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詩|短篇小説

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ひさしぶりに詩を書きたくなりました。昔はよく詩で表現していたのに、しばらく散文ばかりで。これからはまた、自然にことばを紡いでいけたらと思います。散文詩的なごく短い読み切り小説も、… もっと読む
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#ポエム

夜の森

小さな森のほとりに住んでいる 夜、部屋の灯りを消して 窓から森をのぞくひとときが好きだ 青く黒く揺らめいている 夜の森を おそろしい? そう、私の中のおびえすらも ありのままに浮き上がらせる 夜の森の公平さ 鏡のような深さが好きだ 私をありのままに受けとめて 青く黒く揺らめかせ 命の波動の中で癒やしてくれる 見上げれば漆黒の木々の葉 その上には濃藍の空 銀色にきらめく星々 地上の闇の奥からは 無数の命がうごめく気配 眠ってなんかいない 虫も、けものも、他のものも 草や木は

いまこの瞬間を愛するということ

どうしようもなく 不安におそわれるときがある はるか昔の出来事が 心に深い爪痕を いくつもいくつも残していて ふさがらない 地割れのような隙間から ゆらゆらと 不安の煙が立ちのぼってくる 理性で考えれば目の前の状況は そんな危機的ではないというのに 苦手という意味でなじみ深いひと言や かすかな気配 映像 音 それらが古い傷をひとなですると 不安の煙がゆらゆら ゆらゆら 私の心を濁していく それはもうしょうがない 目を背けるのはよそう かわりに煙が出てきたら 対抗手段として

魂を休ませる

がんばり続けなくてもいいんじゃないか 休み休みでいいんじゃないか そんなふうに自分をゆるしてみたら 息がしやすくなりました 「もっと」とか 「早く」とか 「きちんとしなくちゃ」とか いつもいつもじゃなくていいよ そういう力は 必要なとき、必要なところで 発揮すればいいのだから むしろ ここぞというときに使えるように ふだんから使い過ぎないことも 大事だと思うのです 自分自身が 擦り切れてしまわないように 私にとって いまは魂を休ませるとき あとでもいいことはあとにして

涙はどこから生まれてくるの

こころの奥のかなしみから どうしようもない出来事の もう変えようのない記憶から 涙は生まれてくるのでしょうか それはもうここにはなくて 手をふれられない 届かないもの なのに涙は湧いてくる どうして涙は生まれてくるの くやしさ にくしみ 後悔とやるせなさ うずまく負の感情を 洗い流してきよめるために 焼けただれた大地を潤し ふたたび命が芽生えるように 涙は湧いてくるのでしょう こころの奥のかなしみの その奥にある不滅の泉 いつも静かに波打っている 愛という名の泉から

ゆるめる

こころもからだも ゆるめるときがあっていい ちからを抜いて ただぼんやりと いま生きている そのことだけを受けとめる ぎゅっと握り締めた 心配事があるとしても いまだけはその手をゆるめて ほんのちょっとの時間でいいから 荷物を降ろして横に置こう だいじょうぶ 休んだっていいんです むしろ ふたたび立ち上がり 艱難辛苦に向き合うために 自分をゆるめる そのひとときが必要です ◇見出しのイラストは、みんなのフォトギャラリーから chona_illustさんの作品を使わせてい

プラチナ

たとえばいつかこの世を卒業したとき たましいだけの世界にいくとしよう 悲しみも苦しみもない 愛だけの世界 やすらぎとよろこびに満たされて 時間をも超越できる 永遠の世界 たましいだけで 愛だけで 存在できたら 満たされて やすらいで 何もかもすべて良し そんな気分になれるだろう 想像してみた そのときを そうしたら 不思議なことに この世のすべてが愛おしく 尊いものに思えてくる まぶしい光に目を細め 頬に受ける陽射しのあたたかさ 耳をすませば 木々と風、小鳥が同じリズム

