竹澤光比古

どこかで途切れた物語を紡いでいます

竹澤光比古

どこかで途切れた物語を紡いでいます

最近の記事

これは余談ですが

あれは土曜日朝の一講目に割り振られていた。 課目名は哲学だったか倫理学だったか。 この先生は単位取得にはとても寛容で、あまり出席してしなくても大丈夫と言う記憶がある。 俺も土曜の朝から行く必要もなかったのだが、その日はバイトがない気楽さや、大学近くのホームセンターでペットの餌を買うのが俺の分担でもあったので、その授業を聴いてから餌を買って帰る事が多かった。 その2年前 高校は卒業したものの大学進学へのモチベーションは見出せず、親父がひとりで請け負っていた小さな電気工事

    • 私だけの0メートルの旅

      まあ、なんとかなるだろうと漫然と生きてきた人生。 明日は分からないけど。 以前『0メートルの旅』を書いた岡田悠さんが、旅の思い出をツイッターで募集して、それを参考に旅行記をつくる企画があった。 首都圏以外への旅行はほとんど行ったことがなかったが、面白そうだったのでハッシュタグ付きで自分だけの旅行記をツイートしてみた。 私はとても幸運の星の下に生まれた男なのか、経済的にも性格的にも家族や友人と飛行機で旅行するような機会はなかったのだが、乗ったこともないのに強度の飛行機恐

      • スローシャッター【読書感想注意報】

        発売になってからしばらく経つので、多少のネタバレもいいのかなと思い、まだ少し肌寒い仙台の夜に書いている。 ところで、永沢光雄というライターをご存じだろうか。 亡くなってしまったが、AV女優のインタビューをまとめた本がベストセラーとなった郷土の星だ。 もちろん郷土の星とまで思っているのは少ないかもしれないが。 彼はフリーになってからいわゆるエロ雑誌でAV女優のインタービュー記事を書くようになった。 内容はAV作品の素晴らしさとかではなく、少し暗い生い立ちや現在の想いなど、と

        • 父の背中

          毎月、というわけにはいかなかったけど、仙台から常磐線スーパーひたちに乗っていわき平競輪場に行くのが一番の楽しみだった時期があった。 あれは何年前だろう。 いつもの7時ちょっと過ぎのスーパーひたちでいわきへ向かった。 少し早めに帰らなくてはならなかった俺は、本命にした北日本勢の敗北を見届けて、急いでタクシーに乗りいわき駅へ向かった。 その時、「いわき平競輪場選手宿舎○○様可能な方お願いしまーす」という無線の声が聞こえてきた。 俺は電車の時間が気になってちゃんと聞いていなか

        これは余談ですが

          全部を賭けない、不純な純文学

          何より純文学という範囲が分かっていない。 だから純文学との比較での表現ではなく、令和に生まれた新たな不純な純文学と言いたい衝動に駆られている。 稲田氏の文章はすでにnoteで読んでいたのだが、いざ出版となった時にその新鮮さ、純粋な不純さが保たれるのかという余計な心配をしていた。 ところが紙の魔力と表紙の魅力に操られ、積読をライフワークとしている(するなよ)俺も、あっという間に読み終えてしまった。 これから読む人もいると思うので下ネタバレ、もといネタバレを防ぐ意味でもこれ

          全部を賭けない、不純な純文学

          喧伝会議賞

          大学を優秀な成績でギリギリ卒業し、就職に際しては特に望みもなく、当時苦手にしていた牡蠣ご飯が振る舞われた某社のグループ面接も必死に我慢して受けてみたものの、11月までどこも内定ももらえずにいた。 12月に入っていただろうか、何気なく新聞に載っていたとある団体の募集広告に目が留まり、面接に行ったらずっと野球の話で盛り上がり(母校が強いだけで、俺は高校までしか野球はしていないけど)、なんと内定をいただいてしまった。 ところが経理や会計の仕事は、肌で直接触ったわけではないけれど

          喧伝会議賞

          黒飴と3塁打。

          小学3年生の頃、なぜかタッちゃんはいつも僕だけ贔屓にしてくれた。 神社の神主さんの家に住んでいたタッちゃんは60代ぐらいだったのか。詳しくは分からなけれど、いわゆる自閉症または知的障害と言われる症状があり、神社にある広い空き地(通称神社グラウンド)で野球や鬼ごっこで遊んでいる子供たちをいつも𠮟りつけていた。 ただ、その子たちは神社グラウンドにおける「前科持ち」で、境内のガラスを割って逃げたり、賽銭箱に手を入れたりしていた子たちだった。 私はそんな子たちについていけず一緒

          黒飴と3塁打。

          読書感想注意報『読みたいことを、書けばいい』

          学生時代、読書とマラソンが大嫌いだった。 大人になってから沢木耕太郎のスポーツノンフィクション、永沢光雄のインタビュー本は読んだものの、いわゆる学生時代に読んでそうな文学書の内容はほとんど知らずに生きてきた。 とりあえず読みたいと思うものがなかったのだ。 たまに本は買ったりするのだが、いつも純情な感情でも3分の1も読めなかった。 ところが、家のオヤジはとても理解力のある人だった。 「読書感想文をどう書いていいか分からない」と訴えたら 「映画見りゃいいんじゃねぇか。楽だ

          読書感想注意報『読みたいことを、書けばいい』