弾丸ベトナム旅行の幕開け(我々の偉大な旅路6-1)
↑こちらのシリーズの続きです
↑友誼関編はこちら
中国の南寧を夕方に発ち、南方へと旅を続けた我々は、国境で一度起こされ出入国の手続きを経たのち、けたたましい音を立てる列車で眠りにつき、再びハノイを目指した。
南寧からハノイは300km少ししかない。国境が間に横たわっているいるだけで、東京から名古屋程度の距離、新幹線ならものの2時間でたどり着く距離である。寝台が備え付けられてるとはいえ、出入国の手続きが挟まる南寧ハノイ間のT8701次の夜行移動はそれほど快適なものではなかった。
ベトナム滞在は今日一日のみ。明日にはもうベトナムを抜けてラオスに入る予定になっている。弾丸スケジュールで落ち着かないが、短い時間でどれだけその地を楽しめるかもバックパッカーの腕にかかっていると思う。
おはようベトナム
目を覚ますと列車の窓の外はうすら明るくなっていた。車掌が車内を回って乗客を起こしている。車掌が我々のところへやってきた。乗車時に切符と引き換えにもらっていたホテルのルームキーのようなカードを車掌へ返した。南寧からここに至るまで我々と同じコンパートメントで列車の旅を続けてきたベトナム人女性は慣れた様子で荷物をまとめてコンパートメントを出ていった。
「おはよう」
下の寝台のワカナミに声を掛ける。
「もうすぐ到着か。あとどれくらい?」
「googleもつながらないから分からないな。時間通りならあと数十分かな。」
中越国境から繋がらなくなったiPhoneはハノイ近郊に来ても繋がらないままだっった。それもそのはず。私が香港から使用していたSIMカードはベトナムでは使えないのだった。
しばらくすると列車は止まった。南寧から友誼関を経た12時間の列車旅の末に、我々はハノイ・ザーラム駅へ辿り着いた。大きな荷物を持った乗客たちがぞろぞろと列車を降りていく。我々もバックパックを背負い列車を降りた。外はまだ青く暗かったが、他の乗客たちはそれぞれの目的地へ向かいどこかへ消えていった。
国際列車の駅にしては駅舎は驚くほど小さく、プラットホームに降りて線路を直に渡り門をくぐるとすぐに駅の外へと出た。駅舎の外では白タクの客引きが複数人待ち構えていた。我々を見るなり中国人だと思い込み、中国語で話かけてくる。相手にすることなく彼らがたむろする駅前をそのまま通り過ぎようとすると、SIMカードを売っている商店が目に入った。看板に漢字で「手机卡」と書いたあった。我々が近寄っていくと例によって中国語で話しかけてきた。価格を聞くと24時間のみ使えるSIMカードが10元だそうだ。人民元で購入できるらしい。私の財布を覗いてみると、ちょうど人民元は12元のみ残っていた。私は即決でそのSIMカードを購入した。
早速iPhoneのSIMカードを入れ替えると無事にベトナムの回線を使うことができた。私は6時間ぶりにインターネットの世界へと帰還した。
白タクシードライバー
我々がたどり着いたザーラム駅はハノイの中心地からはやや離れた位置にある。ザーラム駅から市街地へどうやって移動するかは全く決めていなかった。公共交通機関があるかどうかすらも調べていなかった。寝起きで頭があまり回っていなかったこともあり、大人しく駅前にうろついている白タクで市街地にあるホアンキエム湖へと向かうことにした。すぐ近くにいた白タクの運ちゃんは中国からやってくる客を相手に商売をしているらしく中国語が通じた。iPhoneの地図を用いてホアンキエム湖まで行くように頼んだ。
「50元だ」
まだ手持ちのドンがないので人民元で支払いできるのはありがたいが、50元─日本円で約800円は些か高い気もする。
「もう手持ちの人民元がないんだが...」
人民元はSIMカードの購入でほとんど使い切っていた。
「こっちはまだあるから出すよ」
ワカナミの奢りでタクシーに乗ることになった。やや高い値段だが、交渉をする気力もなかった我々は言われるがままに白タクに乗り込んだ。
白タクは普通の乗用車だった。駅を出ると白タクはやや埃っぽいザーラムの街を走り抜け、徐々に都心へと近づいていくに連れて人通りや車の交通量も増えていくのが車窓から見て取れた。街には世界的チェーン店のほか、日系のスーパーの看板も見かける。広い世界で自らの日常で見かけるブランドやロゴが普遍的に存在している事実は、安心感こそあれやはりやや興醒めな感じもする。
まもなくすると車が大河に差し掛かった。中国奥地の雲南省からトンキン湾へと流れる紅河だ。朝の大陸を流れる河川は穏やかであったが、その上に架かる橋はさながら都会の喧騒といった様子でひっきりなしに自動車やバイクが往来していた。
紅河を渡るとそこはハノイの旧市街だった。目的地のホアンキエム湖はすぐそこだった。ホアンキエム湖に近づくと朝の6時だというのに多くの人々が外に出て集まっている様子が見て取れた。外に出ているのはやや中年〜年配の方が多いが老若男女のベトナム人たちであった。興味を惹かれたのは、彼らが全員なんらかの運動を行なっていることだ。あるおっさんたちのグループは道路脇でサッカーをしている。あるおばさんたちは広場でヨガのような体操をしている。道ゆく人々も皆ジョギングをしている。
「今日なんかそういう日なんかな。体育の日的な。」
運動をしている市民たちを眺めていると、白タクが停まった。目的地についたようだ。
「谢谢〜」
ワカナミが財布を出すと、運転手は
「100元」
