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働き方を変える集合住宅──どこでどのように働くか,どのように家を所有して時間を使うのか(隈研吾×乾久美子×藤本壮介×池上一夫)【第12回 長谷工 住まいのデザイン コンペティション募集中!】

第12回を迎える「長谷工 住まいのデザイン コンペティション」は,2007年に長谷工コーポレーション創業70周年を記念してスタートしました.
これまで建築を志す多くの学生に集合住宅にまつわる課題に取り組んでもらい,前回の第11回「空き家とつながる集合住宅」では,集合住宅と空き家をつなぐ新しい提案をしてもらい,集合住宅のあり方を考えてもらいました.
12回目となる今回は,明治大学専任講師の門脇耕三さんにもゲスト審査委員として参加していただきます.
開催に先立ち,今回の課題や,今,集合住宅をどう考えるかなどを審査委員の方がたに話し合っていただきました.(編)
※撮影:新建築社写真部

応募要項

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目次
●求められる建築のあり様
●働くことと密に繋がるマンション
●これからの時代の家とは何か


求められる建築のあり様

──前回のコンペはいかがでしたでしょうか.また,今回の課題はどのようなことをテーマとして考えるべきでしょうか.

隈  日本では敷地が与えられてから建築の設計が始まるという考え方が根付いており,西欧のように都市計画を前提として,それに続くかたちで建築が存在するという考えはあまり広がっていません.
前回の「空き家とつながる集合住宅」では,新たにつくる集合住宅が周辺の空き家をきっかけとして街と繋がっていくという提案をしてもらい,都市に対する眼差しを持つ応募案が多く,よかったです.また,空き家という既に都市に存在するものを合わせて考えることで,建築とは形や空間のデザインだけではなく,時間のデザインでもあるということも意識できたのではないでしょうか.

審査委員長:隈研吾(隈研吾建築都市設計事務所代表・東京大学教授)


池上  私はモビリティをテーマとした案が印象的でした.
生活が敷地内で完結するのではなく周辺を含め,住民が移動しながら生活することで営みが外へと広がっていく.そのきっかけを空き家がつくるというアイデアに共感しましたし,これからの時代を見据えた提案だと思いました.


  集合住宅の提案のみならず,周辺の空き家を保存して活用するという不動産的な開発側面と,その反対の空き家保存という都市での取り組みを結びつけるテーマとしましたが,面白いアイデアが多かったですね.
課題自体が提案的なものだったので,それに共感した学生が多く応募してくれたのではないでしょうか.

第11回「空き家とつながる集合住宅」最優秀賞作品
「+1000歩の回り(めぐり)合い」 
前田佳乃 田中彩英子 大岡彩佳(東京理科大学)

藤本  そうですね.集合住宅が街に溶けていくような,街との関係性をどう築くのかということが,ここ数年の隠れたテーマになっていました.
空き家を考えることは,まさにそれを考えるきっかけになったと思います.しかし,それさえ考えればよいと思ったのか,新しくつくる建築の形態がおざなりになっている案が多かった印象もあります.
審査委員が考えさせられるような面白いアイデアを提案していても,肝心な建築のデザインをしていない応募案が見受けられました.応募する学生も「建築をつくらなくてよいのか? いや,やっぱりつくる必要があるな……」という葛藤が,案として現れているように感じました.


  最近の学生は,建築の空間や形態に関心があまりないのかもしれません.
私はそれを建築の料理化と言っているのですが,すごく美味しい料理を食べることよりも,仲間と一緒に楽しく食事をすることが満足のいく食事であると考えるように,体験を重視する考え方は,最近の学生や若い建築家に見られる傾向ではないかと思います.


  かたちをつくることを避ける学生が多いのは事実です.大学の課題やアイデアコンペを見ていると,大屋根を架けてその下を中間領域とするような,建築のかたちがあるのかないのか微妙な案を多く目にします.その気持ちも理解できますが,われわれ建築のつくり手はちゃんとかたちをつくる必要があるということに気付いてほしいなと思います.



働くことと密に繋がるマンション

審査委員:池上一夫(長谷工コーポレーション 取締役専務執行役員)

池上  昨年,国内の中古マンション販売数が新築マンションを上回るようになりました.
今後それがさらに拡大することが予想されるため,新築する集合住宅はハードをしっかりとつくった上で,手を加えやすい建築をつくる必要があります.

