いまこの瞬間を愛するということ

どうしようもなく
不安におそわれるときがある
はるか昔の出来事が
心に深い爪痕を
いくつもいくつも残していて
ふさがらない
地割れのような隙間から
ゆらゆらと
不安の煙が立ちのぼってくる

理性で考えれば目の前の状況は
そんな危機的ではないというのに
苦手という意味でなじみ深いひと言や
かすかな気配　映像　音
それらが古い傷をひとなですると
不安の煙がゆらゆら　ゆらゆら
私の心を濁していく

それはもうしょうがない
目を背けるのはよそう
かわりに煙が出てきたら
対抗手段として
いまこの瞬間、ここにある
愛しいものを数えよう

ふわふわの猫の毛並み
優しくてあったかいその体温
道端に花が咲いていて
緑がみずみずしく輝いていること
風の中にある海のにおい
遠くから子どもたちの遊ぶ声が聞こえること
蛇口をひねるときれいな水が流れるということ
今夜、眠れる場所があること
「お疲れさま」「ありがとう」
「おはよう」「元気でね」
何かしら言葉を交わせる人がいること
天にはいつも神さまがいて
そのひとり子はインマヌエル
私はひとりではない、と信じられること
私は息をしていて
胸には鼓動があって
いま生きているということ

この瞬間を
私自身が愛さなくてどうするのか
愛してる　愛してる　愛してる
愛すれば愛するほど
愛は愛をあつめてくれる

愛することは心の窓を開けること
きらきらした清いものが入ってきて
煙と闇を流し去ってくれるしょう

◇見出しの写真は、みんなのフォトギャラリーから
devaagni2000さんの作品を使わせていただきました。
ありがとうございます。