と言い出した。乗った時と話が違う。乗る時は50元と言っていたじゃないか。運ちゃんの言い分だと、それは一人あたりの金額。お前らは二人だからその二倍だということらしい。よくある話だが、我々は乗る際に二人で50元だということを確認していた。ただ、ジェスチャーに頼りすぎていて完全な意思疎通ができていなかったこちらのミスでもある。ワカナミは嫌な顔をしながら100元を払いタクシーを降りた。
ホアンキエム湖
タクシーを降りると、愉快な音楽がそこら中に爆音で鳴り響いていた。音楽に合わせて人々が体を動かしている。タンクトップを着たおっさんや軽装のおばちゃんたちが、音に合わせて道沿いでラジオ体操第一の"体を横に曲げる運動"をしている。
「そういう文化なのか、それとも今日だけそういう日なのか。」
「広場で運動するのは中国でもあるけど、ここまでの規模はなかなかないね。」
異様な光景に我々は困惑した。これがハノイの日常なのか、今日が運動の日なのかはわからなかったが、我々にとっては非日常で新鮮な光景であったことは間違いなかった。
喧騒の中をホアンキエム湖の辺りに向けて歩いて行く。ホアンキエム湖の周囲は遊歩道が整備されており、相変わらずジョギングを楽しむ人々が往来しているが、我々同様ゆっくりと散歩をしている人々もいた。このあたりは緑が豊かで、木陰を歩くと南方の熱気を忘れさせてくれるようでリラックスすることができた。
湖畔を散歩しているとほこらのようなものが建っていた。ベトナムに来てからは中国人向けの案内でしか目にしていなかった漢字が書かれている。門がいくつか並んでおり、門を通った先は湖に浮かぶ島へとつながっているようだった。なぜか我々はここを素通りし、そのまま湖畔の散歩を続けることにした。
ホアンキエム湖の周りを歩いて北の端までやってきた。ここは道路がロータリーとなっており、ロータリーの周りにはいくつかビルが建っており、中にはカフェやレストランが入っていた。ちょっとした広場のようになっているエリアのようだ。
湖畔の方から広場を眺めると、人々は右から左へと走っていく。一方通行ではないようだが、ランニングのルートはそのようになっているらしく、皆同じ方向を向いて走っていた。
「逆向きで走ってこいよ」
私がワカナミを唆す。ワカナミは言われるがままに逆向きにランニングを始めた。現地のランナーたちは特に気にすることもなく走り去っていく。私はその様子をiPhoneでビデオに収め笑った。高校時代から変わらぬ悪ふざけ癖が、高校から遥か4,000km離れたハノイの地で発動してしまった。
Cafe Long Vânで朝食を
ひとふざけ終わった我々は広場の向かいにあったレストランへと入った。ベトナムで初めての食事だ。レストランは”Cafe Long Vân”という名前のお店で、現地の人々というよりは観光客相手に商売をやっていそうな小洒落たお店だった。広場に面した壁はオープンになっており、開放的なつくりなカフェだった。
メニューを見るとベトナムのフォーがまず第一に目が入った。
「フォー食べたいな。せっかくだし」
「本場の食べたいよね。ん、でもサンドイッチも美味しそう」
次のページをめくると美味しそうなサンドイッチの写真が飛び込んできた。
「フォーは昼でも良いかな。こっちのサンドイッチが気になる。旧フランス植民地ということもあるのかな。だいぶメニューが豊富な気がする。」
ということで、ワカナミはスタンダートなフォーを、私はチキンのサンドイッチを注文した。フォーは昼までお預けだ。
店のWi-Fiが使えたので、注文がやって来るまでの時間をネットでの情報収集に費やした。ここから先は陸路でラオスを目指し、メコン川を遡上するようにゴールデントライアングルを目指す予定だ。現在地のハノイからラオスの首都ヴィエンチャンへは夜行バスが出ているという情報を前もって調べていたが、そのチケットを売っているバックパッカー向けの宿がこの周辺にあるらしい。その宿ではクリーニングや荷物の預かりなどの旅行者向けのサービスを一通り提供しているとのことだった、朝食を済ませたらその宿へと向かうことにしよう。
そうこうしているうちにワカナミのフォーが出てきた。日本でももう広く知られているベトナム料理なので珍しさはなかったが、本場のフォーはパクチーの香りが溢れ出ており、視覚だけでなく嗅覚でも食欲をそそるものだった。
「先食べていいよ。」
ワカナミはフォーを啜り出した。
「うん、うまい!」
うまそうにフォーを啜るワカナミを眺めながらサンドイッチの到着を待った。するとすぐに私のサンドイッチとコーラが目の前に現れた。
ベトナム感は薄いがしっかりと硬めのパンに包まれたレタスとトマトが美味しそうな朝食プレートだった。ワカナミはフォーを箸で啜っているが、ナイフとフォークでいただく。瓶で出てきたケチャップもたっぷりと使っていく。
「こっちもうまいぞ。」
フォーを選ばなかった後悔をも消し飛ばすほどの満足する味だった。徐々に暑さを増しつつあるテラス席で飲むコーラも美味い。広場の方を眺めると人々はまだランニングを楽しんでいた。
(続く)
旅程表
2018年9月16日 "我々の偉大な旅路" 3日目 ハノイ
午前5時40分頃 ハノイ ザーラム駅 に到着
午前5時50分頃 SIMカードを購入しインターネットに復帰
午前6時頃 白タクシーに乗車
午前6時〜7時 ホアンキエム湖 東岸を散策
午前7時頃 Cafe Long Vân にて朝食
(時刻はすべてハノイ時間)
主な出費
白タク 100元? (二人分)
朝食 不明 (Cafe Long Vânにて)
↑6-2 ハノイ編 続きはこちらから
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