さらにそこに適したソフトも考えなくてはいけません.最近ではネットショッピングが当たり前になりましたが,テクノロジーがさらに発達すれば,例えば住宅にセンサーを付けることで住人の健康状態が管理できるようになったり,必要な薬を自宅に届けてくれるサービスなども可能になるかもしれません.テクノロジーが進化することで人の暮らしも変化していくように思います.また,最近,働き方改革が謳われていますが,これからはテレワークがもっと盛んになるでしょう.
そのような状況では,「ここに住む」という従来の定義が変わっていくのではないでしょうか.住宅を所有するのではなく,移動しながら,場所を利用して生活するようなライフスタイルになるかもしれません.


  生活に変化は起こるでしょうね.
以前からホームオフィスやシェアオフィスなどは話題になっていましたが,昨今の働き方改革は社会の問題で済ませるのではなく,自分の問題として捉えることが必要です.
自分はどこでどのように働くのかと考えることで,従来とは異なるパースペクティブを持つことができるかもしれません.


  『「シェア」の思想/または愛と制度と空間の関係』(LIXIL出版,2015年)では,明治大学専任講師の門脇耕三さんがより大きな視点で「シェア」することの意味と可能性を考えていて,いわゆる「シェア」の話だけに留まらず,働き方や社会制度が変化した時に,住空間や都市空間の使い方はどのように変わるのか,建築家の設計はどのように変わるのかが論じられています.

また,集合住宅そのものも働き方と密接に繋がっているビルディングタイプですね.
生産効率を上げるために働く場と生活の場を分離し,郊外住宅地や集合住宅地のような,住宅だけを集合させる建築・都市の形式を開発してきたわけですが,そこで考えられていた生産効率というものが,現代が求めるものとずれてきているように思います.
その歪みが働く場にも,生活の場にも現れてきていると考えるとすると,働き方の改革だけを標榜しても意味がないことなのかもしれません.つまり,働き方が変化した時に集合住宅を問い直すことはとても真っ当なことで,面白そうなテーマです.

審査委員:乾久美子(乾久美子建築設計事務所代表・横浜国立大学大学院Y-GSA教授)


池上  郊外に集合住宅を買い,そこから都心に通勤し,働いて自宅に帰るという今までの働き方と共にあった集合住宅が,働き方が変わることでどのようになるのでしょうか.先に述べた敷地を超えた生活のあり方があり得ると思うのですが,その時に都心から離れた郊外の存在がポジティブに考えられるのではないでしょうか.


藤本  課題としては,集合住宅という枠組みを崩していくような方向性でしょうか.シェアハウスや民泊のように建築を,人がずっと生活するものとしてではなく,一時的に滞在し通過していくものとして考えることもできるかもしれません.しかし,アイデアだけに留まらず建築のかたちに繋げて考えてほしいですね.


  従来の集合住宅は,頑張って働いてお金を貯めて買ったり,ローンを組んで買うというように時間とセットで考えられていました.その両方がどのように変わるのかも考えると面白いと思います.
流動的に生活をすることを前提として,従来のような家の買い方はせずに,1年のうち半分は働いて,もう半分は違う暮らし方をすることだってあり得るでしょう.自由にこれからのライフスタイルを考えてほしいです.
最近では,都心に家を持ちながら地方にマンションを買う人も増えていますよね.それも今までの働き方やライフスタイルとは異なるものだと思うのですが,既に家の所有の仕方が変わりつつあるのです.


藤本  学生の大半はまだ社会人として働いた経験がないと思うのですが,まだ働いたことがないから故に,自由な発想に期待したいなと思います.
今までの20世紀的な型にはまった働き方やライフスタイルではなく,これからの可能性を示してほしいです.それを考える具体的なヒントは既に世の中にいろいろとあって,それらと実際の設計がどのように繋がっていくのかを考える意義はあると思います.


  それでは今回のテーマは,「働き方を変える集合住宅」にしてはどうでしょうか.
海外の大学・大学院では一度社会に出て働いてから学ぶという人が半数ぐらいいることが当たり前ですが,日本ではわずかです.こうした大学の状況も,日本における働き方が影響していることは間違いありません.
例えば,働くことと学ぶことが分離しているという日本の常識を「異常」だと仮定してみることからスタートすると,学生のみなさんにとっても自分ごととして考えることができるようになるのではないでしょうか.



