博物館はその名の通りハノイ警察に関する博物館なのだが、ハノイ警察の歴史はすなわちベトナムの近代史の一部でもある。インドシナ戦争、そしてベトナム戦争。その間のハノイ警察の活動についての展示がされている。CIAの工作活動を阻止したエピソード、米兵から押収した武器、北爆で被害を受けたハノイでの救援活動などなど、見応えのある展示に我々は見入った。

青バイ

 お勉強もそこそこに、我々の興味を引いたのは警察の人形や白バイ(青い塗装なので青バイ?)の模型であった。取り調べ用の席に座り調書を書く警察官の人形、被疑者を叱責するような警察官の人形などがあった。ワカナミは、メガホンを持ち市民に注意をするような警察官の人形の前に立ち、"頭を抱えて叱責される市民のポーズ"をした。

"頭を抱えて叱責される市民のポーズ"をするワカナミ

「うわー」

ワカナミが叫ぶ。写真を撮ってくれということだろう。

「そのままね。今撮るから。」

フロアには他に人影は見えないので、人目を気にすることはない。私は警察にお叱りを受けるワカナミの姿をカメラに収めた。

警察官に書類を手渡すワカナミ

 お次は執務室で書類に目を通す警察官の人形だ。ワカナミは彼に書類を手渡した。もちろん、私に写真を撮ってくれということだ。私はメガホンの警官の時と同じくワカナミを撮影した。

 一通り遊んだところで、博物館を奥に進むと見慣れたおじさんが入り口に描かれた部屋があった。ホーチミンである。ハノイ警察とホーチミンについての展示がされているらしい。

ホーチミンの間

「結構どこでも見るよね、ホーチミン」

「建物の入り口にもホーチミンがいたね」

我々はホーチミンの間に進んだ。ホーチミンをはじめ、ベトナム共産党のプロパガンダポスターの展示が主だった。街中で見るプロパガンダも面白いが、こうしたプロパガンダの歴史もまた興味深いものだった。当地の人々からすれば当たり前の文化も、我々異文化からやってきた人々には好奇の目に映る。また文化の違いを肌で感じた。

ベトナムのプロパガンダポスターたち

 ホーチミンについて学んだ我々は博物館の中を一周していた。

「そろそろ出るか」

「無料の割には楽しめたね」

「もっと混んでてもよさそうなもんだけどね。楽しかったね」


コーヒーコーラ


 再び外に出ると陽は高く登っており、南方の陽光が我々に降り注いだ。灼熱の街をバイクがけたたましく右へ左へと駆けていく。博物館の中は人も少なく静かだったが、街は喧騒につつまれていた。

 博物館の横に飲み物のスタンドがあった。氷を詰め込んだカゴの中にペットボトルが冷やされている。祭りでよく見かける屋台のようだった。どちらが言うこともなく、我々は自然とスタンドを覗いた。

「このコーラ、コーヒー味だって」

「日本には売ってないよね」

世界中どこでも飲めるコカコーラだが、ベトナムにはオリジナルのフレーバーがあるらしい。せっかくなのでこれを買ってみよう。私は店員に10,000ドン札を差し出した。

コーヒーコーラ

 気になるお味は。ほのかにコーヒーの味はするが、至って普通のコーラだった。コーヒーが強くて苦いということもない。少し独特な味がするコーラという程度だった。しかし、灼熱のハノイで飲むコーラは美味しかった。おそらくどのフレーバーでも、普通のコーラでも美味しく感じただろう。


クアン・スー寺


 我々は書店街の方向とは逆の方向へとハノイの街を歩き始めた。行き先は例によって決まっていない。歩きながらiPhoneのGoogle Mapをいじり、次の目的地を探す。

「この角を曲がったところに寺院があるらしい」

「とりあえず行ってみるか。」

次の目的地は思ったよりすぐそばにあった。ここはハノイの中心部、見るべきところなら、すぐに見つかるはずだった。

クアン・スー寺の入り口。ベトナム語が書かれている。

 寺院はクアン・スー寺という名前だった。黎朝期から続く由緒正しきベトナム寺院のようだ。寺院は高い壁に囲まれていたが、入り口はすぐに見つかった。我々は早速寺院へと入っていった。

