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私だけの0メートルの旅

まあ、なんとかなるだろうと漫然と生きてきた人生。

明日は分からないけど。

以前『0メートルの旅』を書いた岡田悠さんが、旅の思い出をツイッターで募集して、それを参考に旅行記をつくる企画があった。


首都圏以外への旅行はほとんど行ったことがなかったが、面白そうだったのでハッシュタグ付きで自分だけの旅行記をツイートしてみた。

私はとても幸運の星の下に生まれた男なのか、経済的にも性格的にも家族や友人と飛行機で旅行するような機会はなかったのだが、乗ったこともないのに強度の飛行機恐怖症だった。

もう一生乗ることはないだろうと諦めて過ごしてはいたけど、正直引け目に感じていたのも事実。

ところがその半年後に国内ではあるが飛行機での出張が決まった。
断るほどの役職にいるわけでなく、それが中止になることだけを祈る日々が続いていたが、何かきっかけはないか、とはずっと考えていた。

ある日飛行機に乗る目的を探せばいいという、インスタントコーヒーにはお湯を入れる的な当たり前のことを思いつく。

まず「仙台から直行便のある海を渡らない国内」「絶対に2日連続休めそうな日」を先に確認して、その日に開催されるイベントを探す作業に入った。

なんとその日に大阪で大好きなMr.childrenのライブがあったのだ。

とはいえ超人気アーティストのアリーナツアー。チケットを取れるかどうかは分からなかったがチケット抽選申込してみた。

ここらへんの複雑さは分かってもらえなくてもいいが、この時ばかりは当たって欲しいような、当たらなくてもいいんだけどな、みたいななんとも形容しがたい心境だった。

抽選結果発表日。

<第1希望>
抽選結果 当選  

この瞬間からTomorrow never knowsな終わりなき旅のような人生のCROSS ROADが始まった(中3の英語の評価 5段階の2。英検3級不合格)。

公演日が近くなるほど、眠りが浅くなる。
ライブはめちゃくちゃ楽しみなのに、その前に飛行機に乗らなければならない。
1週間前に航空チケットを買ってスタバに入った後、何度も「新幹線でも行けるのになぁ」と考えたりもした。

正直、家を出てから搭乗までのことはあまり覚えていない。
当時は煙草を吸っていたので、ギリギリまで喫煙室にいたと思う。
なんとなく「飛行機はこんなに早く乗らなくちゃいけないのか」と思ったような記憶はある。

チケットを見せて通路を歩く。
おそらく気もそぞろだっただろう。
飛行機に乗り、座席に向かう時、整備士らしきスタッフさんがふたり、私に向かって笑顔で礼をしてくれた。
「〇〇〇〇〇〇〇」

なんと言ったかは覚えていないが、その笑顔を見た瞬間、フッと力が抜けた。

それだけは覚えている。

本当に、フッと力が抜けた。

恐怖感がなくなったわけではなかったが、家を出たときとは明らかに感覚が変わったのが分かった。

席に座り目を出発まで瞑る。フワッと飛び立つ時は恐怖感が戻った気がしたが、なぜかさっきのスタッフさんの笑顔を思い出して気が楽になった。

「そうか。そうだ。私は人を信用していないから必要以上に怖かったんだ」

地上の風景が消え、雲の上の人になった(という表現はおかしいが)時、恐怖感はかなり和らぎ、通路挟んだ知らないお母さんたちの明るいしゃべり声もあって、90分ぐらいなら大丈夫かもしれないと思うようになった。

大阪城ホールのMr.childrenは最高だった。
ライブ中、ふと出発の朝の自分を思い出して、少し泣いてしまった。

この日はまさしくTomorrow never knowsな終わりなき旅のような、人生のCROSS ROADとなった(くりかえし)。

あのスタッフさんには感謝してもしきれない。

「あの後、仕事で乗ることになった時も大丈夫でしたよ」
と伝えたい夜である。

追伸

趣旨とは違うよなぁ、と思いつつつぶやいたとき、『0メートルの旅』を編集した今野良介さんから引用リツイートが来て驚いた。

もしかすると万引きの話題と勘違いした「盗ってもいい」だったかもしれないし、ティファールの便利さを言うための「把手もいい」だったかもしれないが、いずれにしろ肯定的なリツイートだったのでとても嬉しかった。


そしてこちらが岡田悠さんの超大作『ワンダーラスト』

お楽しみください


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