これからの時代の家とは何か

隈  働き方を変える集合住宅はよいテーマですね.これからは時間の使い方が変わるということが大事です.
極端な言い方をすると,これまでの集合住宅とは会社員が仕事から帰って来て,次の朝まで過ごすことを想定してつくられたものとも言えます.しかし,これからはそのような時間の使い方ではなくなるのです.働き方が変われば,昼間にたくさん人が滞在する集合住宅もあり得るでしょう.
それは一体どのような建築なのでしょうか.時間の使い方が変われば,きっと建築も変わるのだと思います.

池上  働き方を変えるということは,働いている時間だけではなく,仕事をしていない時間,つまり家での生活を含めて総合的に考えるということですよね.
これからの住宅とは,所有するのではなくシェアする可能性もありますし,所有した場合でも誰かと共有するということだってあり得ると思います.

審査委員:藤本壮介(藤本壮介建築設計事務所代表)

藤本  働くことが生活とは切り離されたものではないということですね.働くことも生活の一部で,働く以上はさまざまなもの(建築など)やこと(働き方,時間の使い方,家の所有の仕方など)と関係を築いていく必要があります.働き方を変える集合住宅とは,広くて深いテーマだと思います. 


  このテーマだと敷地を都心としても,一般的な郊外としても,つまらないように思います.
環境がよくて,でも都心に割と近いような場所だと面白いかもしれません.そのような場所だと,わざわざ都心まで通勤するということを前提にしなくても考えられそうです.働くこともできる,生活もできる,そうした場として想像をかきたてるのではないでしょうか.


隈  そのような地域では,土地が比較的安く手に入るため都市農業をやっている人もいますが,職業自体を選択的に考えることもできるかもしれません.
働く方法が変われば,家を所有する方法も変わるでしょう.住宅にオフィス機能が付随するということだけではなく,家そのものの仕組みが変わることを想定してほしいですね.家の買い方や仕組みが変わるので,これからの時代の家とは何であるのかということから考える必要があるでしょう.

──では,今回は「働き方を変える集合住宅」に決定します.
(2018年5月15日,長谷工コーポレーションにて,文責:本誌編集部)



テーマについてゲスト審査委員の門脇耕三さんからのコメント

都市における地縁的なコミュニティを,建築によって形づくり,その建築が都市の骨格を形成する
―近代的な集合住宅とは,端的にはそのような構想でしたが,その根底には,社会主義的な共同体思想が横たわっていました.
社会主義は,言うまでもなく20世紀に資本主義と鋭く対立した考え方ですが,この対立の構図が崩壊し,資本主義だけが一方的に延命した現在,都市型の共同体を夢見た「集合住宅」という構想も,同時に挫折しかかっています.
経済的な合理性によってのみ形づくられる住宅の集合体は,かつて夢想された意味での「集合住宅」ではあり得ないのです.

だとするならば,現在の日本の社会情勢下において,集合住宅はまったく新しく発明され直されねばなりません.これは理論的に考えるかぎり,社会思想にまでおよぶ極めて重い問いですが,だからこそ,具体的に提案することには可能性があるはずです.働き方の変革を考えることは、もちろんその近道に違いありません.
この重苦しい問いを軽やかに乗り越え,未来の人間の生き方を指し示すような提案を期待しています.




登録・作品提出締切は2018年11月13日(火)必着!

皆様の応募をお待ちしております!
※送付のみ受け付けます.バイク便不可

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20世紀型の集合住宅は,郊外のベットタウンから都心に働きに出ること,また,住宅ローンによって購入するなど,働き方とセットで規定されたビルディングタイプでした.しかし,昨今,長時間労働,少子高齢化に伴う労働人口の減少,保育や介護との両立などの問題が生じ,働き方が社会問題となってきました.
一方,中古マンションの販売数が新築を越え,ストック型へのシフトが顕在化し,シェアハウスや民泊など,シェアという概念も現れてきました.これらは個別の事象のようですが,これまでの閉じてきた系を開くという,大きな局面に立つ,同じ背景を持っています.
そうした時,個人が自分のこととしてどのように考え,働き方を変えるのかということは,建築に対しても批評性を持ったテーマとなるでしょう.どこで働くのか,どのように働くのかということを超えて,どのように所有するのか,どのように時間を扱うのか,ということまでを考え直すことができるからです.そうした,働き方を変える集合住宅とはどのようなものでしょうか.
敷地は経済的に自立しており,衛星都市として依存していない,環境のよい近郊都市です.そこに50戸(容積率200%)の集合住宅を想定してください.さまざまな社会の変化の中,働き方を変える創造的な集合住宅の提案を期待します.



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