愛について

愛がほしい、と望むときは 愛するものを数えてみる 青い空を愛していないか 清らかな泉を愛していないか みずみずしい木々の緑を 花の香りを 小鳥たちの歌を愛していないか 星の光を 夜のしじまを 遠い昔に出逢ったあの人を 草や葉がかすかに触れ合う音を やわらかな猫の毛並みとぬくもりを わたしは愛する、愛している たくさんの愛しいものへ 愛はわたしの中からあふれてくる 愛がほしいなんて、思うことないんだ 愛はわたしの内にあるんだから こんなにもいきいきと だけどそれでも 愛がほ

心の音

あなたのそばで 目を閉じたら 小さな鼓動が 聞こえたよ トクトクトク やすみなく響く 命の音 生きているあかしだね あなたのだと 思っていたのに 実はわたしのだったみたい 暗闇にずっと響いてる この音が絶えるとき この世での生は終わり 天に召される 生きる 生きよう 生きたいんだと 心の音が鳴っているよ いま 地上で 生きていること 生かされていること 楽しもう 命のときを この音が 続くかぎり 生きていることを楽しもう 生きる 生きよう 生きたいんだと 心の音が鳴

涙とともに種を蒔く

泣きながらでも わたしは前にすすんでいく その先に ほほえみが 待っているかもしれないから ◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから kuwagatg_bassさんの作品を使わせていただきました。 ありがとうございます。

心はずっと痛かった

やわらかいふわふわした布のようなもので そっと包んで触らないようにしているけれど 心の奥の心がずっと痛い 子どものころからずっと 焼けただれたみたいになってひりひりしている ことばの矢とか激烈な感情とか そういった負のものをぶつけられすぎて たぶんもう、もとには戻らない そんな焼け野原が 心の奥にずっとある ふだんは奥の奥の静かな湖の底のような場所に そっとしまって触れないようにしているけれど 痛くないわけがなくて たんに痛みを抱えながら 生きるのになれてきただけ 心が揺

詩|手

今日を生きていることが あたりまえではないのだと 流れてくるニュースが くり返し示す それでも空は ゆるぎなく澄んでいて 私が顔を上げさえすれば そこに広がっているのだった 人の営みにかかわらず この世界は 圧倒的なまでに美しいのだと 気づかされ、ただ 立ち尽くす 無力さを 思い知り だけど 人はその手を 人にさしのべることだって できるのだから 善を信じる心を あきらめてはいけない ◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから 鍬形( kuwagatg_bass

風はつながっている

今朝の風がそうだった 記憶のどこかに存在している 遠い時空につながっている そんなふうに感じる風 この匂い この音 この温度 いつだって風は新しいはずなのに かつて知っていた そんなふうに感じる 過去の1点と いまを結んでくれる 〝ここではないどこか〟に あこがれていたあのころ つらい環境から脱出したくて 未来へ希望を託したあのとき この風は吹いていた ――連れて行って ――おいでよ、自分で それがどこなのか いつなのかは 知らない けれど 大切なのはきっと 知ること

時々 思い出すときがあるの どうしてって…… あのころ もうすこし 大人だったら あの人と 私 絶対わかり合えたはず そう信じたいの 風の向こうに 鮮やかな きらめきを残して ◇高校生の頃に書いた詩です。35年ほど前……当時はスマホもインターネットもなかったから、友人たちとは、家の電話(うちはまだダイヤル式の黒電話でした)や、手紙でやり取りしていました。この詩も、大学ノートに手書きでつづっていたものです。いまとなっては、この詩を書いていた「あのころ」も、風の向こうのきらめき

生きる

生きることって 何ですか 生きることとは 何かにぶつかって 心の底から いたいとか 苦しいとか 悲しいとか うれしいとか 感じること 何かに 感動すること そして 愛すること…… ◇中学1年生の時に書いた詩です。40年近く前の私は、こんなことを考えていたんだなあ……当時は1日1編、ノートに詩を書き留めていて、いま読み返すと新鮮です。この作品は、谷川俊太郎さんの有名な詩『生きる』に触発されて書いたのかもしれませんね。