 寺院は大聖堂と同じく静かだった。広い庭を南国風の(いや実際に南国のものなので"風"ではないが)建築の建物が囲んでいた。門や標語が書かれたと思われる看板など、ほとんどの文字はアルファベットだったが、建物に掲げられた看板には漢字が使われている。現在ではほとんど使われていないとはいえ、ここベトナムも漢字文化圏なのだ。

漢字の看板が見える

 寺院の庭は植物が生い茂っており、手入れも丁寧にされており、居心地がいい。暑い気候の中ではあるが、緑が比較的豊かなおかげで、すこし爽やかな気分になる。我々は寺院の庭をぐるりと一周すると、建物の中には入らずに寺院を去った。

手入れの行き届いたクアン・スー寺


ハノイのランチタイム


 クアン・スー寺を出たのは12時半だった。朝食をホアンキエム湖のほとりのカフェと旧市街のフォースタンドで二回とっていたので空腹はそれほどでもないが、時間でいえばお昼の時間だった。クアン・スー寺を出た通りを駅の方角へと歩き進めると、大きな通りとの角に賑やかなレストランがあった。

 レストランは建物の一階部分の壁をなくし、街路から自由に行き来ができるようになっていた。我々は店員に挨拶をし、中の壁際に置いてあるビニールの椅子に腰を下ろした。壁がない、すなわち冷房がないので涼むことはできないが、灼熱の太陽から身を隠すだけでも体は十分に休まった。

メニュー

 店員がメニューを持ってくる。料理のメニューとドリンクのメニューがあるようだ。ビアハノイのサーバーが奥にあり、周りの現地人の客たちもビアハノイを飲んでいる。飲み物はビアハノイで決まりだ。あとはメインの食事だ。

「一人一皿ずつでシェアする感じにしようか」

「さっきフォー食べたばかりだからそこまでお腹すいてないし」

「麺とご飯とひとつずつ頼もうか」

相談の末、我々はチャーハンのようなご飯料理と炒め麺の二皿をオーダーした。

 周りのテーブルでは日曜ということもあってかたくさんの人々で賑わっていた。中央に座っている初老の男性の六人グループは盛んに盃を交わしている。

「〜〜!」

 ベトナム語はわからないがおそらく「乾杯!」という意味のベトナム語だろう。テーブルいっぱいに広げた料理をつつきながらビールを浴びるように飲む姿は、陽気で楽しそうだった。

ビアハノイ

 ビアハノイが運ばれてきた。我々もベトナム親父たちを真似て盃を交わすと、乾いた喉にビアハノイを流し込んだ。暑いハノイの街で飲むビールは格段に美味い。我々は一気に飲み干してしまった。すぐ追加のビールを注文する。ビールはすぐにまた運ばれてきた。

「ベトナムの料理ってあまり美味しくないって書いてるブログがあったけど、実際どうなんだろうね」

「ベトナム料理って日本でもよく見るし美味しいイメージあるけど、どうなんだろ。」

「東南アジアを何ヵ国か回った人のブログによると期待できないらしい。あそこのテーブルのを見てるとそんな感じしないけど」

例の宴会テーブルを見ながら私は言う。ワカナミも後ろを振り返り宴会親父たちを眺めた。すると彼らはまた「〜〜!」と何かを叫んで盃を交わしていた。乾杯である。

現地の人々のテーブル。左がおっさんたちの宴会席。

「何回乾杯するんだ、この人たち」

楽しそうなベトナム親父たちは再び乾杯をしてビールを飲んでいた。明らかに酔いが回ってきており、声も大きくなり笑い声が店中に響いていてとても愉快だった。

テーブルに運ばれてきた炒め麺。溢れんばかりの野菜が乗っている。

 ベトナム親父の乾杯を眺めていると料理が運ばれてきた。皿いっぱいに盛られた美味しそうな炒め麺だ。野菜もたっぷりと入っている。油っこさそうでボリューミーだが、夏のハノイの昼にはちょうどいい。

