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スローシャッター【読書感想注意報】

発売になってからしばらく経つので、多少のネタバレもいいのかなと思い、まだ少し肌寒い仙台の夜に書いている。

ところで、永沢光雄というライターをご存じだろうか。
亡くなってしまったが、AV女優のインタビューをまとめた本がベストセラーとなった郷土の星だ。
もちろん郷土の星とまで思っているのは少ないかもしれないが。

彼はフリーになってからいわゆるエロ雑誌でAV女優のインタービュー記事を書くようになった。
内容はAV作品の素晴らしさとかではなく、少し暗い生い立ちや現在の想いなど、とりあえずエロ雑誌の本来の目的とは逆のベクトルではあったのだが、書き方、手法はただのインタビューではなく、機知に富んでいた。

そんなエロ雑誌の片隅で地道に連載していた記事を、とある編集者が見つけ、それを本にしようと出版社探しから本人の許可を得ることまで東奔西走した。

その結果生まれたのがベストセラー『AV女優』である。

本人はまさか単行本になるとは考えもしていなかったようだが、これを僥倖と呼ぶ声には与したくない。

すぐれた才能は誰かが見つけてくれるのだ。

さて本題に入った記憶はないが本題に戻る。

田所敦嗣さんの『スローシャッター』はもともとnoteに掲載していた文章が単行本となった。

note掲載時から毎週更新が楽しみだったのだが、著者のことをほとんど知らなかったため、当初私とうちの相方も田所さんは何をしている人なのかで
しばらく盛り上がった。

さまざまな外国の地でのエピソードだったので
「田所さんは彼女がとんでもない富豪」
「冬はずっとスキー場で働いて貯めたお金で外国に行く」
「なんらかの事情で日本に帰ることができなかった」
「沢木耕太郎に憧れすぎた男」

などなど好き勝手に連想していたのだが、サラリーマンとして外国に出張して魚介類類の買い付けなどをしていると聞いて、自分の浅はかさを嘆いていた。

ただ、この本を読んで思ったことは、自分であれば仕事として出張したときにはその成果に一喜一憂するだけで、訪れた土地の良さや人間とのふれあいまで記すことは難しいだろうなということだった。

旅行いうのは基本的に自発的なものだが、出張は半ば強制という側面がある。
その環境の中で人との触れ合いや風景を頭にスケッチできるのは、やはり才能という他はない。

田所さんが単行本になるとは思っていなかったとしても、僥倖には当たらないと思うのだ。

タイトルの書体からこの本の隠された秘密を含めて、旅に出たいと思うのと同じくらい仕事を充実させたいと思わせてくれる本だった。

続編を期待することはコロナの収束も意味することになるのだろうか。
出会えて良かった。

追伸
あ、ネタバレほとんどなかったけど、ちゃんと読んではいますので。


■本橋信宏さんの永沢光雄さんへの追悼文です。お時間あれば。










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