絶望で咲く「何か」もある。〜『絶望名人カフカの人生論』〜
こんにちは。桜小路いをりです。
先日、カフカの『変身』と、てにをはさん提供の「25時、ナイトコードで。」の楽曲「ザムザ」の考察記事を出しました。
あれから、カフカ自身の人生についてもとても興味が湧き、早速読んだ本があります。
それが、頭木弘樹さんの『絶望名人カフカの人生論』です。
今回の記事は、この本のご紹介になります。
最初に書いておくと、いつもの私の記事とは、少し趣向が違うかもしれません。
普段は「ネガティブなことは書かない」をモットーにしているのですが、なにぶん、今回ご紹介するカフカはとてつもなく「ネガティブ」な人なので。
それでも、本書でも語られている通り、「人生にはカフカの言葉が必要なときがある」と私も思います。
ぜひ、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
『変身』で有名な、現代実存主義文学の先駆者カフカ。
カフカって、実は壊滅的にネガティブな人物なんです。
傍からちょいっと見たら、比較的穏やかで当たり障りのない人生を歩んでいるようなのに、その心の中には、いつも絶望がありました。
その絶望ぶり、ネガティブぶりといったら、きっと誰にも敵わない、と言い切れるほど。
例えば、本書の前書きではこんな言葉が紹介されています。
将来のことだけではなく、こんな日常的なことにまでも。
いや、大丈夫だよ! と思わず励ましてあげたくなるような、なんとも暗い言葉ばかり。ここまでネガティブだと、一緒にずーん……となるどころか、むしろ笑えてきてしまいます。
こんなにありとあらゆることに絶望しきって、生きづらかったのでは……とすら思いますが、カフカは、小説やメモ、手紙の中で数々の「絶望の名言」を綴りながらも、結核で亡くなるまで、自ら命を絶とうとしたことはありません。
前書きでは、カフカの親友がカフカに書き送った、こんな言葉も紹介されています。
ありとあらゆることで絶望して、それを自分の外に吐き出しながら生きていたカフカ。
その言葉の数々は、絶望の中で読めば暗闇の中で寄り添ってくれているように感じるし、そうでないときに読めば、くすりと笑えてくる。
いつでも、どんな人の心にも、必ず「痕」が残るような。
私は、私の人生の1ページにこの本が在ることこそ、「救い」になるんじゃないかと思います。
時には落ちるところまで落ちることが、救いになることもある。
そこから見上げる光は目に痛くて、ただ闇の中で目を閉じていたいこともある。
あの日、感じた絶望も。
これから感じるかもしれない絶望も。
この本は、「全部、無駄じゃない」と肯定してくれる気がします。
私は、「『絶望』って私の人生に何度あったかな」と、この本を読みながら考えてしまいました。
その時々では「絶望」だと思っていたけれど、そこを乗り越えた先の今現在では、特に「絶望」だと感じていないことが多い気がします。少なくとも、私の人生では。
でも、だからって、あの日確かに感じた「絶望」がなくなるわけじゃないし、あの日急に真っ暗闇に突き落とされたように思った事実は、なくなりません。
ならば、それを素直に受け止めて、感じたことのある「絶望」の欠片も、全部箱に詰め込んで、抱きしめて生きていきたいなと思います。
もしかしたら、いつかまたどこかで、もう一度「絶望」に突き落とされる日が来るかもしれないから。それが起こるのは、ミルクのコップが目の前で砕け散るくらいの確率かもしれないけれど。
でも、もしそのときが来たら、私は、暗闇に転がったままの「あの日の絶望」に、「また会えたね」と笑いかけられるくらいの人で在りたいです。
せっかくの「絶望」なんだから、カフカみたいに、そこで吸収できるものは全部吸収したい。そのくらい、強かでいたい。
そんなふうに思う私は、実は、同じく頭木弘樹さんの著書『絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ』で、カフカと対照的な存在として書かれているゲーテと、同じお誕生日です。
対照的だからこそ、私自身、どこか惹かれるところがあるのかな、とも考えています。
本書では、この記事で抜粋した言葉の他にも、カフカの生涯について易しく紐解きながら、様々な「絶望の名言」がたくさん紹介されています。
個人的に感動したのは、カフカの遺稿や手紙が発表された裏側に、カフカの親友や元婚約者の尽力があったこと。
この2人は、ナチスのユダヤ人迫害に脅かされながらも、カフカの遺稿や手紙を手放さずに守り抜き、結果的に今、私たちが彼の言葉に触れることができています。
それがどれほど尊いことか、胸がいっぱいになりました。
『絶望名人カフカの人生論』、ぜひお手に取ってみてください。
その絶望ぶりに励まされた、ある意味で読者と同志である著者の言葉で紐解かれるカフカ。
それは、誰よりもネガティブで、でも誰よりも人間くさい人物です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 私の記事が、皆さんの心にほんのひと欠片でも残っていたら、とても嬉しいです。 皆さんのもとにも、素敵なことがたくさん舞い込んで来ますように。