「おー美味しそう!」

「全然期待はずれってことはなかったね」

いざ箸を取り料理を口に運ぶ。我々の舌にも良く合う、しかしどこか南国風な味付けで癖になる。

「うーん!これは美味しい!」

「美味しいね」

9月16日の昼食。ビールが進む。

続いてチャーハンが運ばれてきた。こちらも皿いっぱいに盛られボリュームたっぷりだった。我々はそれぞれ皿に分けてチャーハンも口へと運んだ。こちらも炒め麺と同様に美味しかった。そしてビールが進む。我々は三杯目のビールをオーダーした。隣の宴会席では親父たちが何度目かの乾杯を交わしていた。この気候、この料理、このビールなら、なるほど何度でも乾杯ができるわけだ。

 食事を終えた我々は会計を済まし店を出た。会計は140,000ドン。日本円にして700円だった。ビールを合計6杯は飲んで二人でこの価格なので、かなりお手頃だ。料理も満足する味だったし、店の雰囲気も賑やかで楽しかった。

ハノイ駅

ハノイ駅へ続く道

 店を出て大きい通りを進む。銀行をはじめ高いビルが多く立ち並ぶ通りをまっすぐ進むとハノイ駅があった。「Ga Hà Nội」と書いてある。駅はベトナム語で「Ga」と言うらしい。今朝、我々が南寧ナンニンからたどり着いたザーラム駅は国際列車の発着駅ではあるが、ハノイの中心駅ではないらしい。中心駅はこちらのハノイ駅である。

ハノイ駅(Ga Hà Nội)

「ちょっと涼みに入ってみるか」

そう言うと我々はハノイ駅の駅舎へと足を踏み入れた。先ほどのレストランでは日陰に座りビールを飲んでゆっくりすることができたが、冷房がなかったので暑さからは逃れることができなかった。首都の中心駅なら冷房が効いており、待合室でゆっくりすることができるだろう。涼しい部屋でゆっくりスマホをいじり、今後の予定を立てよう。これが私の計画だった。

 駅舎に入るとその計画はたちまち崩れ去った。無機質な駅舎の中は椅子こそあれ、全く冷房が効いていないのだった。首都の中心駅でこの仕打ちには正直参ったが、みんな厚いことをさほど気にしていない様子だった。

「中、全然冷房効いてないな」

「奥に待合室とかあるんじゃないかな」

行き先表示や切符売場のある駅のエントランスから脇の通路を進んでみた。トイレも近くなっていたので、駅のトイレを利用することにした。トイレはごく普通の便所だった。我々は用を足し再び通路の探検へと戻った。どうやら他に待合室はなさそうだ。しかし、一つ面白い部屋を見つけた。卓球台がおいてある部屋があったのだ。何に使うのだろう。いや、卓球に決まっているのだが、駅で列車を待つ時間に卓球をする文化があるのだろうか。そうであるなら、もっと人の集まる場所においた方がいいのではないか。謎は深まるばかりだった。

ハノイ駅の奥にある謎の卓球ルーム

 入口のある大きな待合室で我々は次の行動予定を立てることにした。広い待合室には冷房こそないものの、首都の玄関口らしく椅子が大量に並べられていたので、座る場所を見つけるのは苦労しなかった。椅子に腰掛け、iPhoneでGoogle mapを開く。今いるハノイ駅から少し離れてはいるが、ホーチミン廟がハノイ市内にあることがわかった。近くにはホーチミン関連の史跡が点在しているらしい。東南アジア史に関心のある我々はここを次の目的地とすることにした。

