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3.11の夜、知らないキリスト教会に泊めてもらった話

 2011年の3月11日、私は東急東横線で移動している最中に、地震に遭遇しました。東日本大震災です。
 乗っていた電車は、ちょうど大きめの駅に入ったタイミングで停車したので、車両に閉じ込められることはありませんでした。やがて大きな余震があり、車両が左右に大きく揺れて、あちこちで悲鳴も起こりました。

 その後はわりとみなさん冷静に運転再開を待っていたのですが、スマホで情報をつかんだ人から、東北で大きな地震があったらしい、首都圏の公共交通は全線止まっているらしい、という話が伝わってきました。

 私は、夕方に予定されていた仕事の会議が中止になり、あとは家に帰るだけ、と復旧を待つことにしました。しかし2時間、3時間と過ぎても運転再開の気配はなく……タクシー乗り場は長い列で、道路はひどい渋滞だという話がささやかれていました。

 目的地まで歩いて行ける人は少しずつ駅を離れていきましたが、私は家まで歩ける距離ではなかったし、横浜に移住してきてまだ5年ほどで、道も不案内。同行者はなく、ひとりでどうすることもできなくて、とても不安でした。
 救いは、同じようにひとりで立ち往生していた女性たちと情報を交換し、助け合えたことです。
 ひとつしかない丸椅子に、交代で腰かけて休んだり、日が暮れたあとは「お店が開いているうちに、何か食べておいたほうがいいんじゃないか」と話し合って、一緒に駅の外へ出てお店を探しておそばを食べたり。

 けれども、いよいよ夜、JRの駅のシャッターが閉まり、駅直結のスーパーが店じまいを始め、東横線も復旧しないでクローズするらしい、という事態に。すでに近隣のホテルは満室で入れないという話が聞こえていました。

 携帯電話のバッテリーは残り少なくなっていました。近くのお寺とか小学校とか、避難所はないのかな? と思ったのですが、そうした情報はキャッチできませんでした。
 悩んだ末、私は近くの教会を頼ってみることにしました。お寺のほうが他の人は抵抗がないだろうけれど、私はクリスチャンだから、キリスト教会に話をしてみよう、と。

 調べると、大きめの駅だったせいか周辺にはキリスト教会がいくつかあり、そのなかに私が当時通っていた教会と教派が同じところがありました。
 携帯電話はなるべく延命したかったので、公衆電話からその教会に電話をかけると、夜遅いのに、牧師が出てくれました。

 自分の名前と教会名を言い、帰宅困難になっていて駅が閉まりそうで困っていること、一晩、泊めてほしいことを伝えました。建物の中に入れてくれて、トイレが使えるだけで助かります、と。
「何もできないけれど、どうぞお越しください」
 即決で、牧師はそう答えてくれました。会ったこともないし、私が信頼できる人間かどうか全然わからないのに。
 さらに、同じように困っている女性が複数いるので、連れて行っていいかと尋ねると、快諾してくれました。

 周りにいた女性たちに声をかけ(キリスト教と聞いてはじめは戸惑っていましたが、みなさん自分の意思で行くと決めました)、それぞれ飲み物や食べ物を買って5~6人でその教会に伺いました。牧師は何もできないと言いながら、自由に使ってくださいと集会室のような部屋を開けて、毛布とラジオを貸してくれました。

 見ず知らずの人間を、夜中に建物の中に入れるのは、勇気がいることだと思います。でも牧師は、私たちを信じるという決断をしてくれたのです。

 その部屋には礼拝で使う長椅子があり、身体を横たえることができました。安全な場所で夜を越せる、そう思えたおかげで、不安だけど何とかなるさという気分になれました。
 ラジオで情報を収集しながら、私たちは「何かあったら起こすから」と交替で眠り、はげまし合って一夜を過ごしました。朝にかけて公共交通機関の復旧の知らせが入ってくると、ひとり、またひとりと、教会に感謝して帰路につきました。

 お名前も連絡先も知らない、行きずりの人たちです。でもあの夜、彼女たちが一緒にいてくれて、とても心強かった。また、「自分のほかにも困っている人がいる」と思えたから、私も、知らない教会に泊めてほしいと頼む勇気が出たのだろうと思います。
 あの日助け合えたみなさんと、泊めてくれた教会のみなさんに心から感謝しています。

 そして、私は学びました。
 困ったときはひとりで抱えず、まわりに働きかければ助け合えることもある、と。自分から助けてほしいと言うことで、自分もまた誰かの助けになれる場合がある、ということを。
 社会が動揺しているときほど、それを忘れずにいたいと思うのです。



◇写真は、みんなのフォトギャラリーから、scoop_kawamuraさんの作品を使わせていただきました。ありがとうございます。

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