「問題は、どうやってホーチミン廟まで行くかだな。」

「歩いて行くには少し距離があるもんね。」

「Google mapによれば、バイタクを使えば60,000ドンらしい。」

「300円か。それなら使ってもいいんじゃない。」

「ただ、もうドンが限られてるんだよな…。往復使う金は残ってない。」

ワカナミはほとんどベトナムドンを使い尽くしており、私の残ドンもそれほど多くはなかった。

「歩いて帰ってこれない距離でもないのか?」

「30分くらい歩けば何とかなるかな。時間あるし、行きだけバイタクで帰りは歩いて来るか。」

「そうしよう」


バイタクでホーチミン廟へ

 南寧ナンニンでは高値をふっかけられて断念したバイクタクシーだが、今回ハノイで使うことになった。そこらじゅうにバイクが走っているハノイではバイクタクシーを見つけるのは容易いことだった。駅の入り口に停まっていた一人のバイクタクシー運転手に声をかけ、値段交渉をした。ホーチミン廟まで2人で60,000ドン。「2人で」と言う点を強調した。朝のように人数の違いでぼられないようにするためだ。今回はぼられても出すお金はないので念入りに確認した。

 我々2人を乗せたバイクは軽々とハノイの街を走り出した。運転手・私・ワカナミの3人乗りである。30度超えの灼熱の街で前後を人に挟まれた私は正直不快感を覚えたが、バイクはスイスイと街を進むのでその不快感はすぐにやわらいだ。安全性はどうなっているのだろう。コケたら怪我するよな。怪我したら保険は効くのだろうか。さまざまな不安要素はあったが、運転手は無事にホーチミン廟まで我々を送り届けてくれた。

「Thank you」

そう言って約束通りの60,000ドンを運転手に渡すと、運転手は笑顔で手を振りまたハノイの街へとバイクを走らせ消えていった。

「無事着いてよかったね」

「ほぼ無一文になっちゃったけど」

「まあバスは取ってるし、時間も十分あるから大丈夫。」

広場の奥に鎮座するホーチミン廟

 ホーチミン廟はベトナム国旗がたなびく広大な広場の奥に建っていた。広場の周りには政府施設と思しき荘厳な建物が並ぶ。朝を過ごした旧市街、そして直前までいた中心街とはまた違った雰囲気を醸し出す界隈だった。そんな中、ひとりの日本人男性を見かけた。日本人かどうかはわからないが、日本のアイドルの名前が書かれたタオルを掲げて記念撮影をしている。ここはホーチミン廟、ベトナムの偉大なる指導者ホーチミンが眠る、いわば宗教施設の一つであるというのに、なんて不謹慎な日本人ヲタクなんだ。こうは絶対にならないぞと心に思い、彼を呆れた目で見つめた。

「金かかるくない?」

ヲタクを凝視していた私にワカナミが話しかける。

「無料ではないか。」

「入り口に金額書かれてるし、有料だね。」

「マジか。全然調べてなかった。向こうのホーチミンの家は?」

「あれも値段書かれてるね。」

わざわざバイクタクシーでここまで来たのに、肝心の入館料が手元に残っていなかった。目の前にホーチミンが眠っているというのに、彼を一目見ずにここから去らなければならない。少し残念な気持ちになったが、貧乏旅行のバックパック旅なので仕方がない。次回以降、ハノイを訪れた際のお楽しみとしよう。

ベトナム国旗とホーチミン廟。ここにホーチミンが眠る。

(続く)


旅程表
2018年9月16日 "我々の偉大な旅路" 3日目 ハノイ

6-4での移動 ハノイ駅周辺
6-4での移動 ハノイ駅〜ホーチミン廟

午後12時頃 ハノイ警察博物館 を見学

午後12時45分頃 クアン・スー寺 を見学

午後1時頃 Thiện Nga にて昼食

午後2時頃 ハノイ駅 で休憩

午後2時半頃 ホーチミン廟 に到着

(時刻はすべてハノイ時間)


主な出費

コーラ  10,000 ドン (屋台にて)
昼食代  140,000 ドン (Thiện Nga にて, 2人分)
バイタク 60,000 ドン (ハノイ駅 から ホーチミン廟, 2人分)


↑6-5 ハノイ編 続きはこちらから


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